menu
コンテストに応募する
第22回 高校生ふくし文化賞エッセイコンテスト

審査員の心に残った作品

歴代の最優秀賞受賞作品の中で、
特に審査員の心に残った作品

エッセイコンテスト開催20周年(2022年)を記念し、過去19回の審査に関わっていただいた審査員および審査員長より、特に心に残った歴代受賞作品へのコメントをお寄せいただきましたので、ぜひご覧ください。

角野 栄子 審査員

(作家・本学客員教授)

第1回第1分野 人とのふれあい

手をつないだよ、お友達だよ

長谷川 祐美 さん(調布高等学校)

審査員コメント

読後世界がパーっと明るくなるようでした。電車の中で出会った少女の書き方が素晴らしい。ものおじせずに、「手をつなごう」といえる少女。この描写は少女がたっぷりの愛情に包まれて育ったことまでも想像させてくれます。それを素晴らしく感じる作者。この二人の出会いが、電車の中に優しい空気を送り、乗客一人一人がそれを抱えて降りていく。人との触れ合いはこの二人だけに起きたことではなく、「お友達だよ、お友達だよ」とつぎつぎと伝わって、誰もが、自分はひとりぽっちではないと、そんな気持ちにさせてくれます。書かれているのはたった15分の出来事ですが、深くて、柔らかな希望を感じることができました。

第5回第2分野 あなたにとって家族とは?

家族として生きる

高橋 昌子 さん(山口県立宇部高等学校)

審査員コメント

日本人は、人とのつながりを大切にする、とよく聞く言葉です。言葉は綺麗だけど、意外とそれは狭い世界とのつながりのように思ってしまうのはわたしだけでしょうか。家族、世間、そのあたりが中心で、そこからあまり広がらない。そのためか人の動向に敏感で、自分の気持ちよりも、まわりの空気で動く傾向を感じます。この高橋さんのエッセイにあるように、ひとりひとりが自分から生まれてくる気持ちで出来事に向かい会うことができたら、社会はもう一段強いつながりを持つことになるでしょう。それこそ自分で考え、判断し、行動する、自由な社会です。非常に困難な問題を抱えている今、このエッセイは大きな問題を、私たちに気付かせてくれます。

第19回第2分野 スポーツ・文化活動とわたし

彼女が星を生けるように

焼山 美羽 さん(開智日本橋学園高等学校)

審査員コメント

「じゃあ、私は星を生けてみたいな」

この視覚障害者の少女がいった言葉に、この作品の全てが詰まっていると思いました。この作者は、この一言の中に、言葉が持っている深い意味を感じてこのエッセイを書くことになったのでしょう。この時、この少女はどんな星を思い浮かべていたのでしょうか。見える世界と、見えない世界を行き来している、自由な眼差が素晴らしい。私たちにもその世界を想像させてくれます。そして無限に広がる星空に包まれているような気がしてきました。それは彼女の願いから生まれた私たちへの贈り物でした。言葉というのは見えない世界の風景までも表現するものだと改めて感じました。

杉山 邦博 審査員

(元NHKアナウンサー・本学客員教授)

第11回第2分野 あなたにとって家族とは?

長生きしてね

高橋 かのん さん(鴎友学園女子高等学校)

審査員コメント

九十才の曾祖父の右手に握られた杖。
「よお来てくれたなあ。はよこたつに入りい」

四年前にはなかった、太い杖を持つ曾祖父の人生から色々な思いがつのり、自らの未来を見つめる作品。

核家族時代と言われる現在、世代間の情愛、絆の貴重さが伝わる秀作です。

第13回第3分野 日常のなかでつながる世界

誇るべき一枚の風呂敷

藤倉 真美 さん(滋賀県立膳所高等学校)

審査員コメント

風呂敷という身近にある布が如何に応用範囲が広いか。海外で見直され、ラッピング推奨のキャンペーンにまでなった。日本の文化、一枚の布が大切なことを教えてくれた。

よく纏った優れたエッセイです。

第15回第4分野 社会のなかの「どうして?」

スマートフォンが誘う世界

小松 英里佳 さん(日本女子大学附属高等学校)

審査員コメント

「直接顔を合わせて話すことが大好きだ」と書いている作者。最近はスマホを手に、話していても目は画面に向いている。自己中心の状況に疑問を感じる日々。限られた知識や価値観に縛られてしまうのでは?時代への反省と警鐘。

読みやすく、説得力のある作品です。

第19回第1分野 ひと・まち・暮らしのなかで

じいちゃんと桜

石谷 実佐 さん(皇學館高等学校)

審査員コメント

鍛冶屋だったおじいちゃん、鍛えた手で腕相撲をしてもらった少女。幼い頃、祖父の押すベビーカーに乗せてもらっていた少女が、今は立つことも困難な祖父の車椅子を押して桜の下へ。「立つわ」と、曲った腰を伸ばして懸命に力強く立ち上がる祖父の頑張り。

満開の桜を見上げている二人の姿が目に浮かんでくる。心にじーんとくる優れた作品です。

川名 紀美 審査員

(元朝日新聞社論説委員・本学客員教授)

第6回第2分野 あなたにとって家族とは?

甘い玉子焼き

菱井 希望 さん(京都市立伏見工業高等学校)

審査員コメント

血のつながりはないけれど、遠慮のない、温かい家族の関係。それを「甘い玉子焼き」に託して見事に表現しています。

これといった大きな出来事が起きているわけではありません。でも、リズム感のある文章のおかげで、ばあちゃんとお母さんのテンポのいい会話が聞こえてくるようです。お母さんの愚痴を「拾ってはどこかに隠してくれる」といった独特の表現にも筆者の観察眼が感じられます。何気ない日常を描きながら、何度読み返しても自然と笑顔になるような作品です。

第12回第2分野 わたしが暮らすまち

我が家の班長物語

林 宏紀 さん(兵庫県立宝塚高等学校)

審査員コメント

回覧板を1軒1軒、手渡し?筆者のお母さんは、なかなかすてきな策士ではありませんか。小学5年生と中学1年生の息子たちを上手に巻き込んで、いつのまにか地域の一員としての自覚を育んでいます。

私たちは、近隣の人間関係を煩わしいものとして遠ざける方向へと歩んできました。その結果、孤独が大きな社会問題になっています。インターネット上には網が張り巡らされて、人と人のつながりは大きく変容しています。そんな中で直接顔を合わせ、言葉を交わす関係を大切にしている一家。兄弟はどんな青年になっているのでしょうか。

第7回第1分野 人とのふれあい

平成の昭和人

小山 まぐま さん(静岡県立三島南高等学校)

審査員コメント

手づくりのいかだで海へ。中学3年生3人が受験勉強そっちのけで挑んだ冒険に、わくわくさせられました。竹を30本も自力で切り出し、縄の縛り方も勉強して完成させたいかだ。しかし、浮かびませんでした。浮力が足りなかったのです。たいていはそこであきらめるところ、筆者たちはあきらめませんでした。川から海へと出る寸前に警察にみつかって冒険は終わりを告げたものの、この出来事は長い人生を生きるうえで大きな自信になったことでしょう。3人の友情も、きっと続いていますよね。

無謀とも言える冒険を助け、あるいは叱らなかった大人2人は、いまや絶滅危惧種かもしれません。

児玉 善郎 審査員長(当時)

(当時 本学学長)

第12回第2分野 わたしが暮らすまち

我が家の班長物語

林 宏紀 さん(兵庫県立宝塚高等学校)

審査員コメント

超少子高齢化の進展に伴い地域で孤立しがちな人が増えている現状にある中、作者が小学生の時に、自治会の班長となった母親を助けて兄と一緒に取り組んだ、回覧板をただ回すだけでなく班の住民の方たちと直接ふれあい、困りごとを手伝うなどの実践をしたことがわかりやすく描かれている点が印象的でした。受賞から8年が経ち20代半ばになられた作者が、「次の班長は十年後、その時は私が班長になろう。」と書かれていた決意をもとに、地域の住民とつながりを持ち、支えとなる取り組みをされていることに期待が膨らみます。

第9回第4分野 社会のなかの「どうして?」

「普通」のレベル

松原 あずみ さん(神奈川県立港北高等学校)

審査員コメント

東日本大震災が発生した2011年の応募作品の中には、震災のことを取り上げた作品が多くありました。その中で本作品は、震災により失われた日常を経験したことをもとに、自分がこれまで普通と思っていた便利や贅沢を見直す必要があることを訴えている点がとても印象的でした。震災から11年を経た現在もまだ日常を取り戻すことができていない被災者が少なからずいることや、2年前から続く新型コロナの影響により普通の暮らしができなくなっている現状を鑑みると、この作品で訴えられていることの重要性が際立ち、私たちのこれからの生活のあり方について、改めて考えさせられます。

第19回第3分野 わたしが考えるこれからの社会

六つの星の輝く世界へ

森山 菜々美 さん(宮崎県立明星視覚支援学校)

審査員コメント

タイトルの「六つの星の輝く世界」や本文中の「新しいことに挑戦し切り開く最初のペンギン」といった印象的な表現が効果的に使われていて、未来に向けた作者の希望が描かれている、読後感の爽やかさが際立つエッセイでした。宮崎ではじめての点字で学ぶ大学生になられた現在、この作品で描かれていた「点字と墨字が共存」し「見える人も見えない人も手を取り合って築く社会」という夢の実現に向けて、一歩ずつ歩みを進めて行かれることを期待しています。