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2010年度作文コンクール入賞作品一覧

半田市教育委員会賞 「祖父から父そして僕へ」

知多市立知多中学校 3年 安島優

今年も庭の梅の木は、たくさんの実をつけました。今年は、豊作で実は大きく、今までにない数がとれました。

この梅の木は、祖父が山で育てていたものだそうです。紅色と白色の花が咲くようにと二本の株を組み合わせて、三十年程前に今の場所に植えてくれたのだそうです。

祖父は、若い頃会社に勤めながら、山でみかんの木や梅の木を育てていました。会社を退職した後は、近所の子供達に習字を教えるかたわら、毎日朝早くから山に出かけ、その時期に必要な枝のせん定や消毒、草むしりなどを熱心にし、農協に卸していました。祖父が育てたみかんは、とても深い甘みがあり、とてもおいしかったです。

そんな祖父が山や家の庭の仕事をする時必ず身につけていたものがあります。それは、麻布に入った「塩」です。祖父は、いつも、

「木々には神が宿る。」

と言って、山や庭の木をせん定する前に、腰にぶら下げている麻布から塩をひとにぎりつかむと、自分の体と木々を塩で清め、両手をそっと合わせた後に、はさみを入れるのだそうです。このことは、必ず守るようにと父は強く言われていたそうです。

祖父の山や庭の木々は、僕の生まれる前からこの町の移り変わりを見てきました。

山や木を大切に守ってきた祖父が今生きていたら、どんなに驚き悲しむだろうと思います。祖父の畑の一部があった場所は今、広い道路と色とりどりの家が建ち並んでいます。

山を切り開いた人々には、祖父と同じ気持ちを持った人がいたでしょうか。一人でも、「木々に宿る神」に手を合わせた人がいたのでしょうか。父は、山が宅地化される事にずっと反対していました。父には、祖父や祖母との思い出がたくさんつまったあの山が無くなる事が悲しかったのだと思います。

この町には、日本独特の素晴らしい風景がたくさん残っています。

春には山に桜が咲き、うぐいすの声が聞こえます。五月には、竹の子も顔を出し、掘りたてのやわらかい竹の子が食べられます。梅雨の頃、梅の木はたくさんの実をつけ、田んぼでは、田うえが始まります。夏には、田んぼの稲が青々育ち、かえるが鳴いています。秋になると、山道には、どんぐりや栗の実が落ちています。空には、たくさんの赤とんぼも飛んでいます。冬には、みかんの木々が食べ頃に育ちます。

この町の素晴らしい風景をなくさないために、祖父から父へ父から僕への「木々に宿る神」を守っていくためのバトンを引き継ぐ日は、もう始まっているのかもしれません。

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