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第18回 高校生福祉文化賞エッセイコンテスト

入賞作品

わたしが考えるこれからの社会

最優秀賞

六つの星の輝く世界へ

森山 菜々美(宮崎県立明星視覚支援学校 3年)

私の通う明星視覚支援学校の校歌に「むつの星影仰ぎつつ、試練を超えて手をとりて」という歌詞があります。むつの星影とは、六つの点で表す文字、点字のことです。私にとって点字は、なくてはならない大切な文字です。あらゆる場面で点字を使って生活しています。六つの点の組み合わせを文字として、「手で触って読む字」が点字です。

私は、小学一年生から現在まで視覚支援学校で学んでいます。最初は、墨字(普通の文字)で学習していましたが、点字も同時に習い始めました。クラスには、点字で勉強する全盲の友達がいたので、墨字があるのも、点字があるのも当たり前、点字は、漢字と同じように普通に習うものだと思っていました。

私は、視力の低下で中学二年生から、点字に移行しました。しばらく苦労しましたが、どちらもあって当たり前という感覚で、自然に移行できました。学校では、点字を使う先生や生徒と墨字を使う先生や生徒がいるので私にとって、点字も墨字も同じ文字として存在しています。しかし、一歩外に出ると、点字はまだまだ知られていません。それでも最近はエレベーターやトイレ、商品などに点字の表記が増えてきました。服のサイズや値段が点字だと自分で選べるのに、外食のメニューが点字だったら楽しく選べるのにと思います。点字と墨字の世界が共存すれば、私たち視覚障害者の世界はもっと広がります。

勇気をもって新しいことに挑戦し、切り開く人のことを、「最初のペンギン」と呼びます。私は、英語をもっと勉強したいので、宮崎県内の大学を目指しています。県内で、点字で学んでいる大学生は、まだいません。未来は、墨字も点字もあって当たり前の社会、見える人も見えない人も手を取り合って築く社会になってほしいと願っています。そのためにも、私は、この宮崎で私にとってかけがえのない六つの星が輝き、広がる世界の最初のペンギンになりたいと思っています。

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審査員のひとこと

最初に出てくる「むつの星影」が六つの点で表す点字のことだとわかり、タイトルの表現も含めて、なるほどと気づかされました。自らのこれまでの経験をもとに、点字と墨字の世界が共存できるようにという、大切な問題提起をしています。

言葉選びがチャーミングで、素晴らしいです。将来見える人も見えない人も手を取り合って築く社会を切り開く「最初のペンギン」になりたいという表現が印象的で、審査員全員から高い評価が得られました。

優秀賞

母子健康手帳って、マジ凄い!

船生 美帆(日本女子大学附属高等学校 1年)

「自立しなさい。」
高校入学直後に、これからは、自分の事は自分で出来るようになってねと、母に言われた。最初のミッションは、学校に出す「健康調査書」の記入からだった。その時、これさえあれば書けるからと渡されたのが「母子健康手帳」で、私が生まれたときの日付、体重と身長、出産の状態という名目で、様々な情報が記録されていた。手帳を捲りながら、「へぇぇ、私って意外と大きく産まれてきたんだ。」と呟くと、「予定日を五日も過ぎて出てきたからね。」とつっこまれた。他にも、私の生後の記録、予防接種、かかった病気が、この一冊で分かるのである。「この手帳ナンカ、凄くない?」と興味が湧いてきて、スマホで検索してみた。

母子健康手帳は、母子保健法という法律に基づき交付される。妊娠・出産の状況や乳児の発育状態などを記録するものとあった。

人間の記憶は曖昧なので、病気や予防接種の履歴を手帳に残すのは、とても有効なことだ。しかも、誰にでもわかる仕組みになっているのが本当に素晴らしい。日本は乳児死亡率が最も低い国である。それは、試行錯誤を繰り返し、子どもたちの為になる制度や、使い勝手の良い手帳を作ってきた人々の情熱が、この国の赤ちゃんを守り、結果として、数値が証明してきた。

実は、日本は、この素晴らしい手帳を、既に世界三十以上の国に、バトンパスしている。JICAのプロジェクトで、二〇三〇年、SDGsの、「全ての国の五歳以下の死亡率を千分の二十五以下まで減らす」ツールとして、この手帳を役立てようとしているのだ。

私も、母に自分の手帳を、バトンタッチされた。それは、いつか私が手帳をつける予行演習のためにだ。母から手渡された手帳は、ほんのりとあたたかく、赤ちゃんを守ろうと、記録をつけてくれた人々の愛情であふれていた。「母子健康手帳ってマジ凄い!」

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審査員のひとこと

母子健康手帳から学んだことが、興味深くまとめられています。母子健康手帳は日本の素晴らしい制度で、日本では当たり前になっていますが国際社会での評価も高いことに着眼した点がよかったです。わかりやすい素直な文章で母子健康手帳から問題意識を広げ、世界に目を向けているところが評価されました。

タイトルの「マジ凄い!」は、若者の話し言葉をタイトルに使うのに違和感があるとの指摘もありましたが、凄さが印象的に伝わると評価しました。

優秀賞

店長の言葉

サントス ユカリ(藤ノ花女子高等学校 3年)

「お前、日本語下手だから対応してほしくない。」
これは私が実際に言われた言葉だ。

私は日本で生まれ育った。日常生活の殆どで日本語を使っているから、日本人の方と変わらない発音と語彙力を持っている自信がある。でも、日本人じゃないから同じ扱いはされない。

ある日、私はいつもどおりにアルバイトをしていた。その日はとても混んでいた。私が対応していたお客様が帰ったので、列の一番前で待っている方を呼ぶ。
「次でお待ちの方どうぞ。」
三回ほど声をかけた。聞こえていないわけではないのに動こうとしない。すると、
「次って俺?俺一番前だから次じゃねーし。お前日本語下手くそだな。」
みんなが一斉にこちらを見る。そこで冒頭の言葉である。
その言葉が放たれた瞬間、その場の空気が凍りついたのがわかった。
「またか。」と私は思った。違いを受け入れられない人はまだまだ沢山いるのだ。何度も体験してきたことだから何も感じない。すると突然、すごく怒った顔でやってきた店長に変わってと言われた。店長は私に怒っていると思ったが、その考えはすぐに打ち消された。なんと店長は怒ったまま接客を続けていたのだ。お客様におつりを渡した後、店長は
「あの子は私の大切な従業員なので、もうお店に来ないでもらって大丈夫です。」と言った。その後、店長は私に「よく頑張ったね。」と言ってくれた。側にいた従業員さん達は「何もできなくてごめんね。」と言ってくれた。

世界はまだまだ差別が沢山残っている。あの時は私を守ってくれた仲間がいたが、それは珍しいことだ。だから、私は店長のように、差別的なことをされている人を助けられる人になりたい。そして、差別を生まない世の中にしていきたい。

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審査員のひとこと

アルバイトをしているお店で、実際に差別を受けた体験から感じた、差別のない社会にしたいという思いが、素直な文章で書かれているところが、評価されました。実際に体験した出来事をきちんとまとめ、その時の気持ちがよく描かれています。

店長が差別的発言をした客に対してとった行動は素晴らしいですが、世界的に広がっている差別をなくす運動に倣い、日本でも差別のない社会に向け一人ひとりが取り組むべきと考えさせられました。

入選

「ちがい」の先に

白砂 有佳子(日本女子大学附属高等学校 3年)

「スミマセン、タスケテクダサイ。」
学校からの帰路、片言で紡がれたその言葉に足が止まった。振り向くと、インド系の顔立ちの二十代くらいの女性、「UberEats」のロゴが入った箱を大事そうに抱え、スマホを片手に私に駆け寄ってきた。

「ミチニマヨッテデンワシテル。デモニホンゴワカラナイ、アナタ、オネガイ!」
彼女の大きな瞳は明らかに困惑の色が浮かんでいた。しかし、私もこの剣幕に面食らった。オロオロしているうちに、彼女はいつのまにか私の手に汗ばんだスマホを握らせてきた。状況が上手く飲み込めないまま、だけど反射的に「もしもし、お電話代わりました。」と緊張して電話に出た。電話先の相手はウーバーイーツの依頼者であった。幸いにも今の状況を伝えると、心配して穏やかに対応して下さった。最終的に依頼主の家と私達の現在地がそう遠くはなかったので、そのおよそ中間地点にあるコンビニで落ち合うことになった。

電話を終えると配達員の彼女は胸を撫でおろしたようで、固い表情が和いでいた。

「ゴメンネ、アリガトウ。ニホンゴムズカシイ、デモニホンジンヤサシイ。」
彼女はお礼とそんな温かい言葉を残してくれた。「ヤサシイ」だなんて…気恥ずかしさと共に、じんわりと日溜りのような温もりが胸に染みた。(いいえ、むしろ私があなたに、「ありがとう」と伝えたかった。)

言語を含め、ちがいというのは凸凹が合わないパズルみたいにまどろっこしい。しかしそのちがい故の困難を共に乗り越えることは、パズルの欠片がつながって新しい模様が見えるように、私達の視野を広げるチャンスではないだろうか。彼女はちがいの先にある優しい世界を私に教えてくれた。再び彼女に出会うことはもうないかもしれない。だからこそ私はここで伝えたい。本当に、ありがとう。

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審査員のひとこと

路上で突然話しかけられ、相手がオロオロしている様子など、切迫感が伝わるほど生き生きと描いていて、臨場感がありました。「パズルの欠片がつながって新しい模様が見えるように」などの表現が、効果的でよかったです。

自らの体験をもとに、ちがいの先に優しい世界がある、と書いているところに共感が持てました。

最後を空欄にするのではなく、これからの社会への思いが表現できていれば、さらによかったです。

入選

自分らしくいられることとは

沼野井 瑚桜(栃木県立宇都宮東高等学校 3年)

「〇〇、それはちょっと派手かな。」ある日の授業終わり、先生に髪につけていたリボンを注意され、私は渋々それを外したのだった。確かに、そのリボンは普段つけているものよりも少し大きく、色は明るかった。校則だし仕方ない、と思いつつも、どこか納得がいかなかった。

学年が変わり、担任の先生も変わった。私は半分試すような思いでヘアアレンジをしてリボンをつけて登校した。さすがに怒られるだろうと覚悟をして行ったが、先生に言われたのは、「それどうやっているの。すごい。」という言葉。私は驚いて、皮肉でも言っているのかと少し嫌な考え方をしてしまった。しかし、その後も「毎日ヘアアレンジを見るのが楽しみ。」と言ってもらえた。私は、その言葉に不思議と背負わされていたような重い何かが、すとんと落ちて無くなったような感覚があった。その日からなんとなく、学校が楽しくなった気がした。

私がある時SNSを見ていると、「HairWeGo」というある運動が行われていた。それは、就職活動をする学生たちが髪型に捉われている、という状況を変えようと呼びかけているものだった。その記事を読んで思ったことは、髪型も自己表現の一つになる、ということ。確かに私はなりたい自分をイメージしながら髪を結ぶ。私はこんな人だ、と周りに分かってほしいのだ。そうして表現した自分を周りに理解してもらえることによって、日常が少しずつ色彩られていく気がするのだ。私は、「私」でありたいと思う、そして誰かは「誰か」であってほしいと思っている。考えてみると、先生に髪型を褒めてもらえた時のあの不思議な感覚は、閉じ込めていた私自身が解放され、自分を認めてもらえたことによる安心感なのだろう。私たちには、一人一人自分らしく生きる権利がある。私も、先生のように誰かの中の「自分」を認め、全ての人が生きやすい社会づくりに貢献したい。

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審査員のひとこと

同調圧力が高いと言われる日本社会に、一石を投じるような作品です。先に自分の髪型についての身近な体験があって、そこから社会課題に結びつけていく構成がよかったです。

就職活動になると、とたんに同じリクルートスーツや髪型で面接に挑むことに問題提起する“HairWeGo”は、企業広告で始められたキャンペーンですが、作者は社会運動として共感しています。「自分自身の体験を通した気づき」をもとに、想いが伝わる作品になっている点がよかったと思います。

入選

支援が広がる社会へ

楢原 愛世(大阪市立工芸高等学校 2年)

「誰も私を心配してくれなかった。」

それは友達から送られてきたLINEメッセージの一文だ。

最近友達からのLINEの言動に違和感を持った私は何かあったのかと思い、聞いてみると、友達は今まで隠していた気持ちを吐きだしてくれた。

お母さんを一人で看病していること、先生や親戚に相談しても聞いてくれなかったこと、友達は「ヤングケアラー」だったこと。

ヤングケアラーとは家族の介護やケア、身の回りの世話を担う18歳未満の子どもたちのことで、同世代の私は、ヤングケアラーを身近に感じた。また、周りの子とは違うと感じて周囲に合わせるのが苦しくなり、一人になってしまうケースが多い。私の友達はその状況にあった。

私はヤングケアラーの大きな問題は「一人で抱え込んでしまう。」ことだと思っている。友達は助けを求めているのに誰も手を差し伸べてくれなかった。親戚にも期待できず、周りの友達と自分では違うことに距離を感じ、一人で抱え込んでしまった。

この大きな問題について、支える側がもっと耳を傾けなければならないと思った。自分のできる範囲でいい。話を聞いて相談に乗ることは難しいことではないはずだ。でもそれに対しての気遣いや理解、共感することを怠っているのではないだろうか。

その後友達から「ありがとう。」とメッセージが送られてきた。私はその言葉を聞いて少しでも手助けできて嬉しい気持ちでいっぱいになった。また、自分の生活があたり前ではないことを友達を通して知り、経験することができた。たくさんの人がヤングケアラーについて知り、人助けの喜びを経験し、たくさんの人々への気遣いや理解、共感することで支援が広がる社会になってほしい。そして私はその社会の一員になり、これからも誰かを支えたいと思う。

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審査員のひとこと

家族の介護や身の回りの世話を日常的に担う18歳未満の子ども「ヤングケアラー」の問題を、自分の身近な友達を通して取り上げていて、考えさせられました。身近な体験から社会という深い部分まで考え、問題を提起するだけでなく、これから自分に何ができるかを問いかけている点がよかったです。

ヤングケアラーだけでなく、社会には孤立や悩みを抱えている人が多くいることから、「共感することで支援が広がる社会」を願い、自分も誰かを支えたいという想いが伝わってくる、いい作品でした。