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第16回福祉教育研究フォーラムを開催しました

レポート
2023年03月16日

 2023年2月11日(土)本学東海キャンパスを拠点とし、一部のプログラムをオンライン中継する形で、「第16回福祉教育研究フォーラム」を開催しました。当日は全国各地の福祉系高校教員を中心に100名がご参加されました。

開会

 主催者を代表し、児玉 善郎 学長が「今回3年ぶりに対面で本事業が開催できたことをとても嬉しく感じている。このような機会を通し、高校と大学の教員がともに福祉の魅力を改めて考え、発信していくことが重要となる。そのための学びの場に本フォーラムがなることを願っている」と挨拶しました。

児玉 善郎 学長

 また、全国福祉高等学校長会の髙橋 秀親 理事長から「超高齢社会の我が国にとって、福祉という領域と人材の重要性は年々増していると感じている。福祉に関する知識や経験を共有し学び合う本フォーラムの存在はとても大きい。本日はこの機会を通して、ご参加されている皆様から福祉に対する熱い想いを共有し、今後の活動に繋げていきたい」との力強いご挨拶をいただきました。 

髙橋 秀親 氏(全国福祉高等学校長会 理事長)

第1部講演会「地域に必要とされる福祉教育の取り組み」

 「地域に必要とされる福祉教育の取り組み」と題し、矢幅 清司 文部科学省初等中等教育局 視学官にご登壇いただきました。はじめに、日本の社会構造の変化について、生産年齢人口の減少や長寿化、労働生産力がOECD加盟国の中でも下位であるなど、参加者のイメージと実際のズレについてご指摘いただきました。また、昭和と違い、令和の時代では雇用の考え方が変わり、家庭を持ったり出産する人が減っているため、これからの時代はただ『生きる力』ではなく、『生き抜く力』が重要だと力強くご説明いただきました。そして、介護需要はこれからますます高まるにも関わらず、介護職員数が足りないことを踏まえ、人がしなくてよい部分についてはITやロボットの活用を進めていきたいと話されました。

 次に、福祉系高校の定員充足率が7割前後、介護福祉士養成施設の定員充足率が5割程度と右肩下がりになっており、福祉系高校の存在が危ぶまれていると示唆しました。一方で、介護福祉士国家試験の合格率は全体平均で70%なのにも関わらず、福祉系高校全体では8割が、特に新卒に限っては9割を超える合格者が出ており、日頃の先生方の指導力の賜物だと評価しました。

 最後に、15歳人口はこれまで100万人を超えていたが、令和4年から18年にかけて81万人まで減少(24%)し、地域の学校数も減少し、高校のない地域も増えていく。先生方には高校をただの教育機関ではなく、地域活性化の拠点として捉えていただきたい。介護には素晴らしい魅力があり、先生方には介護技術コンテストをはじめ様々な取り組みをしていただいている。しかし、発信力が弱く、小中学生に届いていない印象があるため、メディアやSNSを活用して魅力を伝えていただきたい。また、福祉や介護の知識は他の職業でも必ず活きてくる。これからも未来の社会を支える人材の養成にご尽力いただきたいと締めくくられました。

 参加者からは「福祉を学んだからそのまま福祉の道ではなく、自分のベースにするという考え方と地域とどのように関わっていくのかということを学校に持ち帰り考え、活かしていきたいと思う。(福祉系高校教員)」「特に印象に残ったのは「“生き抜く力”を育てる」という言葉。社会の中で様々な変化が起こる中で、教員が生徒に色々な体験を通じて、経験から学ぶ機会を作ることが大切であると感じた。また、福祉を学ぶ良さを発信する方法も、その時の社会に合わせて工夫することが重要であると考えた。(大学生・大学院生)」等のご意見をいただきました。 

矢幅 清司 氏(文部科学省初等中等教育局 視学官)

第2部分科会「①観点別評価について考える」

 はじめに、髙木 諒 氏(愛知県立古知野高等学校教諭)より、文部科学省が令和3年に発刊した「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料をもとに、教育目標の設定についてお話いただきました。古知野高校では、グラデュエーション・ポリシー(育成を目指す資質・能力に関する方針)とカリキュラム・ポリシー(教育課程の編成および実施に関する方針)、アドミッション・ポリシー(入学者の受け入れに関する方針)を明確にし、教育を行っており、国家試験合格率は過去10年の平均で97.1%を誇っています。しかし、進路としては、就職・進学ともに5割ずつであり、専門的な学習をしたから就職を必ず勧めるのではなく、一人一人の個性や、希望にあった進路を実現しているとご説明いただきました。

 続いて、「主体的に学習に取り組む態度」の考え方として、粘り強く知識や技能等を習得するための取り組みと自らの学習を調整しようとする側面の2つの面からの評価が必要だとご説明いただきました。

図:ABCの評価基準の例 具体性の線引きについて解説する図

 3観点評価は実際難しく思われることも多いが、生徒が主体的に学習に取り組み、表現力を身に付けるために必要なことなので、授業以外の改善に取り組んでいただきたいと話されました。

 参加者からは「今年度から観点別評価がはじまり、相談しながら進めているが、ヒントが多くあった。福祉科教員全体で一緒に考え、無理のない範囲で校内で議論していきたい。(福祉系高校教員)」や「若手の福祉科の先生が地に足が着いた深い考えのもと、生き生きとお話ししてくださり、とても勇気づけられた。(福祉系高校教員)」との意見が寄せられました。

写真:フォーラムの様子

第2部分科会「②(福祉の学び)授業実践報告」

 はじめに、茶木 正幸 氏(名古屋市立西陵高等学校教諭)の報告から行われました。学校紹介では、パンフレットに載っている福祉を学ぶ生徒を中心に紹介いただき、今後の福祉教育を担う人材の育成に力を入れていることが伝わりました。報告はユーモアを交えつつ、生徒との授業中の関わり方や、授業内容に興味を持ってもらうような伝え方の工夫、実際に授業で使用している教材をご紹介いただきました。

 続いて、塚元 雅則 氏(愛知県立岡崎東高等学校 教諭)から報告がありました。勤務校の福祉科教員の配置は1名(塚元氏のみ)という状況の中、学校内での福祉科の立ち位置や存在意義に関しての苦悩、やりがいなどを話されていました。また、福祉教育を進めていく上で、家庭科との連携(家庭科の授業の一部で福祉を教える機会を得ている)や、社協との連携なども紹介され、塚元氏の生徒の意欲を引き出す工夫、そして目の前の生徒のために自分に何ができるのかということが伝わってくる内容でした。

 報告後、teacherとは、「教える」ことと併せ、生徒の気持ちをどのように受け止め、力を引き出し、輝かせるかという「受け止め方」も重要であるということを話されました。最後に、茶木氏が「今後は聞く側ではなく、ぜひ発表側になり、共に学びを深めましょう」との言葉で締めくくられました。

 参加者からは「講師の雰囲気や、熱さを感じられるものだった。現在、どのように福祉を伝えるべきか、生徒と関わるべきか悩んでいることが多かったため、とても貴重な時間となった。私もあの場で発表できるような人間になるため日々努力していこうと思う。(福祉系高校教員)」や「教育の中で生徒の意見を生徒に共有するという取り組みが、とても良いと感じた。生徒の視野を広げることにも繋がると思う。(大学生・大学院生)」との意見が寄せられました。

第2部分科会「③現場と学校がつながる意義と課題」

 はじめに、吉田 理 氏(社会福祉法人フェニックス法人本部地域共生社会推進室 室長)より、子育て支援の基盤づくりを目指し、世代間において分断させない関係づくりを目指し、2010年度より始動した『みんなGOZAREプロジェクト』についてお話いただきました。

 各務原市の調査によると、幼少期の負の経験は負の連鎖を生み出すリスクがあり、一方で、児童館や近隣ケアグループ、障害者相談支援センターなどが社会的排除の負の連鎖のリスク削減に効果があるとのことで、つながりを大切にし、みんなが役割を持って、自分らしく活躍できる社会を目指して現在も活動を続けておられるそうです。プロジェクトでは、インテリアプランナーや温泉バックパッカー、フレンチシェフ、陶芸家など多岐にわたる体験ができるようにしたとのことです。このプロジェクト以外にも当てはまることですが、「正しいこと」は伝わらないこともあるが、「楽しいこと」は伝わる、をモットーに、教師・生徒。プロジェクトメンバー等の関わる全ての人が無理をしすぎないことが継続してイベントを続けるコツだとお話いただきました。

 続いて、佐々木 善隆 氏(岐阜県立岐阜各務野高校 教諭)より、ご自身がボランティア部の顧問を務めていることもあり、フェニックス様と関わりができ、担当者間で将来の地域の担い手を育てたいという想いが共有できたため、連携事業が成り立っていると説明いただきました。このプロジェクトを通して「課題を創造的に解決する姿勢、力の育成」を目指しているそうで、校内でも1年をかけて会議や働きかけを行っていると詳細を伝えていただきました。このプロジェクトは生徒にとっても子どもや大人、障がいのある方など様々な人と関わりながら、お互いに学ぶことができるイベントと認識されているそうです。

 このように、高校と地域の社会福祉法人がともに協力し、地域の活性化につながるような事業が増えていくことを願い、この分科会を終了しました。

 参加者からは「地域と繋がりをもって活動するために、何が必要なのかを考えることができた。繋がりを作り、活動を深め、継続させていくために重要なキーワードをいただくことができた。(福祉系高校教員)」や「時間が短かったので、部会参加費をつのって、後日オンライン会(懇談会兼ねて)があると嬉しい。施設、学校両者の話を聞けてよかった。(大学教員)」との意見が寄せられました。

吉田 理 氏(社会福祉法人フェニックス法人本部地域共生社会推進室 室長)
佐々木 善隆 氏(岐阜県立岐阜各務野高校教諭)

第3部グループワーク「福祉教育の魅力の創造・発信について考える」

 冒頭、矢幅視学官より第1部での講演を振り返りつつ、福祉教育の魅力を高校生だけに留まらず、小中学生にも広めるためにはどのような方法があるかグループごと(全8グループ)に考えるようお話いただきました。
 グループワークは徐々に盛り上がりを見せ、全グループから話し合いの内容を発表いただきたかったのですが、時間の都合もあり、一部のグループのみ発表していただきました。各グループで話し合った内容の趣旨は以下のとおりです。

<1グループ>

①普通科出身で福祉を学びたいと考えた理由

  • 子どもをきっかけにして福祉に興味を持ち、面白さを伝えたいと思うようになった。
  • 家族をきっかけにし、福祉に触れた。

②福祉を学ぶ機会はあまりない…。

  • それではいつから学ぶべきか?自我が芽生えた時。保護者からの教育。
  • 小学校の社会科の授業や自由研究。

③福祉に触れる機会をどのように設定するのか?

  • 文化祭や総合の授業、高校生が中学生向けにSNS等を活用した発信。

<2グループ>

①福祉を知ってもらうための取り組み

  • 過去には地域に向けた取り組みや発信を行っていたが、近年はコロナにより不十分であり施設との交流も薄れている。また、地域によっては福祉科を持つ高校がほとんどなく、教員の学びが深まらない実態もあるため、高間連携も重要。

②福祉の魅力発信

  • 対面とオンラインの良さを活かしながら、小中学生に福祉に触れてもらう授業や体験型イベントを開催する必要がある。オンライン授業により、入学につながった事例もいくつかあるため、これからも継続的に続けていく必要がある。

③福祉の魅力は何のために発信するのか?

  • 生徒募集のためではなく、誰かを幸せにできる人を育てることに意味がある。生徒のことで手一杯なのはみんな同じだが、生徒は先生を見ているので、顔に出してはいけない。

<3グループ>

①現状の共有

  • 施設とのつながりはあるが、行政との連携はできていない

②してみたいこと

  • 地域より広い単位でのイベント等の広報
  • 手話を広める
  • 中学生に興味をもってもらうために、SNSを活用してアピール
  • 活動をメディアに発信し、一般の方に興味を持ってもらう
  • 生徒の活動の場を作ってくれる地域の方や施設を探す
  • 校内での仲間づくりをサポートする

<4グループ>

①現状の共有

  • 社協や福祉系団体との連携が薄い。また、福祉人材センターは「総合的な学習の時間」を活用し、福祉の魅力を訴求したいと考えている。
  • 福祉科の生徒は障害や介護の必要性がある家族がいるケースも少なくなく、物事に対して主体的に取り組む印象。

②してみたいこと

  • 学校間連携を強化し、社協とのつながりを強めたい
  • 社協と連携し、キャリア教育を行いたい
  • 社協の方から生徒が手話を学び、小学校で教える。生徒は手話だけでなく、子どもとの接し方を学び、子どもは福祉に触れるきっかけを得る。子どもに福祉に触れてもらうことで、未来の選択肢の1つにしてもらう。

<5グループ>

①大学生への福祉教育

  • 施設でアルバイトすることにより、経験を積みながら給料も稼ぐことができる。
    →施設での現場経験を積んだ教員の方が、生徒に対して実態に即した教育ができるのでは
  • 施設等の現場でも、福祉教育の現状を知りたいとの声がある。

②福祉へのイメージ

  • 介護に対する強いマイナスイメージ
    →SNSを活用し、福祉教育の裾野を広げる必要がある
  • 介護=福祉という固定概念を変えるため、どのようにアプローチしていくか考える必要がある

<6グループ>

①福祉を知らない層に対しての発信

  • 人生に関わることを知らないというのは問題がある。生活には必ず福祉が関わっているので、これも福祉だと気付く機会を作る必要がある。

②助っ人高校生派遣システム

  • 福祉を専門に学ぶ高校生5人は専門家1人に匹敵する。高校生を活用することで、福祉が活性化するのではないか。

③福祉の魅力発信

  • 福祉を知らない人(他教科教員・生徒)を減らすための取り組みを推進する。
    →SNSやパンフレットは校長会主導のもと、体制を整える。ターゲットは付きたい職業がまだ固まっていない小学がよい(体験イベントなどを通して福祉のイメージを良いものにする)。

<7グループ>

①福祉の魅力発信

  • 高校生がオレンジカフェ(認知症カフェ)を開き、福祉の魅力発信と自分たちの力でイベントが実施できたという自信をつける。
  • 高校生が中学生に対し、認知症を教える。
  • 高齢者施設だけでなく、児童養護施設で実習を行うことで、選択肢を広げる

②高校教員の魅力とは?

  • 生徒の力を引き出し、自信を持たせるような出来事を経験させ、選択肢を増やす。
  • 生徒は成功だけでなく、失敗も経験するがそのサポートを通して成長を実感できる。

<8グループ>

①地域とのつながり

  • 校内で知識を深める
  • SNSを通し、外部と連携し、情報を発信する。
  • 対面とオンラインを使い分けながら、イベントを開催する。

②福祉の魅力発信

  • 福祉を学ぶことの楽しさ、メリットを小中学生に伝える。
  • メディアに発信し、一般の方や子どもに興味を持ってもらう

 発表後、矢幅視学官より「各班で熱心に情報共有、話し合いをしていただいていた。ぜひその内容を各校に持ち帰り、活かしていただきたい。文部科学省・厚生労働省が実施した縦断調査の項目の1つでもあった満足度調査においても、興味を持ち学校選択を行った生徒の方が、満足度が高いという結果がでている。生徒が目的意識を持って学校選択をできるように導いていってほしい。また中学1年生時点で、女子生徒で約5割、男子生徒で約4割が就きたい職業が決まっているとの結果が出ているため、高校生だけでなく、小中学生にも福祉に触れる取り組みを行うことが重要」だと講評されました。

 参加者からは「他校・他県の状況を知ることができた。また、発信をしていきながら、福祉を広めていきたいなと感じることができた。(福祉系高校教員)」や「教育・社協・学生といった普段交わることのないメンバーで交流することができ、その職種の立場にたった「福祉教育」の考え方があることに気付くことができた。(大学生・大学院生)」との意見が寄せられました。

グループワークの様子

閉会

 最後に閉会挨拶として德田 嘉美 氏(三重県高等学校福祉教育研究会 会長・三重県立伊賀白鳳高等学校校長)より、「本校では、保育園や小学校と連携授業を行っており、生徒は集まっている。先ほどの矢幅先生の話にもあったように、早い段階から関わりを持っていくことで選択をしてくれる生徒がいることを念頭に、取り組んでいただければと思う。
 県内の教員数も減っていることもあり、日本福祉大学さんのように志のある若者の育成に励んでくださっている機関が東海地区にあること、また、このように情報を共有し合い、交流を図れる機会があることを有り難く感じている。今後も継続して実施されていくことを祈念している」とのご挨拶をいただき、本フォーラムを締めくくられました。

德田 嘉美 氏(三重県高等学校福祉教育研究会会長・三重県立伊賀白鳳高等学校長)