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性被害に遭うのは女性だけ? 男性被害の盲点と抱える課題とは【専門家監修】

2023.10.17
痴漢やセクハラ、レイプなどの性被害者と言うと、なんとなく「加害者は男性」「被害者は女性」を思い浮かべる方も少なくないのではないでしょうか。
しかし実際には男女ともに被害に遭う可能性はあります。
最近は男性被害についてニュースでも取り挙げられるようになり、その実態が少しずつ見えてきました。
このページでは男性の性被害とはどういったものなのか、彼らが抱えた傷を癒すために必要なケアについて解説していきます。 

男性被害における法的罰則とは

まず、性暴力のすべてが性犯罪となるわけではありません。性犯罪とは、あらゆる性暴力の中で特定の法律の要件を満たすものを指します。

今回はその一つである不同意性交等罪を取り挙げます。
不同意性交等罪は2016年まで「強姦罪」と呼ばれ、膣性交のみが処罰対象でした。つまり、男性が同じような被害に遭ったとしても、肛門性交となるため強姦罪で処罰することはできず「強制わいせつ罪」の対象となり有期懲役の期間も短くなります。しかし、2017年に110年ぶりに刑法が改正し、強姦罪は「強制性交等罪」に名称が変更されて、膣性交に加え肛門性交や口腔性交も処罰の対象となりました。110年もの間、刑法が改正されなかったことからも社会的に男性被害者への理解が進んでいなかったとも言えます。2023年にはさらに法改正され、強制性交等罪は「不同意性交等罪」となり、陰茎以外(例えば指や物など)を挿入する行為についても処罰の対象となりました。また、性交同意年齢が13歳未満から16歳未満へ引き上げれたことも大きな改正点となります。このほかにも性暴力被害の現状を反映するため様々な改正が行われいます。加害者は犯罪者として処罰され、被害者は性犯罪被害者として扱われ支援される社会を目指して処罰の厳重化が進んでいます。

性被害における先入観とは?

性被害において間違った固定観念が無意識に刷り込まれていることは珍しくありません。
例えば、
「被害者は女性 ⇒ 加害者は男性!」
「被害者が男性? ⇒ 被害者も男性?(ホモセクシュアル??)」
と言ったように、被害者が男性であることが想像しにくく、また加害者は男性だとホモセクシュアルである、というイメージが勝手に作られていることもあります。
しかし実際には、性暴力は支配欲求の一つとして捉えられており、個人の性的欲求や指向などによらず相手に対して「支配」を目的とした行為と考えらえています。

男性被害の実際

性被害に遭ったのが男性の場合、先入観として、触られる、挿入される側であるというイメージを持つ人も少なくありません。実際には、加害者に対して触る(挿入する)ことを強要させられることもあり、必ずしも自身の身体に傷を負うことだけが被害だとも言い切れません。また刺激に対して射精などの反応があると、嫌がっていないと誤解されたり、そんな自分がどうしようもなくみじめに感じたりすることがあります。このようにたとえ身体に傷がなかったとしても、一生涯に渡り心に大きな傷を残すことになります。

男性なら力があるから抵抗できるはず?

男性が被害に遭うことはない、力があるから抵抗できるはず、本当に嫌なら逃げればいい、これらは「強姦神話」と呼ばれ、性暴力に対して持たれる偏見や間違った信念を指します。
性暴力とは突発的な力関係ではなく、複合的で複雑な構造の「支配行為」です。
言う通りにしないと殺されるかもしれない、といった恐怖心、知られたくない、なかったことにしたい、という人間の羞恥心や屈辱、グルーミング(※)により嫌われたくない、環境を壊したくないという気持ちになる場合もあります。このように身体的、心理的、その他多くの要因が絡み合い被害に遭われた方は抵抗ができなかったり被害を言い出しにくいのが現実です。
特に男性被害者の場合、被害者自身が「性暴力は女性が対象となるもの!」と思い込んでいると、なんで自分が、と被害に遭った自分を恥ずかしく思い、より誰かに助けを求めずらい状況に陥ってしまいます。

グルーミング(手なずけ行為)とは

「君のことが大切だからするんだよ」
「だれかに言ったら家族がバラバラになっちゃうよ」
「このことは2人だけの秘密だからね」
このような言葉を駆使し被害者を手なずけ、他者に口外しないようにコントロールすること。
特に若年者が対象になりやすく、性的行為について判断能力が未熟であることが理由として挙げられます。

もしもあなたが、身近な人が、被害に遭ってしまったら

被害に遭われた方のうち、病院や警察に行ける人はごく一部です。特に男性は妊娠することがないという点から被害を軽視してしまったり、自身も早く忘れよう、と日常生活に戻ろうとする傾向があります。また「男だから強くいなくては」「男ならこれくらい我慢できる」というジェンダーバイアスがかかりやすいのも特徴です。しかし、実際には心身ともに大きなダメージを負っているため専門職の力を借りることが必要です。また、性感染症の観点からもできるだけ早く専門機関への受診することをお勧めします。
日本福祉大学では、「性暴力対応看護師(SANE)」や「フォレンジック支援者」といった性暴力被害に遭われた方をサポートするための専門職を養成しております。まずはこのような専門職の存在を知ることが被害に遭われた後に適切な支援を受けるための第一歩になります。ほかにも各都道府県にはワンストップ支援センターや被害者サポートセンターなどの支援機関があるため、社会資源をうまく活用しながら多くの人の支えがあってこそ少しずつ回復していくことができます。

監修・講座講師

長江 美代子
日本福祉大学 福祉社会開発研究所 研究フェロー
一般社団法人日本フォレンジックヒューマンケアセンター 副会長
名古屋市立大学看護短期大学部看護学科卒業(1991年)後、名古屋第二赤十字病院で1996年12月まで看護師として勤務。1997年8月からThe University of Illinois at Chicago, College of Nursingで看護学修士および博士(Ph.D)を取得した。2005年帰国後は大学で精神看護学を担当する。そのかたわら、女性と子どものヘルプラインMIEとともに、DV被害女性とその子どもの支援にかかわってきた。暴力被害者のPTSD回復に取り組むにつれて性暴力被害の深刻さを知り、2016年1月、名古屋第二赤十字病院(2023年4月現在/日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院に名称変更)との協働により「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」を立ち上げ、2023年3月までその運営にも関わってきた。現在は一般社団法人日本フォレンジックヒューマンケアセンターの副会長として支援活動を継続している。

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