社会福祉法人 むそう ほわわ世田谷 瀬 佳奈子さん 社会福祉法人 むそう ほわわ世田谷 瀬 佳奈子さん

社会福祉法人 むそう ほわわ世田谷

瀬 佳奈子さん

KANAKO SE

社会福祉学部 2017年卒業
石川県/石川県立七尾高等学校

生きづらさを感じている人たちが、
それでも生きていたいと思う、
そんな社会をめざして。

障害者支援では、どうしても支援の「現場」に注目が集まりがちだ。
障害の当事者と関わるのだから、当然だろう。
しかし一方で、支援の現場だけがすべてではない。
「ふくし」の全体を見渡し、俯瞰し、何が不足していて、何が必要であるかを考え、
事業全体のあり方を構想していく、そのための、さまざまな仕事がある。
そして確かな収益を確保し続け、事業を育て、未来に引き継がなくては、
「ふくし」は停滞してしまう。
ビジネス、あるいはマネジメントという言葉に抵抗を覚える方もいるかもしれない。
しかし、それもまた、「ふくし」であると教えてくれたのは、
東京の児童発達支援事業所でマネジメントに従事する、瀬 佳奈子さんだ。

「ふくし」は、
きわめて当たり前で、日常的なこと。

私は石川県生まれで、小学校の同級生が13人しかいないような田舎で育ちました。祖父母とも同居していました。近くに住む祖母の姉は目が不自由だったので、ときおり、その送り迎えをしていました。彼女の手を私の肩に乗せ、家まで一緒に歩く。そうするとお小遣いがもらえたので、やっていただけなんですが。でも、それは暮らしの中にある、きわめて当たり前で日常的なことでした。

今思えば、それは私にとって「ふくし」の原点だったような気がします。

大学時代、印象に残っているのは、実習を担当していただいた明星智美先生です。先生は、社会福祉法人むそうにも関わっておられて、今も理事会などでお会いします。長いお付き合いになりますので、ずっと見守ってくれているというか。なんか、お母さんのような存在ですね。

学生時代に学んだことは、今も知識として残っている。それが、働いていて何かの時に、「ああ、これこれ」と甦ったりする。それがあるだけでも、私の大学時代は、無駄になっていないと思います。日本福祉大学という環境にどっぷり4年間浸かっていた、その経験はとても大切なものだと思っています。明星先生も、大学時代の記憶も、私にとって、ふと立ち戻って懐かしさや、あたたかさを感じるふるさとのようなものかもしれません。

「ふくし」の広がりと深さ。

学生時代から月に4回ほど、むそうでアルバイトをしていました。大学4年生の時、理事長の戸枝に、「もう少し、本格的に働いてみないか」と声を掛けていただき、むそうでのアルバイトを増やしました。4年生で時間もありましたし。それまでのアルバイトは利用者さん支援が中心だったのですが、ヘルパーさんの勤務管理や制度の申請など、事務的な仕事にも携わるようになりました。

その体験を通して、「障害者を支える」と一言で言っても、実はさまざまな要素や段階があり、それぞれが重要なのだということが、わかってきました。仕事がどんどん広がっていく感じ。さらに、それらのすべてが、「利用者さんのより良い人生の実現のためにある」ということも。「人が生きるとか、暮らすとかって、とても尊いことなんだな」、という人生観かな。つまり、「利用者さんが、その人らしく生きるためには、どうしたらいいか」を考えることは、障害に対する理解も必要ですし、その人の想いにも寄り添わなきゃいけないし、暮らしに関わることですから、あらゆることが関係してきます。「ふくしって広いし、深いんだな」という気づきは、このままむそうで働く決意につながりました。

医療ケアが必要な子どもたちを支援。

社会福祉法人むそうは、「誕生から看取りまで生涯寄り添える存在でありたい」という理念を掲げ、さまざまな福祉サービスを提供していますが、その中のひとつに「ほわわ世田谷」という施設があります。ここは、いわゆる「児童発達支援」のための施設。障害のある子どもを対象に、遊びや社会参加を通じて、日常生活における基本的な動作や知識、集団生活への適応はもちろん、一人ひとりが生きづらさを抱えていても、自分らしくのびやかに過ごせるように、支援をしています。

全国には、多くの児童発達支援事業所がありますが、ほわわの特徴は、主に、医療的ケアの必要な子どもたちを対象にしている点です。医療的ケアが必要な子どもたちを対象にした民間の児童発達支援事業所はまだまだ多くありません。医療の進歩により、病院ではなく、家庭で過ごせる子どもたちが増えていますが、子どもによっては「知的に障害があるわけではないから、うちの施設の対象ではない」「しゃべれるし、歩けるし、身体的には問題ない」「医療デバイス(ここでは呼吸器や管のこと)が必要だから、うちでは支援できない」といった具合に、どのジャンルの施設からも支援が受けられず、行き場を失ってしまうことが少なくありません。そんな制度や施設のはざまで、生きづらさを感じている子どもたちとその家族を助けたいと考えたのが、ほわわの始まりです。

医療の視点とふくしの視点を
連携させて。

医療的ケアが必要な子どもたちを対象にしているので、私たちの運営スタッフの他に、看護師・リハビリスタッフなど医療を専門分野としたスタッフと協力して、子どもたちの支援をおこなっています。看護師さんたちは、痰の吸引や胃ろうの取り扱いなどを通して、さまざまな医療的課題を持った子どもたちの病態を見守り、身体的ケアに努めてくださいます。一方、私たち運営スタッフは、主にふくしを専門分野とした人間です。子どもたちは、もちろん思いっきり遊びたいし、友だちと同じことがしたい。それは子どもの発達の過程でとても大切なことです。その思いを叶えるためにはどうしたらいいのか。

子どもたちの思いを叶えたい「ふくし」の人間と、子どもたちの体のことを第一に考える医療の人間とでは、やはり、意見が異なります。その両者の意見をどのように折り合いをつけ、子どもたちにとって、ベストな選択をしていくのか。それは決して簡単ではありません。

難しさを感じることもありますが、その連携こそが、これからの「ふくし」なんだと、あらためて思います。

「ふくし」を止めないために、
やるべきこと。

より良いふくしを実現するためには、利用者と関わる人間が、最適なサービスを提供できることと、車の両輪のように大切なのが、福祉支援を事業として「継続」させていくことだと思います。社会福祉法人も、売上10億円規模がないと、続けていけないと言われている時代です。現在、社会福祉法人むそうには、愛知県、東京都、宮城県に事業所がありますが、さらに事業所を増やすことも計画中です。

私は、現在、東京のほわわを統括する責任者の立場にありますが、事業所を増やす計画や、スタッフのマネジメントにも関わっています。来所される利用者さんの人数に合わせて、適切なスタッフの配置を考えたり、また看護師さんと連携するために、利用者さんに関するカンファレンスなども重要な仕事になります。

さらに、非常勤スタッフや地域のボランティアの方々に利用者さんたちと関わる機会を設けて、「利用者さんと関わる楽しさ」を発信し、その楽しさを知る人を、次の時代のために増やしていくことにも、積極的に取り組んでいます。

私にできることは限られていますが、それでも安定的に各事業所が運営・継続でき、利用者さんに不安なく、安心して利用してもらえるようにしたい、それが、現在の私の使命だと感じています。

いきなりサービスが停止してしまって困るのは、利用者さんですから。

障害者が、もっと自然に
暮らしになじむ社会がいい。

利用者の子どもたちはよく公園で遊ぶのですが、彼らを見て、地域の子どもたちは、利用者の子どもたちの体についた医療用の管について「これ何?」とちゅうちょなく、聞いてきます。けれど、大人は「聞いたらいけない」と質問をためらうでしょう。距離を置いてしまう。それは、一方で、知る機会を放棄していると感じます。もったいないですよね。互いを理解し、より良く関わり、一緒に暮らしていくために必要な最初の一歩は、やはり「知ること」だと思うから。知る機会を増やすためには、もっと、障害のある人もマイノリティとみなされる人たちも、何気ない日常の中に自然になじんでいる社会になればいいと思います。たとえば私の子どものころの経験のように、たとえば素直でいられる子どもたちのように。そんな社会のために私に何ができるのか、今はまだ明確な答えを持ち合わせていませんが、これからも変わりゆく社会の中で「ふくし」を育て、提供し続ける人間として、その問いの答えを探し続けたいと思います。

Editor’s Note

ある物事としっかりと本気で向き合うために必要なのは、瀬さんが言うように、まずは、「知ること」なのだろう。ふれあったり、観察したり、話したり、どのようなカタチであれ、その上で自分なりに理解し、最適な行動を模索していく。
互いの存在を知り、認め、自然になじんでいく、そんな社会であれば、もっと生きやすい社会になるかもしれない。人と人がふれあうこと、そこにさまざまな人がいること。その暖かさに、人は幸せを感じるのだと思う。忙しすぎる今の社会に、瀬さんの「みんなが互いに、自然になじめばいい」という言葉が、深く染み渡ればいいと思う。

※掲載内容は2020年12月取材時のものです。

1歳の娘が、私の大切な存在。名前は「いろは」です。彩りの葉っぱと書きます。娘は8月に生まれたのですが、生まれ育った故郷の風景をイメージしてつけました。山も田も、すべてがさまざまな緑に染まりあがる圧巻の夏の景色が、生命力にあふれていて、とても好きで。東京での核家族の子育ては大変だなと思うこともありますが、夫と力を合わせて、子育ても仕事もがんばっていきたいと思います。

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