母はばあちゃんと仲が良い。月に一回は実家に帰るし、多い時は毎週、なんてこともある。 母はばあちゃんによく似ている。笑い方とか考え方とか、玉子焼きの味とか。 母とばあちゃんは親子だけど、血が繋がっていない。母の本当のお母さんは、母がまだ小さかった頃に病気で亡くなっている。 だからばあちゃんは母の本当のお母さんではないのだけど、母はばあちゃんのことをお母ちゃん≠ニ呼ぶ。 母とばあちゃんは時々口喧嘩もする。 たまにしないと寂しいらしい。内容はいつもくだらない。 誰かにとっての家族の定義がどんなものなのかなんて、私には理解のしようがないけれど、 少なくとも私にとっての家族の定義は、血の繋がりではない。 ばあちゃんには本当の子供が二人いる。それから、血が繋がってない子供が四人いる。 ばあちゃんは皆を名前で呼ぶ。六人の息子達娘達を分ける壁がばあちゃんには存在しない。 母はばあちゃんに時々愚痴をこぼす。ばあちゃんはその度にそれを拾ってはどこかに隠してくれる。 内容はいつもくだらない。 誰かにとっては、もしかしたら血の繋がりって大切なものなのかもしれないけど、少なくとも母とばあちゃんの間にはそれよりも大切なものがある。 それがなんなのか、未熟な私にはまだ解らないけれど。いつか理解できたらいいな、と思った。 「私には母親が二人もいるんよ。」 自慢気に母が言う。(実際、とてもうらやましいじゃないか!)とは言え、私にもとても自慢な母親がいるので、五分五分じゃないだろうか。 母は今日も晩ご飯に玉子焼きを焼く。ばあちゃんと同じ、砂糖を死ぬ程入れた甘い甘い玉子焼きだ。 私はあまりこれが好きではないのだけど、何となく、これが家族の味なのかもしれないなぁ、なんて思っている。
審査員全員が高い評価を付けた作品です。「甘い玉子焼き」を象徴として、家族のつながりが見事に表現されています。 文章も、具体的なエピソードを織り交ぜながら素直に書けていて良いと思います。 最後まで読みやすい文章ですが、構成や表現をもう少し工夫すれば、さらに魅力的な作品となるでしょう。