人にも環境にも良い「建築」を
まちの中で実践しながら学びました

入学して「建築」のイメージが一変

 高校時代は部活も早い時期に辞めてしまい、はっきりした目標も持てず、授業にもあまり身が入らないという毎日を過ごしていました。
 日本福祉大学に関心を持ったのも、最初は「得意科目で受験できそうだから」という理由でした。受験前に松本オフィスを訪ねてお話を聞かせていただいたところ、健康科学部福祉工学科では「福祉」と「建築」という2つの視点から学べると知り興味がわきました。
 「建築」というと、高校生の皆さんは設計図を描いて、図面通りに家やビルを建てるもの、と考えているのではないでしょうか。私も同じように思っていました。
 でも、大学で教わったことは「建物を作るだけが“建築”ではない。何も建てなかったとしても、人が集う仕組みを作れたならばそれも“建築”と呼べるのではないか」といったことです。自分が「建築」に持っていたイメージが大きく変わったと同時に、学ぶことがすごく楽しくなったんです。大学では人が変わったように勉強するようになりました。

国内外でのフィールドワークから学ぶ

 授業では図面を描いたり、模型を作る実習に加えて、さまざまな建築を見に行くフィールドワークも重視されていました。名古屋の都心にある空中庭園「オアシス21」や、日本の三大ニュータウンの一つとして知られる「高蔵寺ニュータウン」、波打つ屋根がユニークな「新美南吉記念館」、自然体験ゾーンのある「イオンモール常滑」などを訪れたことが印象に残っています。施設や建物自体のデザインや構造はもちろん、周辺の自然環境や、そこに暮らしたり、訪れたりする人との関係まで含めた「建築」について実感を伴って学ぶことができました。
 3年生の時にはゼミの先生の紹介でフィリピンに行き、名古屋工業大学やフィンランドの大学生とチームを組んで現地の人と一緒に防災のワークショップを行ったこともあります。この経験がきっかけで、卒業論文を書く際にもフィリピンを訪問し、スラムと呼ばれる地域の住宅の間取りを調べたり、住民に聞き取りやアンケート調査をしました。「建築」を通して人間の根源にあるものとは何か、ということを深く考えられたと思っています。

古民家のシェアハウスで暮らす

 健康科学部のある「半田キャンパス」は、亀崎という伝統ある町のすぐ近くです。海運業で栄えた江戸時代の面影を残す街並みの中に、古い建物を生かしたお店やレストランが少しずつ増えています。
 最初は大学の指定アパートに下宿していたのですが、3年生の後半からは亀崎の古民家を借りてシェアハウスにし、後輩と3人で住みました。授業やゼミで「まちに溶け込んで活動することが、建築を学ぶ上で重要だ」とよく言われていたので、貸してもらえる空き家を見つけて実践したんです。
 住んでみると想像以上に古い建物で驚きました。(笑)住人の一人は海外からの留学生だったので、言葉が通じず苦労したこともあります。でも、よく友達が遊びに来たりして本当に楽しかったです。共同生活は大変なこともあるけれど、一人暮らしでは得られない経験がたくさんできました。このシェアハウスは私の卒業後も後輩たちが引き継いでくれて、今も学生が住んでいます。

亀崎の町全体が学びの場

 亀崎のまちおこしの拠点となっている「まちかどサロンかめとも」を借りて、亀崎小学校の子どもたちと建築のワークショップをしたこともあります。マシュマロと細いパスタを使ってタワーを作るゲームをして、どんな構造だとタワーが強く、安定するかを考えました。その後は広場に出て、竹を使って子どもたちが入れる大きさの「秘密基地」をみんなで作りました。
 亀崎の人たちは本当にあたたかく学生を受け入れてくれます。歴史を感じる街並みの中で、年齢も職業もさまざまな人たちと生活をともにしながら「建築」を学ぶことができるのでは、半田キャンパスならではの魅力です。今も後輩たちが亀崎のまちやものづくりの楽しさを伝える「亀崎建築ものづくり塾」という活動をYouTubeで発信しているのを見ると頼もしく感じます。

関連リンク亀崎建築ものづくり塾

環境にも人にも良い「ユニバーサルデザイン」の建築を

 現在は積水ハウス株式会社で注文住宅の設計をしています。就職先に積水ハウスを選んだのは、建物と一緒に庭や植え込みといった外構の提案や施工もできるから。大学で周辺環境も含めてトータルに建築を考えてきたことを生かせています。
 住宅は人の人生に深く関わる仕事です。打合せの際にはお客様の詳しい生活スタイルや年収などデリケートな情報をうかがうこともあり、いかに信頼関係を築けるかが問われます。フィリピンや亀崎で、言語も文化も考え方も年齢も違う人たちと活動してきた経験が、お客様と接する上でも役立っていると感じます。
 私が大学で学んだことを一言で表すならば「ユニバーサルデザイン」だと思っています。障害のある方や高齢者にとっての使いにくさを取り除く「バリアフリー」はもちろんのこと、子どもや若い人も含めた誰にとっても快適に使える建築をめざす考え方です。
 これからも、二級建築士としての知識とユニバーサルデザインの視点をもって、住む人にも環境や社会にも良い影響をもたらす住宅を作っていきたいです。