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2007年度作文コンクール入賞作品一覧

日本福祉大学学長賞 「セミと過ごした夏」

東海市立平洲中学校 3年 土性優香

セミが鳴いている。夏だ。プールの水が気持ちいい。今年は何m泳げるのだろう。

かつて泳ぐのが苦手だった私は、少しずつその楽しさを実感できるようになっていた。そう思えるのはきっと、小学5年生の時に触れた、先生の笑顔のおかげだと感じている。

5年生の夏休み、私は25m泳げなかった人が参加する補習授業を受けていた。何をしたって奇跡が起きる以外、泳ぎ切れる訳がない。私はそう思っていた。だって、全然泳げないのだから。その時プールに抱いていた感情といえば、苦手意識だけだった。私のうんざりした気持ちをさかなでするかのように、セミがうるさく鳴いていた。

担当の先生がやって来た。厳しいことで有名な先生だ。先生は強い口調で私たちに指示をした。逃げたい気持ちを抑えて私は慌ててプールに入った。私は先生のアドバイスさえ、しかられているように感じ、ひたすらうなづいていた。

先生は毎回私が泳ぐ姿をじっとみつめていた。私は思った。なんで一生懸命がんばっているのに25m泳げないのだろう。セミはそんな私をからかうかのように、やかましく鳴いていた。『…くやしいよ。』泣き叫びたくなった。だって、とても泳げそうもなかったから。25mも。

ある日、先生は私にこう話しかけてきた。
「少しずつ泳げる距離、延びてきているぞ。」
この言葉に私は自分の耳を疑った。その瞬間はっと思った。確かに泳げる距離が延びてきていたのだ。自分は、泳げるようになってきているんだ。

「奇跡をおこせるかもしれない。」

心の中で叫んだ。今までのような情けない気持ちでいてはだめだ。目標を持たないと。そして、もっと努力しないと。その時から周りの風景が変わって見えた。今までうっとうしくてしょうがなかったセミの鳴き声が、私を応援しているかのように聞こえたのだ。

私は必死に泳いだ。苦しかった。でもあきらめたくなかった。この気持ちを持ち続けたある日、ついに目標を達成することができた。なんだろう、この気持ちのよさは。この達成感は。思わず涙が出てきてしまった。この気持ちは私が今まで体験してきたものとは違う、特別なものだった。そして、何よりも印象的だったのは、先生の私に向けてくれた優しい笑顔。

今年は50mに挑戦だ。水泳がまだ苦手な私にとって厳しい目標だが、あきらめるつもりはない。今、私はあの先生のような多くの人たちからの思いやりに囲まれて生活している。その中で人の優しさを感じながら、もう一度あの達成感を味わってみたいと強く願っている。と同時に、友達に対してもよいところを見つけて励ますことのできる人になりたいとも願っている。そう、あの先生のように。

今夏もセミが鳴いている。私を励ますかのように。

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