研究の世界への誘い―医療・福祉・保健の現場を支えるために

医療・福祉マネジメント研究科
研究科長 末盛 慶

 人類は生命誌の中で言えばかなりの新参者でありながら、他の種では見られないような知の創造と継承を積み重ねてきました。約500年前には科学革命を起こし、人間は新しい知の創造と継承の仕方を生み出しました。

 近代科学は、大きく人文科学、自然科学、社会科学の3つに分けることができます。社会科学は、経済学、政治学、社会学など多様な学問分野から構成されていますが、その中でも私たちの生活に大きな影響を与える医療・福祉・保健に関する諸学問が存在しています。

 本研究科は、医療・福祉・保健における知の創造と継承、そして現場を支える人材養成を主たる目的として、2009年に開設されました。本研究科はこれまで多くの修了生を輩出し、研究上の知の創造と継承、そして研究と現場とをつなぐ架け橋として存在してきました。

 コロナ禍を含め、医療・福祉・保健の現場は、現在変化の最中にあります。こうした変化に対応していくためには、改めて知の創造と継承を積極的に積み重ねていくことがこれからの私たちの幸福や安寧にとって重要になってきます。

 本研究科は、大学院教育改革支援プログラム(文部科学省) 「高度な専門性を備えた福祉現場の人材養成―全国・地域の人材養成拠点大学へのチャレンジ」(2007-2009年度) の採択を受けるなど、日々先駆的な試みに挑戦し、その内容を充実させています。

 例えば、①多職種の集団運営に必要な、相互理解の視点やコミュニケーション能力を鍛える Inter Professional Education(多職種連携教育)の導入、②従来の修士論文執筆をめざす特別研究コースに加え、より実践力を重視した実践研究コースの設置、③ケース教材を用いた討論重視型のケースメソッド演習の導入、④医療・福祉現場の実務家教員による講義、⑤社会人が学びやすい柔軟な履修形態の整備を行っています。

 研究の世界に自分の身を置くことによって、新しい知にふれることができます。かつ、自身もその新しい知の生産にたずさわることができます。こうした作業は、簡単ではない部分も含んでいますが、とても興味深く、かつ社会的に意義のある活動です。

 研究とは、現状を何とか改善したいという未来への願いが基となった行為です。本研究科に私たちの未来のために学びを深める方々が1人でも多く集い、明日の医療・福祉現場を担う高度専門職業人が輩出されることを願っています。

Inter Professional Education (多職種連携教育)

イギリスにおいて、医療・福祉に関わる多職種を集め、連携を体験しながら学ぶ新しい教育方法として開発されてきたものです。

医療・福祉の現場では、連携が必ずしもうまくなされていないことがよく指摘されます。その一因は、各専門職種が別々に教育されていることにあります。現場に出れば他の専門職との連携を求められるにも関わらず教育課程では連携を経験していないことへの反省から生まれた取り組みです。

異なる専門を持つ医療・福祉職が、同じ場所で同じテーマを、お互いに協力し合って学びあう経験をします。それを通じて、互いの専門性の強みと限界、連携・協力することのシナジー(相乗)効果を体験します。それによって、チームとしてサービスの質の改善・向上につなげられる連携能力の高い専門職の養成を目指すものです。具体的には、医療・福祉臨床においてサービスマネジメントを担う者と医療や福祉の経営幹部をめざす者とが、同じ講義を受け共に討論します。それらを通じ、互いの専門性や価値観の違いを知ると共に、互いが協力して共に追求すべきミッションと、それを実現するための方法について学びます。

本研究科の取り組みは、マネジャー(幹部)クラスの高度専門職業人を養成する大学院教育における先駆的な試みです。そこでは、異なる職種間の連携に留まらず、現場責任者と経営責任者という価値観や優先順位の異なりうる機能を担うマネジャーたちに、共に学び討論する場とプログラムを提供します。

大学院教育改革支援プログラム (文部科学省)

高度な専門性を備えた福祉現場の人材養成
-全国・地域の人材養成拠点大学へのチャレンジ(2007年度-2009年度)

広義の福祉(保健・医療・NPOなどを含む)現場では、貧困・障害・虐待など、いくつもの困難を抱える家族など、問題の重複化・複雑化が進んでいます。しかも、施設・事業所・病院の経営も成り立たせなければなりません。このような現実に立ち向かう保健・医療・福祉専門職には、狭い専門知識や理論だけでなく、幅広く高度な専門性とマネジメント能力が求められています。

このような人材養成への期待に応えるべく構想したのが、本プログラムです。現場で優れた取り組みをしている人を実務家教員として招き、福祉現場との循環システムを構築して、現場の問題に取り組む先駆的な実践事例に触れる機会を増やします。また、福祉経営や心理、司法福祉など、関連領域を幅広く学ぶことを可能にする講義科目を配置します。加えて、マネジメント能力の開発を目指して、ケース教材を用いた討論重視型のケースメソッド演習を導入します。さらに、現場の忙しさのために平日の通学が困難な社会人院生のために、インターネットの活用や週末の集中講義を増やすなど通信・通学融合を進めて、金曜日と週末の通学だけでも修了できる条件を整備中です。本プログラムは、これらの組み合わせにより、全国・各地域の福祉現場で奮闘する高度専門職業人の育成をめざすものです。

大学院GP採択プログラム