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国際シンポジウム「介護予防・健康政策マネジメントの新潮流
―社会環境や格差への着目」が開催されました

2012年8月7日

 日本福祉大学が設置する特定重点研究センターの一つ、健康社会研究センター(2009年6月開設)は、文部科学省の私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(2009-2013)に採択された研究構想「Well-being(幸福・健康)な社会づくりに向けた社会疫学研究とその応用」を目指す拠点です。これまで進めてきた老年学的評価研究(AGES/JAGESプロジェクト)を、WHO神戸センターが推進する都市部の健康格差是正への取り組み(Urban HEART)と組み合わせた共同研究プロジェクト、JAGES HEARTが2011年度から始まっています。
 厚生労働省による「次期国民健康づくり運動プラン」策定のための検討では「社会環境の質の向上」と「健康格差の縮小」が示されています。国の政策とプロジェクトのめざす方向がシンクロするなか、健康社会研究センターは日本医療・病院管理学会と東海病院管理学研究会と共同で国際シンポジウム「介護予防・健康政策マネジメントの新潮流―社会環境や格差への着目」を8月4日に名古屋市内で開催しました。

 午前中は、ハーバード大学公衆衛生大学院から招いた二人の研究者による講演が行われました。SV スブラマニアン教授は「社会環境と健康:これまでの研究動向」と題して、疫学が社会環境を考慮する必要性について説きました。人種やジェンダー、居住する地域コミュニティ、職場や学校、活動を行う組織・団体などの様々な要素(社会環境)が健康に影響することが、実験や調査によって示されていることを詳しく述べました。続いて、イチロー・カワチ教授は「健康の社会的決定要因:政策への応用」と題した講演で、直接的治療を施す臨床医学とは異なり、健康を蝕む社会的要因・背景の解決・改善への関心を政治家に持ってもらい、政策に反映させることの難しさについて述べました。制度や社会システムの違いによる国別の特徴を踏まえたうえで、カワチ教授は「早期(幼少期)からの教育が、その後の人生において自己抑制や思考・行動の発展性に資するとされ、重要である」と強調しました。

◆SV スブラマニアン教授(左)とイチロー・カワチ教授

 午後からは5人のプレゼンターによる報告が行われ、社会環境と健康づくりの密接な関係が感じられました。立命館大学産業社会学部の松田亮三教授は「健康政策の新たな展開―状況、目標、実施―」のなかで、近年の健康政策では具体的な健康目標を社会的に共有することが図られ、そのための指標づくりが重要であると指摘しました。浜松医科大学健康社会医学講座の尾島俊之教授は、健康の社会的決定要因(SDH)に関する研究班とその取り組みについて紹介し、社会環境の向上には地球的な視点と地域密着の行動が求められていると話しました。

◆松田亮三教授(左)、尾島俊之教授(中)、大竹輝臣室長

 「なぜ、まちづくりによる介護予防を重視するのか」と題して話した厚生労働省老健局老人保健課の大竹輝臣介護保険データ分析室長は、今後の高齢者・労働人口の推移などのデータを踏まえて地域・まちが介護予防に重要な役割を果たすと述べました。WHO神戸センターのAmit Prasadテクニカルオフィサーは、都市における健康の公平性評価・対応ツール「Urban HEART」とWHOの取り組みについて説明。実地での事例を交えながら評価の進め方をステップごとに示しました。続いて本学の近藤克則教授が、WHO神戸センターとの共同プロジェクト「JAGES HEART」について、到達点と課題を報告しました。課題として調査・分析データから示された関連性が因果関係を特定できるレベルに引き上げられること、掲げる指標が介護予防の改善に対して妥当か精査すること、調査を拡大・普及させることなどが挙げられました。

◆Amit Prasad氏(左)と近藤克則教授

◆総合討論ではプレゼンターとフロアの間で活発に意見交換が行われました

 最後に全体を通した総合討論と質疑応答が行われました。調査によって地域や個人が特定され、社会環境の格差を助長することにならないか、といった懸念について欧米での事例も交えて議論されました。これに対し、地域や市民が介護予防の重要な担い手である以上、情報やデータは公正に示されたうえで取り組むべき、などといった意見が出されました。