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「ふくし」を思う

研究・教育活動、地域連携・社会貢献の取り組みを紹介します。

研究紹介

社会福祉の歴史・理論研究の発展を

永岡 正己教授

日本福祉大学
社会福祉学部 社会福祉学科

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※所属や肩書は講演当時のものです。

3.理論研究の取り組み

 もう一つの重要な研究として、歴史・思想史の方法も用いて理論研究に取り組んできました。私の研究の出発点の一つは戦前社会事業理論史の研究でした(真田是編『戦後日本社会福祉論争』法律文化社、1979年)。それは一方で生活と社会福祉の実態がどのように把握され理論化されてきたか、他方で海外の動向、諸科学の知見によって、実態をどう整理し、実践の発展を支えてきたのか、という両面で、社会福祉の各時代の論点や到達点を明らかにすることによって、社会福祉の本質と枠組みを把握することができます。今日の場合では、福祉、社会福祉、関連概念の関係と固有性、社会福祉政策・実践とソーシャルワークの関係、多様性や文化的基盤、価値と倫理、権利と義務の問題等が、理論として整理する必要があり、そうした関心から、社会福祉の理論状況を、いくつかの角度から検討してきました。
 領域としては、第1に、理論展開の具体的な検証として、川上貫一、大林宗嗣、志賀志那人、山口正などの近代の理論形成、第2に岡村重夫、真田是、一番ヶ瀬康子、吉田久一ら今日に至る社会福祉理論、第3に戦後社会福祉思想史(『戦後社会福祉の総括と21世紀への展望Ⅱ』ドメス出版など)やキリスト教社会福祉思想などがありますが、個別と通史の両面から研究を進めてきました。社会福祉を実践的に理解するには、それが政策面からの検討であっても、個々の理論の形成過程とその相関関係を捉えることが、具体的な理解の上で有効であると思います。また、具体的な人物の生きて来た道を、残された史料や関係者のインタビューによって実像に近づいてゆく作業は、その人物の思想形成や内面の葛藤を追体験することを通して、今の状況を問うことができますし、自らの生きがいにもつながるものであろうと思います。

4.社会福祉とは何かの問い―研究と実践の場から

 ふり返ると、実証的にも理論分析の上でも時間を要する作業が続いてきました。未だ研究途上にありますが、何とか残された時間で個別研究の体系的整理や問題史的な通史としてまとめたいと思っています。実践の場との関係については、愛知よりも関西に中心を置いたことを今も残念に思います。愛知県の研究を現場とつながって進めたいと思い、ホームレス問題や地域福祉の取り組みにも参加し始めたのですが、その後生活の事情から断念することになりました。大阪では、地域福祉施設、社会福祉協議会の活動に参加して一緒に議論を進めてきました。これは研究というよりも生活者としての立場ですが、研究の支えともなっています。また、大阪市におけるハンセン病問題真相究明委員会の作業では、検証に関する反省とともに、戦後の療養所における生活変化、当事者の苦難と誇り、地域社会の差別と排除の実態、そして解放への連帯と努力の重さを痛感しました。民生委員制度や地域福祉団体の記念誌、福祉教育の教材等の作成作業を通して、社会福祉における公私関係や地域福祉の結節点となる問題も考えてきました。
 この間、社会福祉の歴史の学会である社会事業史学会の運営にずっと参加してきましたが、歴史研究を共に行う仲間の人たちのつながり、理論・思想に関する研究会や共同研究の取り組みに支えられています。そして若い人たちの研究活動、隣接領域との協働による研究の必要、実践の場での歴史と理論の取り組みが広がることを願ってきました。実践と研究とが一つになって、歴史的な到達点や課題を共有し、今日の状況を打開し、福祉、人権、平和を一つのものとして未来を展望してゆくことが、何よりも大切なことと思っています。
 社会福祉は歴史的に形成されてきた存在です。政治、経済、社会、文化が総合的に関係しています。支配・統治の側面と、より良い生活を求める変革への側面があり、政策と実践の全体構造の問題と、仕事、活動を通してなされる働きの問題があります。社会福祉は、制度・サービスであると同時に、いのちに寄り添い、生きる権利を求め、暮らしを豊かに育ててゆく人間の働きであり思想であると思います。
 今、憲法がないがしろにされ、平和の大切さが忘れられる状況があり、自己責任が強調され人権が曖昧になっています。社会福祉とは何かが改めて問われる状況があります。今年度での退職にあたり、日本福祉大学が福祉の総合的な大学として、社会福祉研究・教育、および福祉の総合性の理解の座標軸として、歴史と理論を大切にして、さらに発展してゆくことを願っています。私も残された時間の中で、これまでの研究をまとめたいと思っています。

永岡 正己  Masami Nagaoka
日本福祉大学社会福祉学部教授

大阪市立大学大学院修了後、1978年より日本福祉大学社会福祉学部に勤務。その後1998年から梅花女子大学教授ののち、2005年日本福祉大学に復帰し現在に至る。

[最近の主な著書]

  • 『社会福祉史・社会事業史研究のための史資料ガイドブック』(共編、社会事業史学会、2010)
  • 『石井十次の残したもの―愛染園セツルメントの100年』(共編、石井記念愛染園、2011)
  • 『中国占領地の社会調査Ⅰ』(全34巻・別巻1、監修・解説、近現代資料刊行会、2011)
  • 『岡村理論の継承と展開第1巻・社会福祉原理論』(共編、ミネルヴァ書房、2012)
  • 『社会福祉原論の課題と展望』(共編、高菅出版、2013)
  • 『日本社会福祉の歴史・付史料』(改訂版、共編、ミネルヴァ書房、2014)
  • 『日本キリスト教社会福祉の歴史』(共編、ミネルヴァ書房、2014)
  • 「社会福祉における権利の思想的変遷」(『社会福祉研究』120号、2014)

[社会活動]

社会事業史学会理事(2007-2015会長)、日本キリスト教社会福祉学会理事(1999-2011)、総合社会福祉研究所理事(2002-)、大阪市地域福祉施設協議会会長等を務める。

(2015年8月15日発行 日本福祉大学同窓会会報115号より転載)

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