平成21年度
【テーマA】大学教育推進プログラム
「福祉大学スタンダードきょうゆうプログラム」
 − 日本福祉大学スタンダードの学生・教員・職員への水平展開による教養教
      育・FD・SDの一体的推進 −

2 取組について

(1)取組の趣旨・目的・達成目標

1.取組を実施するに当たっての背景

 本取組では、全学共通の人材養成目標「日本福祉大学スタンダード(以下、「スタンダード」)「四つの力」(見据える力、共感する力、関わる力、伝える力=理解する力)を、学生に対する学士力のみならず、教員の教育力、職員の職員力にも適用される三位一体スタンダードとして掲げる。これに基づき、学生の全学教養教育・教員のFD・職員のSDを並行的に推進し、3者が共に伸びる仕組みを構築する。特に、基礎からのスタンダード養成を重視し、初年次教育・初任者教育のプログラムを重点的に拡充・体系化する。

 この「スタンダード」は、専門教育の領域拡大・細分化(2008年度、6学部9学科に増設)に対する日本福祉大学生としての一体的質確保や、入学生の修学意識や学力の多様化に対応するための必要最小限の質保証など、本学の学士課程教育構築に必要な課題として検討されたものである。その学生への教育は、新たな全学教養教育が担う。(【資料4】)。

 また、学生への「スタンダード」の提示が、教職員のFD・SDの新たな課題を提起した。学生への徹底には、まず教職員がその内容を理解するとともに、教職員も同じ枠組みの「スタンダード」を体現することが必要である。例えば、学生に「伝える力」を求める教職員自身が、この力を欠くわけにはいかない。大学の社会的役割の変化や入学者の質的多様化を背景として、教職員の力量の「標準」についても再整理が必要となったのである。

 なお、本学は福祉の大学の気風のもと、何事も学生・教員・職員の3者が共同参画して大学コミュニティを形作る文化を培ってきた。3者が同じ「スタンダード」を共有する本取組は、その延長線上に位置する。本学が大切にする価値を大学構成員が「きょうゆう」する、本学の伝統に即した、ユニークで新しい学士課程教育の構築を意図するものである。

2.取組の具体的な目的

 この取組は、本学の全学教養教育・FD・SDにおいて、コンピテンシー(【資料2】)の精緻な設定に基づく習得内容の明確化・標準化、並びに教育・研修プログラムの拡充(特に初年次・初任時に重点を置く)を図ることによる、学生・教員・職員の標準的な質確保と力量向上を目的とする。また、推進組織の新設や情報通信技術の活用による教材やシステムの開発など、推進体制の整備を図る。特に、同じ「スタンダード」の3者「きょうゆう」を旨とする本取組では、その習得・研鑽の場での3者の相互交流を組み込み、学びあいによる学士力・教育力・職員力の相乗的な効果増大を図るプログラムを導入する。
 まず、全学教養教育では、リベラルアーツ型の教養ではなく、中教審答申「学士課程教育の構築に向けて」(以下、中教審答申)の学士力に対応した新しい教養の構築を目指す。その核である「四つの力」は、まさに本学の学士力の根幹を成すものである。全学部生共通の基礎的素養や能力の養成、日本福祉大学生としてのスピリッツ涵養など、学士課程教育としての全学的な学生の質保証(本学における学士力保証)が目的である。中でも特に、中教審答申が一項を割く初年次教育を「入口教養」として重視し、大学生への移行支援プログラム(入学前教育含む)を拡充することが、大きな目的となっている。
 次に、中教審答申が重視する教員・職員の職能開発については、「スタンダード」に基づいて、その標準的な学習内容と達成目標を明確にし、初任者からのFD・SDプログラムの体系的な整備を図る。「四つの力」を身に付けることにより、本学構成員としての教育力・職員力の向上を図り、同じ「スタンダード」を共有する学生たちとともに、本学の学士課程教育を作りあげていく人材を養成する。
 さらに、「スタンダード」自体の質的な向上・更新を目指す。学園創立者の「教育標語」(【図1】)による「四つの力」は、本学の不変の精神に基づくが、具体的なコンピテンシーレベルでは、学生の多様性(専門学習やキャリア志望の多様性など)や社会の人材要求像の変化に応じた可変性が必要である。また、個別科目等で「四つの力」の何をどう教えていくか、検討を続けることが肝要である。より効果的な「スタンダード」の有様を追求し、豊かで充実した学士課程教育の実現を目指すものである。また、その過程自体をFD・SD活動や取組の評価活動として構成していく。

3.取組による達成目標

 第1目標は、「四つの力」のコンピテンシー(【資料2】)の精緻化による「日本福祉大学スタンダード運用基準」(標準的学習内容と個々の到達目標)の提示である。何をどのようにどこまで学ぶか客観化し、「スタンダードガイドブック」に明示する。教材の質的完成度がその評価指標となる。第2段階の目標は、構成員の「スタンダード」理解の普及である。そのため、在職する全専任教職員をオンデマンドの学習プログラムに参加させ、課題達成率、受講完了率、受講成績を指標に、その普及度と達成度を測定する(【資料3】)。第3段階は「スタンダード」の理解徹底による資質向上である。新しいポートフォリオのシステムに、理解度をチェックし客観化する仕組みを組み込む。学生にはスタンダード科目等の評価をコンピテンシーレベルでも示し、職員は既存の人事制度システムの中で、教員は教育ポートフォリオの中で理解度のチェックができるようにする。以上の取組を総括し、「スタンダード」自体の改善と資的向上をはかり、取組を向上させる。

(2)取組の具体的内容・実施体制等

 本取組は「きょうゆうプログラム」と「きょうゆうシステム」にて構成する(【資料1】)。全学組織と情報システムが、教育プログラムの開発・実施・検証等を図る構造である。

1.スタンダードきょうゆうプログラム

 学生・教員・職員が同じプログラムに参加する三位一体型プログラムを軸とした以下の2つのプログラムで、3者における「スタンダード」の徹底と「きょうゆう」をはかる。

1−1 スタンダード学習プログラム(入門・基礎・上級の体系的学習プログラム)

 入学前・入職前から始まる、入門・基礎・上級3ステップのスタンダード学習プログラム体系を整備し、学士力・教育力・職員力の基礎からの確実な向上を図る。基礎及び上級プログラムは、三位一体型プログラムと全学教養教育や教職員研修を組み合わせたものであり、学習すべき内容や達成目標などは「スタンダードガイドブック」にて明示される。

 

*「日本福祉大学スタンダード入門プログラム」(入学・入職前のオンデマンド科目受講)
 【図3】の四つのコンテンツで構成する、入学・入職前の学生・教職員を対象としたスタンダード入門オンデマンド科目「日本福祉大学入門」を制作・開講する(全員履修、1単位分)。コンテンツ@では、学長・学部長の歓迎メッセージに加え、全学・学部の教育内容やキャリアパス等の概要を説明する(学生募集やAO入試でも使用)。Aでは、初年次のスタンダード科目・オンデマンド諸科目の学習内容紹介や、学部初年次科目のオンデマンド科目ガイダンス(【資料5】)を提供する。Bでは、大学生必須の学習スキル(レポートの書き方、フィールドワーク等のマナー、図書館活用法など)を紹介する。Cでは、入学後ガイダンス(履修や単位取得の仕組み、窓口や学生相談室の利用、情報セキュリティ規範など)の内容を予習させ、その徹底を図る。教職員はこの科目で、初年次学生の「スタンダード」を理解するとともに、教職員用補助コンテンツで本学の教育・業務の基本ルール等を学ぶ。

【図3】オンデマンド科目「日本福祉大学入門」の構成

 

 なお、このコンテンツの制作過程自体がFD・SDの取組となる。教授会での教育内容等の伝え方の検討、後述の「科目きょうゆう会議」での学習目標やアカデミックスキルズ検討など、FD活動の成果が@ABの制作に反映される。Cは、ガイダンス担当事務局を中心とした、伝達内容の厳選や効果的な伝達方法の検討等のもとに制作される。これをSD活動に位置づけ、事務業務の改善・向上を目指す。これにより、教職員の「伝える力」の向上も図る。


*「日本福祉大学スタンダード基礎プログラム」(1年次のスタンダード学習プログラム)
 入学・入職後には「基礎スタンダードガイドブック」を提供し、1年次のスタンダード学習プランを提示する。学生には、本学構成員の共有知を扱う3つのオンデマンド科目(「福祉社会入門」−福祉の広がり、「日本福祉大学の歴史」−本学の歩み、「知多学」−地域とのかかわり)や初年次スタンダード科目(英語、基礎ゼミなど)、新入生セミナー等の導入プログラムの学習モデルを示す。各科目等の学習目標や科目間・プログラム間の関係性も理解しながら初年次の学習を進め、基礎スタンダード(基礎としての学士力)の体系的修得を促す。
 初任者教職員にも同様に、教職員向け「基礎スタンダードガイドブック」を提供し、入職後の研修体系や学習事項を提示する。入職者はこれにより、初年次学生向けオンデマンド3科目の学習を進め、ワークショップ形式の新人研修プログラム(【資料7】)に参加する。さらにガイドブックでは、障害学生への対応など、本学の教育や業務における必須の了解事項等を解説し、その自習を可能にする。これにより体系的な初任者FD・SD研修を構築し、基礎的な教育力・職員力の形成を図る。

 

*「日本福祉大学スタンダード上級プログラム」(上級スタンダードの学習プログラム)
 2年次以降の上級スタンダード学習プログラムを整備する。「上級スタンダードガイドブック」にて、高度な学士力・教育力・職員力の学習内容・目標等を提示する。
学生、教職員を対象にした「学長講義」を開講する。この講義は、全学で共有する価値を持つ各学部の教育内容の紹介、地域の福祉や産業を支える人々の講演、各界名士を集めた本学客員教授や本学の歩みを体現した学長経験者の講演等で構成する。これをキャリア形成や幅広い教養形成の観点から学長が解説し、より高次の「スタンダード」と関連づけた理解を促す。なお、講座映像をアーカイブ化し、父母や地域住民にも幅広く提供する。
 学生には、「専門にまたがる教養」、「出口教養」の全学教養教育体系(【資料4】)で、より上位のスタンダード形成を図る。前者では、6学部の多様な教育を背景とした各学部専門基礎科目等の他学部履修モデルにより、福祉の広がりや学生のキャリア志向の多様性に応じた幅広い学習を可能にする。後者は、専門教育の集大成と並行して、市民・社会人としての必須知識(市民リテラシー)等を学ぶ科目履修モデルである。
 教員・職員には、全学的FD・SD研修を組織する(【資料7】)。教員には、全学FD教授会を毎年定例で開催し、全学レベルでのFDに取組む。ここで、授業効果を高める話し方や学習障害学生等の対応方法など、教育の一層の向上につながる事項を学習する。職員については、毎夏定例開催の夏季職員会議研修等を、幅広い力量向上の場に位置づける。職員会議は、職員の自治組織でありながら、人事部局等と共同して職員力向上に努めてきたユニークな組織である。これらの既存の会議や組織を生かしたFD・SDを実施し、その成果を教職員向け「上級スタンダードガイドブック」の制作につなげる。

1−2 3者きょうゆうプログラム(学生・教員・職員の3者交流によるプログラム)

学生・教員・職員の3者の相互交流を組み込み、学びあいの効果を狙ったプログラムを実施する。これは、3者による大学コミュニティへの共同参画といった本学の文化に根ざすものであり、「共感する力」など本学特有の資質を向上させることも意図している。

 

*3者きょうゆう教育プログラム(3者が関わりあいながら学ぶ教育・研修プログラム)
学生・教員・職員の3者が関わりながら、各自の研鑽を積むことができる「きょうゆう」型プログラムを開発する。3者の「共感する力」と「関わる力」を刺激することで、その効果を高めるものである。一つは、職員の教育現場への参加の促進である。学生の海外研修に若手職員等を同行させ、業務に携わりながら自身の語学研修を受講できるようにする。職員のゼミ参加も、その効果・役割等を見極めつつ検討・試行に着手する。2点目として、図書館など学内諸機関と連携した各種の3者相乗り型プログラムを開発・実施する。

 

*3者きょうゆう教育セッション(3者が交流を図りながら推進するFD等の取組)
本学ではこれまで、学生・教員・職員3者によるフォーラムや懇談会を開催し、全学や各学部の教育について活発に議論してきた。これを3者共同のFDに位置づけ、学生の率直な意見を本学の学士力確立と教育力・職員力向上に反映させる。また、これらの取組は、大学コミュニティへの共同参画という本学の「きょうゆう」の伝統に根ざすものであり、3者間の共感を構築する機会となっている。また、教職員の全学教育に関する懇談や地域の様々な教育資源となる現場等の訪問を行う「きょうゆうサロン」についても、テーマによって学生の参加を求めてきた(【資料6】)。本取組において、教養教育・FD・SDの“一石三鳥”の総合企画に発展させ、教育に関する新たな知見を獲得する。なお、これらの取組の成果は、全学教育開発機構の報告誌等で公表する。

2.日本福祉大学スタンダードきょうゆうシステム

新たな全学組織の設置と情報支援システム拡充で事業推進を強力に支える。

2−1 全学共通教育センター(本取組の中心となる組織)(【図4】)

 全学教育開発機構のもとに全学共通教育センターを新設し、センター長と所属教員、FD専門人材を配置する(2010年度)。まず「スタンダード」の学習内容・学習課題の精緻な設定と教材作成を進めるとともに、スタンダード教育(全学共通教育・全学教養教育)の統括、プログラムの開発・実施、FD・SD活動支援などを担う。オンデマンド科目制作等を担う教育デザイン研究室を傘下に置き、インストラクショナルデザインによる効果的な教材開発を進める。
なお、スタンダード教育については、同センター統括のもとで、全専任教員が一定の役割を担う体制を構築する。これにより、教員間での全学方針共有を可能にするとともに、全教員が同じ立場で、教育方法等に関する議論に参加できるようにする。また、初年次スタンダード科目の学部横断担当者会議である「科目きょうゆう会議」を統括する。ここに各学部の科目担当者の代表やコーディネータを集め、各学部における状況や課題の集約、FD活動による教育力向上と教材開発に取組む。「スタンダード」に照らした各科目の学習内容・目標の詳細な設定や効果検証を進め、その質的保証を図るものである。その成果は、オンデマンド科目「日本福祉大学入門」の制作にも反映させる。この会議で、教員が自らの教育を見据え、学士力と教育力の普段の検証・更新を可能とする体制を確立する。

2−2 全学教育きょうゆうシステム(情報きょうゆうシステム)

 教育を「見据える力」を高める情報きょうゆうシステムを構築する(【資料8】)。学習・教務支援システム(nfu.jpシステム)での教育研究計画書提出など、一定のシステム化を進めているが、これを教育内容や教材等が搭載できる教育ポートフォリオシステムに拡充する。各教員が作成・蓄積した従来のコンテンツに加え、講義録画や資料アーカイブの自動化で登録コンテンツを増やし、システムの検索機能で教育マテリアルの広範な教員間共有を可能にする。合わせて、教職員の「スタンダード」の習得状況等も記録し、職員ポートフォリオを兼ねたものとする。なお、学生状況の教職員共有は既存システムで対応する。
 また、学生の学習履歴、教員の教育履歴、職員の業務歴データベースを、本学の大学認証評価の取組やIR(Institutional Research)の取組と関連させ、そこで構築するデータウェアハウスと連動させる。さらに、FD・SDの成果紹介のwebサイト充実も図る。

(3)取組の評価体制・評価方法 (【図4】)

【図4】本取組の実施体制と評価体制

 

1.評価体制

 全学共通教育センターにて、「スタンダード」の効果等の検証・評価・更新を進める。これに加え、本取組の諸プログラムの達成目標を年度の事業計画に示し、その年次的評価を全学評価委員会が行う。さらに、学外の外部評価委員による評価についても実施する。取組期間終了時には、総括的報告を行い、上記の2委員会にて総合評価を実施する。

2.評価方法

 全学共通教育センターの事業計画に対する達成度評価を、全学評価委員会にて行う。各プログラムの評価指標に極力定量的な評価指標を設定し、達成度による四段階評価(A・B・C・D)を実施する。B以下の評価の際は、全学共通教育センター長に改善と対応結果報告が指示される。D評価の場合、計画や指標自体に問題がないか、全学評価委員会と協議して再点検し、事業計画や評価指標の見直しも含めた改善を行う。このような数値的評価により評価結果を取組に確実に反映させる。

CGI