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トップページ 学園・大学案内 学園・大学案内 お知らせ 株式会社ミライロ代表取締役社長の垣内俊哉氏をお招きし、学園創立70周年記念講演会を開催しました
株式会社ミライロ代表取締役社長の垣内俊哉氏をお招きし、学園創立70周年記念講演会を開催しました

6月7日(土)、名古屋観光ホテルで学園創立70周年記念講演会を開催しました。当日は保護者や産業界・自治体の関係者をはじめ、一般の方々、約300名にご出席いただきました。
開会

オープニング動画で講演会はスタート。この春、開設30周年を迎えた半田キャンパスでは工学部を開設、開設10周年を迎えた東海キャンパスでは、キャンパス拡張工事が始まり、『学環』によってすべての人の幸せを実現する人財養成・社会実装をめざす本学の取り組みの概要を、動画でご紹介しました。
続いて、2025年4月に新設された工学部の福田秀志学部長があいさつ。「70周年記念事業のテーマ『Well-being for All』を健康科学部 福祉工学科(旧学科名称)が体現していること、文部科学省の理工農系分野を拡充する支援事業に採択されたことの2点から、工学部に改組しました。」と学部開設の経緯を説明。「工学部では、“人の生活に関わる現代の社会課題をテクノロジーで解決できる技術者を養成”することをめざしています。情報工学と建築の課題解決を実践する融合科目『AI建築』やオープンイノベーション拠点『STATION Ai』と連携した起業教育(アントレプレナーシップ)などを実施していきます」と工学部の魅力を訴求しました。
記念講演会“Well-being for All”の実現に向けて~ふくしイノベーションとテクノロジー~

車いすで颯爽と登壇した垣内俊哉氏。「熱い想いを語ります」とエネルギー溢れる口調で、幼少期から現在までの歩み、起業時の苦労、障害者をとりまく環境の変化や必要とされている支援をビジネスに展開していくことの重要性など、約1時間ご講演いただきました。
大学進学から上場までの道のり
大学進学にあたり、初めてオープンキャンパスに行ったのは日本福祉大学でした。骨が脆く、歩くことや普通に生きることが目標だった私にとって、障害のある学生が当たり前のように学んでいて、教職員がそれをサポートしている環境はとても眩しく見えました。
結果として、経営を学ぶために他大学へ進学したのですが、今でもオープンキャンパスの時のことは、印象に強く残っています。入学後は経営者をめざし、ITベンチャー企業へ「修行をさせて欲しい!」と飛び込みました。任せていただいたのは営業でした。移動に時間がかかることもあり、他の方が20件のアポイントをこなすところ、私は5件がやっとでした。
しかし、車いすに乗っていることにより、同期内で営業成績1位を獲得することができました。社長からは、「歩けないことに胸を張れ。結果に繋がっているなら、それは営業にとって強みだ。障害があることに誇りを持て」と言葉をかけていただき、初めて障害があることに前向きな意味を見出しました。私が代表を務めるミライロの理念『バリアバリュー(障害を価値に変える)』もこの経験から生み出されています。
3年時に副社長である民野とミライロを起業しました。はじめは本当に売り上げが上がらず、極貧生活を送りました。転機になったのは、2013年のビジネスコンテスト。優勝賞金2,000万円を獲得しました。しかし、大金の正しい使い道がわからなかったため、社員と相談の上、「賞金を辞退し、その分の仕事をいただきたい」とお伝えしたところ、多くの会社からご連絡をいただきました。
そして、2025年3月には、東証グロース市場に上場を果たしました。東京証券取引所での上場セレモニーでは鐘をつくことができるのですが、車いすに乗っている私には高さの問題があり、鐘を打つことが難しい状況でした。この件をご相談したところ、スロープ等を整備していただきました。これで、今後の車いすに乗る経営者も鐘を打つことができると思うと、上場にひとつ意味を加えることができたかなと感じています。
車いすユーザー目線で見る『障害者差別解消法』

近年、身体・知的・精神障害のいずれかがある障害者は増加しており、日本の総人口の9.4%に相当しています。また、障害のある学生の進学や雇用が増えつつあります。加えて、2024年4月、障害者差別解消法の改正法が施行され、民間事業者の合理的配慮の提供が法的義務へと変更されるなど、障害者を取り巻く環境が大きく変わってきています。私は「障害は人ではなく、社会にあり、その社会には3つのバリアが存在する」と考えています。
1つ目は環境です。従来、バリアフリーを考えるうえで多くの企業が意識していたのは、車いすユーザーでした。ただ、車いすユーザーに配慮していたとしても、すべての障害のある方にとってよい環境とは言えません。障害のある方々の視点を活かし、どこにどういった問題があるか明らかにすること。そして、すべてをすぐに改善できなくても、優先順位をつけ、ひとつずつ解決する必要があります。大切なのは、最初からバリアを作らないよう、企画・設計の段階で障害のある方々の声を取り入れることです。
2つ目は意識です。従来、障害者や高齢者と向き合う上でのコミュニケーションやサポートは専門職の知識・技術として捉えられていました。しかし、これからはすべての方が当たり前に身につけていかなければならないことです。すべての課題を環境のバリアフリー化で解決できるわけではありません。しかし、『ハード』を変えられなくても、『ハート』は今すぐ変えられます。
3つ目は情報です。職場における情報保障の満足度をご存知でしょうか。聴覚障害者に聞いたところ、2人にひとりが「十分ではない」と答えています。
例えば、聴覚障害者に対して、多くの企業で筆談、もしくは口元を読んでもらうという対応をしています。しかし、聴覚障害者の中には、手話やUDトーク(音声をテキスト化できるツール)を求めている方もいます。それぞれに合わせた適切な情報提供をすることが望ましいです。
福祉領域のビジネスチャンス
統計上の障害者だけでなく、潜在的な障害者や支援を必要とする方を加えると、日本では3,000万人の障害者が存在しています。世界規模では16億人、18兆ドルが対象になるビッグビジネスなのですが、インクルーシブにアプローチできている企業は全体の5%にとどまっています。一般的に福祉はよいことや社会貢献でまとめられ、経済性が疎かにされがちだと感じています。しかし、ビジネスチャンスが多く、今後ますます必要とされる領域です。社会性と経済性の両輪で進め、ハードもハートも世界に誇れる日本にしていきたいと思います。
参加者の皆様からは、垣内さんの「障害はないほうが不便も不自由も少ないが、不幸ではなかった」「障害がある当事者の視点を活かすことでこれからの社会を変えていくことができる」との言葉に感銘を受けたといった感想を多くいただきました。また、上場にあたってのエピソードや「ユニバーサルマナー検定」や障害者手帳をデジタル化した「ミライロID」など、垣内さんが取り組まれている内容を興味深く聞いたとの感想も寄せられました。
閉会

閉会にあたって、原田正樹学長がお礼の言葉を述べました。
「垣内さんの熱いご講演の内容ひとつ一つが、本学のめざす方向性をすべてご示唆していただいているように感じました。改めてになりますが、創立者の鈴木修学先生は「すべての人が幸せに生きられる社会に貢献する人財を輩出したい」と願い、1953年に日本福祉大学を創設されました。大学として80周年、100周年にむけて発展していきたいと考えています。」