教員紹介(社会福祉領域)

社会福祉領域:山口みほ先生

ソーシャルワークや医療福祉がご専門である山口みほ先生にお話をうかがいました。

—山口先生が研究に興味や関心をもったきっかけは?

 医療機関という現場で長くソーシャルワークをやっていました。そこで勉強会をやっていたのですが、忙しくなってそれもなかなかできなくなってきて…。自分が現場で行ってきたことを何か形にしてみたいと思ったことが研究の世界に入ったきっかけです。

―山口先生は本学の大学院の修士課程に入られています。大学院に入ったときに印象や思い出とかありますか?

 修士課程のときに同期の院生たちと研究についていろいろ話し合ったことは楽しかったですね。加えて、研究を進めていく上で現場の協力を得ていたので、現場に何かを返さないといけないという気持ちを持ちました。また、この研究を途中でやめるわけにはいかないとも思いました。

―山口先生はどのような研究をしていますか?

 広くはソーシャルワークということになると思います。具体的なテーマとしては 薬物依存症, 嗜癖問題,スーパービジョンについて関心があります。薬物依存症は精神保健福祉、更生保護、司法福祉ともつながるので、広がりのあるテーマです。どちらかといえば当事者に寄り添うテーマに関心があります。

―日々の大学院での院生指導や院生の変化や成長について感じることはありますか?

 大学院のプログラムの中で刺激を受けて、修士論文のテーマを設定される方がいました。社会福祉領域の1年生のフィールドワークに参加して、それまでご本人が考えていた修士論文のテーマを変えて、そのフィールドワークで経験したことを研究テーマにしていったのです。みなさんテーマを持ちながら大学院に入ってこられると思いますが、大学院に入って新しいテーマを見つけていくこともあります。院生の学びを直接感じることができたので印象に残っています。

―本大学院は現場と研究をつなぐことを重視しています。そのことの意義についてはどのようにお考えでしょうか?

 研究という自分の足場を持つことによって、自分が勤務している現場だけでなく、いろいろな現場の話を深く聞くことができます。研究に協力して欲しいということがきっかけで、新しい現場とつながっていくことができます。加えて、保健医療福祉の分野は現場と研究がともに協力しながら取り組んでいけます。この点も研究の楽しさや意義につながるかなと思います。

―最後に、この記事を読んでくださっている方にメッセージをお願いします。

 大学院に進学することの意味は大きく2つあるかなと思います。1点目は自分の現場を違った視点で見ることができることです。もう1つは、自分が知らなかった世界を出会うことができることです。
ぜひ、新しい世界に出会うために、学びのドアを開けて欲しいと思います。私たちはそのお手伝いをさせていただければと思います。

社会福祉領域:大谷京子先生

ソーシャルワークや精神保健福祉がご専門である大谷京子先生(社会福祉領域)にお話をうかがいました。

—研究に関心をもったきっかけは?大谷先生は現場が先でしょうか?

 そうですね。現場が先というよりも、研究者になることは想定していませんでした。まさに骨を埋めるつもりで現場に飛び込みました。でも実践現場でいろいろ矛盾を感じることが多くて。何が正しいソーシャルワークで、何が間違ったソーシャルワークなのかをはっきりさせたかったんですよね。その根拠が欲しかったんです。良いものは良い、悪いものは悪いという判断基準が欲しかった。だから今でも量的研究をやりたいと思ってしまいます。統計的にはっきり結果がでるから。 野中猛先生(日本福祉大学教員)にお会いした時、自分のテーマを伝えました。そうしたら、先生の研究会にお誘いいただきました。それが本学との縁の始まりです。

―大谷先生はどのようなご研究をされていますか?

 ソーシャルワークのクライエントとの関係性、専門性を研究しています。その流れで、ソーシャルワークのアセスメントやスーパービジョン、専門職アイデンティティの研究をしております。今後は、ソーシャルワークの視点にたった社会変革の研究を行っていく予定です。ソーシャルワークのグローバル定義でも社会変革が重視されていますし、イギリスやカナダのソーシャルワークでは反抑圧ソーシャルワークが頻繁に議論されています。こうした点に関する研究を行っていきたいです。

―現場と研究をつなげていくことに関して何かご意見や思いはありますか?

 実践があるから研究があると思います。実践が先行していると思うので。先駆的実践、方向性、よって立つ視点や理論を明らかにしていくのが研究です。まず現場の世界で、課題は山積でも、何らかの方法を見つけているエキスパートはいらっしゃいます。そこから学び、「こうしたらいいのでは」ということを研究で言語化し表現していく。そして、それを現場に還元して実践として広げていく。また何らかの課題にぶつかれば、それを克服するために必要な理論、方法論などを実践でも研究でも探求する。そして相互に刺激し合う。この循環を回していくことは日本の社会福祉現場を良くしていくためには本当に重要なことだと思います。

―最後に、この記事を読んでくださっている方にメッセージをお願いできますか?

 大学院を修了した院生たちの多くが、実践にも役に立っていると言っています。それは素晴らしいことだと思っています。研究と実践は別物だと思っている方も多いと思いますが、研究の中で抽象化することとか、言語化することとか、論理だって考えるとか、俯瞰的に物事を見ることができるとか、全部実践に活用できるんですよね。研究をすることで実践力が高まるのは大学院進学の大きな魅力の1つだと思います。 研究って特別な人がやるものではなくて、現場で問題を抱えていたり、納得できないことがある人がやるものだと思っています。現場のテーマを抱えている人こそ、研究をやって欲しい。研究を行うと、ご本人はもちろんですが、それが現場や社会のためになっていきます。いまの社会を少しでも居心地の良いものにしていくために、本大学院で一緒に研究する機会を持てればと思います。 みなさんのお越しをお待ちしています。

教員紹介(医療福祉サービス領域)

医療福祉サービス領域:中島民恵子先生

今回は、ソーシャルワークや医療福祉がご専門である中島民恵子先生(医療福祉サービス領域)にお話をうかがいました。

―中島先生が研究に興味や関心をもったきっかけは?

 研究に興味関心をもったきっかけは大学時代だと思います。大学に入る前、高校生のときにホームレスの炊き出しに参加していました。そこで私自身が日頃見ている世界とホームレスの方から見えている世界との違いを感じました。同時に何かを変えたいとも思いました。そして1つの視点ではこの課題を解決できないことも感じていました。
 当時、金子郁容先生の『ボランティア-もうひとつの情報社会』(岩波新書)を読み、そこで書かれている内容に興味を持ちました。そこで、金子先生がおられる大学に進学しました。その大学は1つの学問だけでなく、多様な視点が重要と考えていましたので、自分の問題意識とも合致していました。大学時代に特別養護老人ホームの中にあるデイサービスにボランティアに行きます。そこで認知症の方と出会いました。そのことが現在の認知症の研究につながっています。

―高校生の時からホームレスの支援ボランティアに参加されたり、大学で特別養護老人ホームのボランティアをされたり、当時から現場にふれながらいろいろな問題意識を持たれていたのですね。そこからどのように現在の研究テーマにつながっていったのでしょうか?

 大学時代に認知症というテーマと出会うのですが、まだその時点では研究には結びついていませんでした。その後グループホーム協会という事業者団体に関わらせていただいて、そこで認知症やグループホームについて現場と一緒になって研究を行っている方と出会います。そこが自分にとっては大きな転換点だったと思います。こうした流れの中、修士課程に進むことを決めました。社会福祉の現場に行くことも考えていましたが、1人1人を幸せにしていくのとは違うかたちで社会に貢献していきたいと思いました。その後、博士に進学します。

―先生の研究テーマはどのようなものでしょうか?

 認知症が私の研究テーマです。自分の研究はミクロ、メゾ、マクロで整理できるかと考えています。ミクロな研究だと認知症に関するアセスメントの研究、メゾレベルだと、事業者のサービスの質に関する研究等を行っています。マクロレベルだと、自治体や国際比較の研究に取り組んだりしています。チームで研究させていただくことが多いです。人材育成に関することにも関心があり、ケースメソッドのケースライティングをやったりもしています。

―日々の大学院での院生指導の様子や日頃院生にお伝えしていることはありますか?

 大学院生の方々は医療や社会福祉等の現場にお勤めの方が多く、日々の実践への疑問や問題意識をお持ちの方が多いです。私は院生の興味関心を意識しながら、できる限り院生の関心に沿ってお話をさせていただいています。ただ、研究を行う場合には手のひらサイズにのる研究テーマにしていかないと、テーマが大きくなってしまいます。そこを中心に院生指導ではアドバイスさせていただいています。あと結論ありきではなく、まずはデータを見るということも重視しています。既存の研究に出ているデータそして自分がとったデータを慎重にみていくことが研究を進めていく上では重要かなと思います。
 あと添削を含め論理的な文章の書き方を指導したりしています。論理的に書こうとすることで、もやもやしていたことがすっきりしていきます。テーマの絞り方については、①やりたいこと、②できること、③社会に求められていることの3つの円が重なるところをテーマにすることを折に触れて院生には伝えています。院生が「研究が楽しい」と感じてくださるのが一番嬉しいですね。院生の関心を大事にしながら、院生指導させていただいております。

―本大学院は現場と研究をつなぐことを重視していますし、そこが本大学院の魅力でもあるかと思いますが、この点について先生のお考えをお教えいただければと思います。

 まず研究ができることは現象を俯瞰することかなと思います。問題状況の全体を俯瞰すること。そこで見えてくるものがあればそれを現場に戻していく。それは評価指標を作ることかもしれないし、政策を立案することかもしれない。現場への戻し方はいろいろあるかと思います。そして最終的にそうした研究が人々の生活という場にどのようにしたら届いていくのかという視点も大事だと思います。
 むしろ私は現場の方から学ぶことが本当に多いです。いろいろな現場を見させていただくことを通して、1か所だけでは見えないところを把握することができます。比較をしたりすることで研究として現場に貢献できることがあるかと思います。
 本大学院ではケースメソッド教育を取り入れています。ケースメソッドは研究と現場をつなぐ1つの試みかと思います。本大学院のケーススタディを通して、自分だったらどのような意思決定ができるのかということを多様な専門職が集まるグループ討議の場で疑似体験することができます。こうした経験をすることで、実際に自分が同様な状況に相対した時に向けての一定の構えというか準備を整えることができると思います。

―最後に、この記事を読んでくださっている方にメッセージをお願いします。

 本大学院の院生を見ていると仲がいいですよね。関連領域の方々が多く集まるという意味で仲間になりやすいのかなと思います。そして教員もその「仲間」に入っていると私は考えています。
 修士課程は2年間という学びの期間がありますが、学んだ先がぐっと広がっていくかなと思います。本大学院は、現場に勤務されている方々が多く集まっていますので、そこでの学びも刺激があります。また魅力的な先生がおられますので、そうした先生方の講義を受けることを通して、マネジメントについて学びを深めることができます。そして修士論文の作成を通して、自分が設定したテーマについて深く考える時間を持つことができます。こうした経験は、修士課程修了後、大小いろいろかたちとなって皆様に良い影響を与えていくと思います。
 みなさんと一緒に学ばせていただく機会を楽しみにしております。

教員紹介(医療・介護・福祉経営領域)

医療・介護・福祉経営領域:綿祐二先生

―綿先生はどのように研究の世界に入られたのですか?
また、どのようなスタイルで研究を進めているのですか?

 自分は40年現場を持っています。学生時代のときから事業を始めています。ずっと現場密着、現場指向です。現在は40施設くらい事業を運営しています。実質的な運営をずっとさせてもらっています。

 研究にはいろいろなものがありますが、自分は研究を研究だけで終わらせない。研究をどうやって現場に活かしていくのか、研究と現場をどう融合させていくのかという点を強く意識して取り組んでいます。言うなれば実装研究ですよね。どうやって研究でわかったことを現場に反映していくのか、理論と現場を融合させていくのか、そして実装させていくのかが私の研究スタイルになります。

 今度、東京都渋谷区の原宿にダイバーシティ&インクルージョンという5階建てのビルを作る予定になっています。そこではこれまでの自身の研究をすべて持ち込んだような居場所にしていきたいと思っています。この企画を通して、東京都の渋谷区と連携しながら新しい福祉のかたちを表現していきたいと思います。

―障害のある方やいろいろな方がそのビルに・・・

 そうですね。LGBTQ+の方や本当にさまざまな方が集う、そういう場所になっていくと思います。メタバースやロボットも登場しますよ。そういう新しい福祉のかたちが体感できるような場所になっていくと思います。こうした活動に関する書籍の執筆も予定しています。こうした動きを本大学院の院生たちとも共有していきたいと思います。
 本研究は社会人の方が多いですが、リカレント教育は本当に大事だと思います。現場には理論と実践の融合で課題を感じておられる方がたくさんいます。日々現場に課題を感じている大学院生に関わらせていただくことは私にとってとてもやりがいのあることです。

―日頃の院生指導を通して感じていることはありますか?

 本大学院にこられる方は研究を学びに来られるわけですが、実践に関する知識をたくさんお持ちになっています。ディスカッションしていても、私の想像を超えた意見を出してくれることがあります。こうした経験はかけがえのない経験ですし、そういう瞬間がゼミの中で起きていく本学の大学院の場は素晴らしいと思います。
 大学院生の学びは大学院生のもの。院生が学びたいことが学べる。そういう院生指導を日々心がけています。

―綿先生はどのような院生指導をしていますか?

 いろいろなことを行っていますが、今日はその1つを紹介しましょう。それは、大学院で学んでいること、そこには抽象的で難しい用語や理論も含まれますが、それを誰かに簡単に伝えてみよう!という演習をやっています。例えば、意思決定支援を小学生でもわかるように伝えてみようとか。現場では難しい言葉で伝えてもなかなか広がっていきません。その難しい言葉のエッセンスを伝えることができる。エッセンスを人に伝える力。現場で本当に活きるんですよね。これができると、研究で学んだことを現場に還元できるようになります。こうした指導を日々していますね。

―最後にこの記事を読んでくださっている方にメッセージをいただけますか?

  私の意見になりますが、福祉はいま過度期に来ていると思うんですよね。例えば、人手不足って言いますけど、福祉現場だけでなくて世の中全体が人手不足なんですよね。こういう時代になってくると、人材を育成するということは、福祉分野のみ育成するということを意味しない。他の分野との競争も生まれてきているんです。例えば、他の分野は最新のICTを含め、どんどん進んでいる。福祉分野がそこで遅れをとってしまうとさらに課題が大きくなってしまう。次世代の福祉を支える人材育成を考えるべき時期にきていると思います。
 みなさんには次の福祉をどう展開していくのかということをぜひ取り組んで欲しいと思います。福祉の世代交代を含め、福祉をいかに次世代に伝えていくのか、この点を本大学院で学んでいただけるといいなと思います。
 みなさんといろいろなことを学べることを楽しみにしております。大学院という学びのドアをノックしていただいて、一緒に次の福祉について学んでいきましょう!