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「ふくし」を思う

研究・教育活動、地域連携・社会貢献の取り組みを紹介します。

講演録

文化講演会「地域包括ケア体制における住民主体の居住生活支援のあり方」児玉 善郎教授 日本福祉大学 学長

講演録 「地域包括ケア体制における住民主体の居住生活支援のあり方」

  • 講師:
    児玉 善郎教授(日本福祉大学 学長)
  • 日時:
    2017年10月01日(日)
  • 会場:
    JA松本市会館 貸会議室

※所属や肩書は講演当時のものです。

1.社会的孤立をなくすために

 現在の社会は、地域で安心して住み続けることが難しくなってきています。高度経済成長期の生活水準が右肩上がりだった当時は、40年、50年後に幸せな社会になっていると誰もが思い描いていたと思いますが、いったん成長が落ち着くと人口構成が変化し、他国が経験したことのないスピードで超少子高齢化が進行しています。

 高齢者に限ったことではなく、あらゆる年代層で一人暮らしが増えたり、世帯によって経済的な格差が広がっています。併せて、都市化や核家族化でコミュニティが衰退し、全国的に孤立が進んでいます。子育て中の世帯でも孤立する人たちが増えています。共働き家庭が多いので、子育ても身近に相談する人がおらず、孤立した中で行われているのです。

高齢者に目を向けると、これから認知症患者がますます増えていくことが予測されています。厚生労働省の2012年のデータによると、当時で約462万人と推定されました。2025年には認知症予備軍も含めて700万人前後になると予測されています。これは65歳以上の3人に1人以上の割合で、本当に人ごとではありません。

 厚労省でもこれからの社会の在り方について、さまざまな検討をしています。今年9月初め、厚労省が設置していた地域力強化検討会が最終とりまとめを発表しました。「我が事・丸ごと」の地域共生社会を目指し、高齢者だけでなく、子どもや障害者や母子世帯などさまざまな生活上の不安を抱える人たちをみんなで支え合う社会をつくろうという内容です。

 今後、具体的な取り組みを進めていくことになりますが、認知症高齢者だけをとってみても、支えを必要とする人が非常に増えていきます。その中で、行政の仕組みだけでは支え切れない部分を、地域住民相互の支えで補完していくことが求められます。住民に何から何まで担わせようというわけではなく、地域に求められているのは、孤立状態にある人や支える必要がある人たちをできるだけ早期に見つけて、つながりを持ち、危険な状態を少しでも未然に防ぎ、必要な公的サービスにしっかりとつなげる役割です。

 2015年4月に改正された介護保険制度においても、「新しい総合事業」として介護予防にしっかり力を入れ、「包括的支援事業」の中で地域づくりや社会参加を促しており、地域における住民支え合いの仕組みづくりが重要とされています。サロンやミニデイサービスなどの「多様な通いの場」を整備すれば、住民が関わって支えていける可能性があります。自分たちもいつかは支えられる側になるのだという「我が事」意識を持って、できることから行動することが求められると思います。

 地域の保健・医療・介護事業者がチームとなって情報を共有しながら支援が必要な人を支えていくためには、専門的なサービスが必要な人に適切に利用できるようにすることがまずは重要となります。それを下支えする介護予防やサロン活動などが地域の住民力によって担われることで、住み慣れた地域で安心して在宅生活を送ることを可能にすると思います。

 地域包括ケアの体制づくりのスタートは、高齢者が地域で住み続けられるようにすることでしたが、これからは高齢者も障害者も子どもも若年者も生活困窮者も、みんな丸ごと地域で支えていくという考え方になっています。本学内に地域包括ケア研究会をつくり、知多半島内の幾つかの自治体と連携して、0歳から100歳超までの地域包括ケアを実現するための具体的方策を検討する実践的研究をはじめています。

2.住民による支え合いの事例

 そうはいっても、住民による支え合いをどのように取り組んでいけばいいのか、よく分からないという地域もあると思うので、先行して取り組んでいる事例を幾つか紹介します。

 川崎市野川地区の「すずの会」では、高齢者に限らず、誰でも受け入れる活動をしています。代表の鈴木恵子さんは、自らが親を介護した経験から、「困っている人がSOSを発したら、みんなが支援に駆け付けられるような活動をしよう」と考え、この会を設立しました。会ではミニデイを月2回開催し、参加した人みんなで一緒にお昼ご飯をつくり、わいわい言いながら悩み事や困り事を相談し合う場を提供しています。そこには地域で困っている人の情報もどんどん集まってきて、活動の輪が広がっていきました。

 また、一人暮らしの人や自立生活に不安のある人がどこに居るのか、それを支えることができる人がどこに居るのかという情報を寄せ合って地図に落とし込む「支え合いマップ」の取り組みを行っています。興味深いのは、70・80代の一人暮らしで「見守りが必要」というシールを貼っている人に、「料理を作るのが好き」、「自宅を開放しても良い」という支える側のシールを合わせて貼っている人がいることです。見守られる側の人も、支え合いの役割を担ってもらえるようにしているのです。

 この支え合いマップの情報を活用して、ミニデイ以外に自宅を開放して良いという人の家で、気になる人を囲んで気軽に話せる「集いの場」ができています。これは、この地区には坂が多く「月2回のミニデイに行くのが大変、もっと身近に集まれる場が欲しい」という参加者の声に応じてはじめました。気になる人、見守りが必要な人が1人以上参加していることがルールなので、いろいろなグループがあります。子育て中のお母さんたちが集まって子育ての悩みを話し合うものもあれば、介護されているお年寄りと介護している家族が一緒に来てお茶を飲みながら話をするものもあります。また、男性介護者の会もあって、孤立しがちな男性介護者に特有の苦労・悩みや工夫について語り合います。開催頻度は、会によってさまざまで、無理をしても長続きしないので、できる範囲で開催しています。今では、野川地区全体で約30の自宅開放による「集いの場」が活動しています。

 横浜市栄区のUR公田町団地では、NPO法人「お互いさまねっと公田町」が団地の拠点を生かした支え合いの活動をしています。昭和30年代に入居が始まった公田町団地は丘陵地に造成されていて、団地内には拠点となる商業施設がありましたが撤退してしまったため、高齢者はバスで買い物に行かなければなりません。

 そこで、拠点となっているセンターのひさしがある所で、週1回「あおぞら市」を開き、自治会有志が野菜などを売り始めました。でも、あおぞら市だけでは不十分なので、この拠点を使って自分たちの活動をしたいとURに掛け合いました。URには法人格を持つ団体でなければ貸せないというルールがあるため、市の地域ケアプラザの協力を得て、2009年にNPO法人格を取得しました。

 その本気度はすごく、コミュニティ食堂を週5日開いています。日常的に買い物支援なども行われているので、ここに行けば誰かがいて、話をすることができ、声を掛けてもらえるという安心感が生まれています。拠点まで来ることができない人もいるので、できるだけメンバーが機を見て自宅を訪問し、様子を伺ったりしており、一定の見守り機能にもつながっています。見守り支援をしようといっても、24時間見張っているわけにもいかないので、異変をいち早くキャッチするためには、日常の活動をしながら、ちょっとした声掛けや見守りをすることが大切だと思います。

 代表の有友フユミさんは、月曜から土曜まで毎日この拠点に詰めています。有友さんに「なぜそんなことができるのですか」と聞くと、「みんなの元気な顔を見たり、お話ししたりするのが好きで、楽しいからよ」という答えが返ってきました。義務感を感じて活動しているとなかなか続かないので、楽しみながら活動することはとても大事なことだと思います。

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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