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2013年度作文コンクール入賞作品一覧

半田市生涯学習推進協議会賞 「花壇とおばさん」

常滑市立鬼崎中学校 2年 吉田早希

私はよく電車を利用して、遠くの街まで遊びに行きます。車窓から見える町並みはいつも変わらず、海が見えたり山が見えたり、常滑の名物である焼き物が見えたりと、私の心を癒してくれる風景です。

その日も、最寄り駅から電車に乗ろうと改札をくぐりました。電車が来るまで、ホームのベンチに座っていました。
「あれっ。」
私は、改札脇の花壇に目を留めました。赤、黄、青色のパンジーがきれいに咲いています。雑草は一つも生えておらず、すぐ側にジョウロが置かれていました。 「誰が育てているんだろう・・・。」 ちょうどそう思った時、ホームに赤い電車がすべりこんできました。

私は電車が発車するまで、窓ごしにパンジーを眺めていました。色あせてしまった駅を彩るかのように咲き乱れるパンジーは、私の目を釘付けにしていました。

また別の日になって、私はいつもの様に最寄り駅に足を運びました。そしていつもの様にホームのベンチに座ると、やっぱり花壇が目につきました。いつも通り、パンジーは通り行く人々に満面の笑顔を見せていました。ただいつもと違うのは、その花壇を一人のおばさんが世話していた事です。
「あぁ、あの人がこの花壇をきれいにしているのか・・・。」
そう思っておばさんを見ていたら、ふいに、おばさんが振り向きました。しばらく目が合ったので、私は思い切って、
「こんにちは。」
と挨拶しました。おばさんは、パンジーに負けないくらいの笑顔で
「こんにちはっ。」
と返してくれました。白くのぞいた歯に音をつけるなら、まさに「ニカッ」です。
「ここの花壇、きれいだろう。」
急に話しかけられたので少々戸惑ったものの
「そうですね。とてもきれいです。」
と応えました。
「ここまできれいだと、駅もきれいに見えるだろ。だから毎日、世話してやるんだ。」
おばさんははっはっはと笑いとばして、作業に戻りました。

私にはおばさんがすごく格好良く見えました。花壇に誇りを持っていたからです。地域と、その街に暮らす人の為に花壇の世話をするなんて、とても素敵なことだと思ったからです。と同時に私はそんな人がいる事に誇りを持ちました。

また赤い電車がホームにすべりこんできて、私を別の街へと運びます。

見えなくなるまで見続けていたおばさんの丸い背中と花壇は、私の誇りそのものでした。

それからというもの、車窓から見る景色は以前に比べ、うんと美しく見えています。

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