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第15回福祉教育研究フォーラムを開催しました
2022年2月12日(土)オンライン(Zoom)で、「第15回福祉教育研究フォーラム」を開催しました。全国各地の福祉系高校教員をはじめ、福祉施設職員や社会福祉協議会職員など、総勢125名に参加(150名が申込)いただきました。
開会
主催者を代表し、山田 壮志郎 本学学長補佐が「本フォーラムは青年期の福祉教育について様々な角度から学ぶことを目的とし、14年前から開催されている。コロナ禍により、オンライン教育は急速に進んだが、質や教育効果についてはまだ成熟していないと感じている。一方、オンライン教育はこれまでにはなかった強みを持っているため、効果的に活用するための方法について学びあう機会としたい」と挨拶されました。
第1部 実践報告「ウィズコロナ社会における福祉人材育成のヒント~人事担当と高校教員による現場報告~」
山田本学学長補佐によるコーディネートの下、3名の講師よりご報告いただきました。
社会福祉法人昭徳会特別養護老人ホーム安立荘主任グループリーダー 則竹 宏亮 氏 による報告
20年以上にわたり、特別養護老人ホームで介護の仕事に従事してこられた則武様より、日々の業務や現場教育で心掛けていることについてお話いただきました。
はじめに、「福祉の仕事は社会から3K(汚い・きつい・給料が安い)として見られることが少なくない。しかし、職員は利用者の方やそのご家族に感謝されながら働くことに誇りを持っている」と語りました。職場には理念や方針が存在するが、これを浸透させることはとても重要で、「幸福(しあわせ)」という法人理念を大切にされているそうです。
現場の新人教育では特に『日々思いやりや感謝の心を持ちながら利用者の方に接すること』を意識しており、「法人で一丸となって利用者の幸福を実現できるよう、これからも教育には力を入れていきたい」と締めくくられました。
三重県立明野高等学校 沢 拓郎 教諭による報告
福祉科教諭である沢先生からは、代替実習として教員が基礎疾患を持つ利用者となって現場で想定されるトラブルを意図的に起こし、生徒が課題を発見し、改善策を考えるよう自らが考案された「沢さんワーク」についてご紹介いただきました。
はじめに、評価方法とワークの進め方について以下のようにご説明いただきました。
≪評価基準≫
- 利用者の気持ち、状態に寄り添うことができたか
- 自立のために自己選択・決定を促すことができたか
- ICF(国際生活機能分類)で定められた基準に目的意識を持って行動できていたか
- 身体構造を理解し、介護者・介助者がともに安全・安心な介護ができていたか
※これらの基準に従い、3名の教員で評価を行う
≪ワークの進め方≫
- 利用者(教員)に対する質問を作成し、アセスメントと動画撮影を行う。
- 撮影した動画を見ながら、気づきや改善策をまとめる
- 次回の準備を行う
また、成績評価は生徒がレポート形式で介護計画の策定を行い、教員は実習を通して「何を身につけてもらいたかったのか」を添削して伝えたとのことでした。
このワークを通し、生徒は「介護技術や情報収集・課題解決力を身につけるだけでなく、介護実習の意義ともいえる『利用者との関係構築』が体験できた。目標の設定や利用者になりきる演技力など、課題が多く苦労されたそうですが、生徒の成長を感じることができ、とても良い機会になった」と締めくくられました。
三重県立明野高等学校 角谷 道生 教諭による報告
続いて、同校の角谷先生からは、『高校福祉におけるSTEAM教育※の成果と課題』というテーマのもと、希望者を対象として施設で行った事例をご紹介いただきました。
今回は4体のコミュニケーションロボットを用いて施設利用者の方と接したそうですが、最新の技術をもった高性能ロボットではなく、優しい印象で簡単に使える犬型ロボットが特に人気を誇ったとのこと。この実習体験を通し、生徒は安全性や操作性だけでなく、利用者に合わせた活用判断能力や新たな介護の在り方を模索する姿勢を学びました。
最後に「STEAM教育には環境整備や費用等大きな問題があるため、福祉・介護における有用性を示していきたい」と締めくくられました。
※STEAM教育:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念
文部科学省初等中等教育局視学官 矢幅 清司 氏による講評
3名の報告後、文部科学省初等中等教育局視学官の矢幅先生より、それぞれの発表について講評いただきました。
はじめに、福祉施設からの現場報告については「福祉のイメージは依然として3Kの印象が強いが、その理由はあまり積極的に情報発信を行ってこなかったためだと考えている。このイメージを変えるためには、データを根拠とし、継続して力強く社会に示す発信が重要である」と話されました。
次に高校現場報告については、「『沢さん』ワークは実践的な演習ができるだけでなく、具体的な評価方法まで考えられているという点で評価できる。3観点評価の追加や利用者の方にご協力いただく形での実習により、より具体的かつ利用者の思いに沿った演習ができると思うので、ぜひ改善の検討をしていただきたい。
またSTEAM教育については、「本来であればコロナ禍ではなくても進めなければならない教育。ICTや介護ロボット等を使用できる教育と環境整備を早急に進めていきたい」と話されました。
最後に、この2年間施設実習を行うことができなかったことにより、専門職としての意識を高める前に入職となり、入職後に悩むケースがあるのではないかと思う。学校と施設がともに手を取り合い、福祉の未来を担う人材教育を行っていただきたいと締めくくられました。
参加者からは「現場の指導者の活動の様子や高校での取り組みは、とても興味深かったので、聴講した。業務多忙の中でも、ここまで実践されている方々がいる事を知り、頑張らねばと思った。」(高校福祉科教員)や「代替実習や介護ロボット等のICTを活用することについては、対人援助の担い手を育てる上で大いに役立つと思った。できることを工夫し、情報教育が福祉の面白さや楽しさに気付く手段として広がっていくことを期待したい。」(高校福祉科教員)等の感想をお寄せいただきました。
第2部 シンポジウム「ICT教材の効果的な活用について」
本学社会福祉学部准教授の小林先生によるコーディネートの下、3名の講師よりご報告いただきました。
本学全学教育センター 村川 弘城 講師による講演
本学全学教育センターの村川先生より、「ICT教材の効果的な活用について」と題し、急速に進んだICT環境に戸惑う先生方や効率的な授業方法を模索する先生方に向けて次のように説明いただきました。
どのようなことにおいても言えることだが、教育も『手段と目的』の違いを理解して目標を設定する必要がある。コロナ禍により、ICT教育や環境の整備が急速に進んだが、教育×ICTの科学変化で期待することは、生徒に個別最適化した学びを提供することであり、ICT教材の活用でメリットとなる以下の4つを話されました。
- 残すことができる(スピーチ等を録画することで振り返ることができる。また元に戻すことが簡単なため、試行錯誤させることが可能となる)
- 見せることができる(自分の考えや動画をリアルタイムで共有することができる)
- 繋がることができる(同じ科目を担当する教員がZoom等を介してつながることで、悩みの相談や資料の共有を行うことができる)
- 取り入れることができる(アプリを使用することで、手間を省くことができる。蓄積されたデータの分析や加工も可能となる)
これまでは教員が学校で、同じ内容を同じペースで説明することが一般的であったが、これからの時代は、教える側も受ける側も場所や時間に制約を受ける必要がなくなるため、これを上手く活用していただきたいと締めくくられました。
岐阜県立岐阜各務野高等学校 佐々木 善隆 教諭による報告
続いて、佐々木先生より、「ICT教材の効果的な活用事例について」と題し、事例をご報告いただきました。
冒頭、勤務校でのICT環境やオンライン学習支援についてご説明いただきました。
- 学習ポイントと時間配分を明示し、学習に見通しを持たせる
- 全体と個別への声掛けを併用した形での学習の見届け
- 授業スライドの配布
- 小テストの実施
次に授業等で使用している『Metamoji ClassRoom』と『manaba』というツールの特徴についてご説明いただきました。これらのツールを使用する上での工夫として、以下の4点をお示しいただきました。
次に『協働的な学び』の支援として、実際に行われた授業の流れを2つご説明いただきました。
- 課題について個人・グループで検討し、クラス全体で共有。その後、共有事項の振り返りを行うことで、協働する力を養う。
- 自分が興味を持っていることを問いとして設定。その後、調べて発表させることで、課題発見力・解決力を身に付けさせる。
ICT機器を通して、教員は授業の時間短縮、生徒は学びが広がり、深まったと感じた一方で、生徒の日常の学習姿勢が浮き彫りになっており、きちんと学習習慣を身に付けさせることが課題だと認識しているそうです。
最後に、「ICT機器は教育を行うための手段に過ぎないため、上手く活用することで、知識や技能・人間力を伸ばしていきたい」と締めくくられました。
三重県立伊賀白鳳高等学校 猪岡 歩未 実習助手による報告
最後に、猪岡先生より、「ICT教材の効果的な活用について」と題し、事例をご報告いただきました。
冒頭、三重県のICT環境や支援体制についてご説明いただきました。続いて、現状の課題として、福祉科目におけるICT活用の事例数が少ないこととICT教育効果より負担の方が大きく感じていると率直な感想をお伝えいただいた後、実践例を2つご紹介いただきました。
- オリジナル教材(動画)の作成
生徒ごとのペースに合わせた学びを提供するため、オリジナルを作成し、個別学習支援と欠席者への学習補償を行っている - 事例検討や学習成果発表
協働的な学びを深め、要約・発表能力を育む取り組みを行っている。
最後に、「ICTは幅が広く、効果もとても高い。しかし、効率的に活用するためには、検討や経験が必要になるので、皆さんとの情報交換が必要」と締めくくられました。
その後開催したシンポジウムでは、『学外交流を行うまでの苦労や方法』が話題となり、段取りを組むまではよかったが、お互いがICTに慣れておらず、Zoomに苦労したと話されました。また、『実習の振り返りで心掛けていたこと』については、「事例を紹介するためのPPTとそれを補足するための動画を生徒たち自身が考えて作成したため、主体的に取り組む力が身に付いた」と話されました。
コーディネーターの小林先生は、「超スマート社会で必要とされる介護技術の習得や課題解決力の力を育むための事例の紹介をしていただき、多くの学びがあった。まだ手探り状態ではあるが、それぞれの事例でのメリットやデメリットについて知ることができた。これらの学びが参考になり、今後に活かしていただけたら嬉しく思う」と締めくくられました。
参加者からは、「なぜICTを活用した授業をするのか、その意義を確認するとともに、高 校教員間で、より授業研究を積み重ねていく必要性を感じた。」や「ICT教材の活用の可能性が理解できましたが、まだまだ自分の中でうまく業務に活かしたり、学校等に提案するイメージが足りない。県内でICTの活用に関する相談に応じたり、アウトリーチした事例もなかったため、参考になった。」(社会福祉協議会職員)等の感想をお寄せいただきました。
第3部 ブレイクアウトセッション『超スマート社会』における青年期の福祉教育の在り方
第3部の開催に先立ち、三重県立朝明高校の曽根﨑先生より話題提供として、勤務校での取り組みとして、『高齢者施設との交流』および『東海地区高校生介護福祉研究発表会』の開催について、オンラインでの実施による事業展開やメリットについてご説明いただきました。
その後、1グループあたり8~10名程度に分かれ、30分程度グループワークを行いました。参加者からは「コロナ禍でのICT活用のメリット・デメリットについて知ることができた。しかし、実習などはやはり対面がいいと思っている学生や教員が多いことがわかった。」(本学学生)や「ICTの活用が叫ばれている中、現場の学校では一人一台のタブレットの配付が未達の地域があることや、各学校の状況等を共有することができました。Zoomを活用してのフォーラムでしたが、他県の先生方とも繋がることができ、双方向で意見交換や皆様のお顔も拝見でき、考えていた以上にZoomでのフォーラムも有意義な会になることが分かりました。」(高校福祉科教員)等の感想をお寄せいただきました。
閉会
最後に閉会挨拶として清水 豊(三重県高等学校福祉教育研究会 会長・三重県立朝明高等学校校長)より、「全体のプログラムを通じて様々な学びがあった。特にコロナ禍で急速に推し進められたICT教育や環境の整備については、手探りのため多くの事例について学ぶことができた。今回のフォーラムが参加者の皆さんにとって、得るものが多い場となっていたならばうれしく思う」とのご挨拶をいただき、本フォーラムを締めくくられました。