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拠点リーダー、大学院委員長、社会福祉学部教授 |
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二木 立 |
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早いもので、本学の21世紀COE研究プロジェクトも今年で4年目、残り2年間となりました。本稿では、まず、本研究プロジェクトの目的を再確認した上で、過去3年間の成果をふり返り、今後2年間の展望を述べたいと思います。
本研究プロジェクトの目的と3年間の成果
(1)本研究プロジェクトの目的と『福祉社会開発学の構築』出版
本研究プロジェクトの目標は、先進国の高齢者ケアを中心とする福祉分野の政策科学・評価研究と発展途上国の参加型社会開発とを統合して、新しい学問領域である「福祉社会開発学」を創出し、本学を中心にその「アジア拠点」を形成することです。従来、これら2領域の研究は、国内的にも、国際的にも別個に行われており、それの統合・融合は世界初の野心的試みです。
そのために本研究プロジェクトでは、この3年間、関連する5分野(3年次からは5領域)の個別研究をすすめるとともに、全分野(領域)の研究者・大学院生が参加するCOE推進委員会などで、各分野の共通基盤となる福祉社会開発学の構築をめざして、学際的共同研究を進めてきました。
それの最初の成果が、昨年3月に出版した『福祉社会開発学の構築』(ミネルヴァ書房)です。本書により福祉社会開発学の基本的特徴は示せました。それらは、政策環境として「地域社会」を重視し、地域社会の各主体間の相互作用を重視する「プロセス・アプローチ」と「アウトカム評価」とを統合することです。本書は福祉社会開発学構築の「中間報告書」と言えます。
(2)世界水準または世界水準となりうる準備段階中の研究成果
福祉社会開発学のアジア拠点形成の目的に沿ったプログラム開始後の研究であって、特に世界水準と判断される成果は、余語教授が中心となってまとめた『地域社会と開発の諸相』です。これは英文・全6冊の大著で、今年度より順次刊行予定です。本書は、途上国のミクロ開発・研修分野で用いられてきた「余語理論」を集大成し、それを東南アジア・南アジア・アフリカ・南米の最高レベルの大学・研究者との共同研究によって検証しています。
次に、世界水準となりうる準備段階中の研究は2つあります。1つは、介護保険の自治体単位および利用者単位のデータベースを構築・蓄積し、それに基づいて作成した高齢者ケア政策評価ソフトを開発・運用していることです。これにより、高齢者ケアのマクロ・メゾ・ミクロレベルでの多面的評価が可能となり、その成果は介護保険の政策評価や改革の基礎資料としても用いられています。これは世界最高水準のデータベースと評価ソフトで、今後、韓国等の高齢者ケアの政策評価研究にも応用可能です。
もう1つは、『日韓両国における福祉国家の形成・再編と福祉社会の開発』(中央法規)です。本研究は、本学を中心とする日韓研究者の共同研究で、従来の欧米諸国中心の福祉国家モデルとは異なる「東アジア福祉国家モデル」の可能性を提起するとともに、それを通して福祉国家の新たな国際比較の基準・視点を提起しています。
(3)アジア拠点形成のための組織的取り組み
次に、拠点形成のための組織的取り組み面での成果としては、以下の5つがあげられます。福祉社会開発学のアジア拠点を形成するための研究・研修体制は急速に整備しました。
第1に、学内の研究体制に関しては、研究活動の遂行・点検を本学の管理運営機構の中に明確に組み込みました。従来は、本学のような中規模・中堅大学でも、所属学部・研究科や研究領域の壁は厚かったのですが、この機構改革により、一気にそれらの枠を超えた学際的共同研究が進みました。
2番目に、延世大学、南京大学、フィリピン国立大学、モンゴル国立大学などのアジアの有力大学およびイギリス・マンチェスター大学との共同研究・研究交流・共同研修事業が進んでいます。第3に、COE採択後、中国・韓国、その他の途上国からの優秀な留学生の大学院入学も急増しています。第4に、国内の中山間地域の再生・福祉社会開発のための人材養成の研修事業を、当該自治体の協賛を得つつ、各地で開催しています。
第5の、そしてもっとも強調すべき成果は、2005年度にCOE研究プロジェクト関係者だけで5人の博士号授与者を輩出したことです(社会福祉学研究科3人、情報・経営開発研究科2人。大学全体では7人)。実は、本学COE研究プロジェクトの第1・2年次の最大の弱点は博士号授与者がわずかであることであり、この点は昨年の「中間評価」でも厳しく指摘されました。しかし2005年度にはこの弱点を一気に挽回できました。しかも、2006年度以降も、着実に博士号授与者を出せる見通しが立っています。
今後2年間の展望−3つの目標とそれを達成するための方策
本学の研究プロジェクトでは、今後2年間に達成する目標として次の3つを掲げています:@福祉社会開発学の研究成果を「二本立」で発表すること、A2005年度に続き、COE関連の学位取得者を輩出すること、B福祉社会開発の研修・人材養成の国内外の拠点を形成すること。以下、順に簡単に説明します。
@福祉社会開発学の研究成果を「二本立」で発表することの第1の柱は、5領域の個別研究を、福祉社会開発学への統合・融合を念頭に置きつつ、旺盛に継続し、その研究成果を国内外に発信することです。具体的には、専門雑誌での発表と専門書の出版に加えて、国際社会への発信を重視します。実は、この点は昨年度の「中間評価」において、本学の研究プロジェクトの弱点として指摘されたことでした。
国際社会への発信について本研究プロジェクトが特に重視していることは、英語によるものだけでなく、東アジア諸国の言語(中国語、韓国語、モンゴル語)での発表を積極的に行うことです。その第1弾として、本年4月には、拠点リーダーである私の研究論文集の韓国語訳を韓国で出版しました(丁炯先延世大学教授訳『日本の介護保険制度と保健・医療・福祉複合体』(株)青年医師)。
研究成果の発表の第2の柱は5つの領域・各分野の研究を統合・融合した『福祉社会開発学』(仮題)を出版することです。これは、大学院教育を念頭に置いた「より進んだ教科書」でもあり、以下の3部構成で、2007年度中に出版予定です。
第1部 福祉社会開発学の理論:第1章 理論的枠組み、第2章 政策・地域類型、第3章 政策科学。第2部 福祉社会開発学の問題群と政策課題:第1章 社会開発と国際経済、第2章 社会的排除と包摂戦略、第3章 貧困と地域戦略。第3部 福祉社会開発プログラムの開発・評価と人材養成:第1章 福祉社会開発プログラム評価の実際−日韓両国を中心として、第2章 福祉社会開発の人材養成。
ACOE関連の学位取得者の輩出については、日本人大学院生だけでなく、留学生の大学院生の博士号取得を重視します。本研究プロジェクトが始まって以来、特に中国と韓国から優秀で意欲的な留学生が急増しているためです。さらに今年度からは、本研究プロジェクトに参加している教員の学位(論文博士)取得を飛躍的に増やす予定です。隗より始めよで、拠点リーダーである私も今年度は第2の博士号(社会福祉学)取得に挑戦する予定です。
B福祉社会開発の研修・人材養成の国内外の拠点の形成については、国内では、本学以外に最低1箇所「研修センター」を開設します。候補地としては長野県佐久地域と山形県最上町を考えています。国外でも、東南アジアの複数の国の大学に開設します。現時点でほぼ確実なのは、フィリピン国立大学とスリランカの国立ジャフナ大学ですが、マレーシアの大学でも可能性を検討中です。なお、この場合は、各大学の研修センターの設立と運営に本学COEが協力する形をとる予定です。さらに、韓国・中国の有力大学との共同研究事業を定着させます。具体的には、韓国・延世大学校との「日韓合同シンポジウム」を2006年度から毎年開催するとともに、中国・南京大学との研究・研修事業を強化する予定です。それ以外の中国・韓国の有力大学との共同研究の可能性も検討中です。
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