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注意欠如・多動症(ADHD)とは? 症状や特徴、子どもとの関わりで大切なこと【専門家監修】
2024.01.29
- もくじ
「落ち着きがない」のはADHD?
幼稚園児のお子さんを持つ保護者の方から以下のような相談を受けました。
幼稚園に通い始めて3か月の我が子、そろそろ慣れてきたかなと思っていたら、懇談会の時に先生から「落ち着きがなく、なかなか教室で座ってみんなといっしょの活動ができない」と言われてしまいました。4歳児なんてこんなもの?と思っていたら、参観日に、他のお子さんは先生の読み聞かせや製作の活動中、ある程度の時間椅子に座って取り組んでおり、自分の子だけが教室から出て行って園庭や職員室をウロウロしているのを目の当たりにし、もしかしてうちの子はネットで見た、いわゆるADHDなのではないかと心配になってきました。
さて、はたして教室から出てウロウロしたら、ADHDなのでしょうか?
小さいお子さんが椅子にじっと座っておらずウロウロ歩き回ってしまうのには、様々な原因があります。例えば園庭に虫などとても興味のあるものがいる、ことばの理解が少し遅くて読み聞かせなどの長いお話が分からないため興味が持てない、お母さんと離れ離れになるのが不安で大好きな先生を探しに行ってしまうなどなど。ただ立ち歩きをするからといって、みんな「多動」とは限らないのです。
ADHDの症状や特徴とは
注意欠如・多動症(ADHD)とは、不注意、多動性、衝動性などの特徴がある発達障害の一つです。不注意の特徴が強いタイプ、多動・衝動性の特徴が強いタイプ、両方の特徴が混在しているタイプがありますが、それぞれの程度は様々なのできっちり3タイプに分かれるというわけでもありません。
これらの症状が12歳までに出現するというのが定義ですが、例えば2歳のお子さんが椅子にじっと座っていられないのは当たり前なので、今の年齢にふさわしくないほど不注意や多動性があるかどうかで判断します。あまり小さい時期にADHDであると診断することは難しい上、不注意が主体であまりお友達とトラブルになることが少ない場合は、大人になるまで気づかれないこともあります。
自閉スペクトラム症(ASD)のお子さんではADHDの併存率が高いと言われています。ですから、不注意、多動性、衝動性、ASDの症状の程度が様々に重なり合い、同じ診断名でも困っている行動の特徴はかなり違ってくる場合が多いのです。
「不注意」によって困ることとは
「不注意」というと、細部へ注意が行き届かずうっかりミスをする、周りの気になることや他の人の行動へ気がそれて肝心の課題がうまくいかない、といったイメージがあると思います。ですが、それだけではなく、精神的努力を要する課題に注意を向け続けることが難しくすぐに気がそれがち、複数の指示に従うことが一度にできずどれかを忘れがち、順序だてた行動が苦手で行き当たりばったりになってしまうといった困りごとも多くみられます。
また、片付けや物の管理が苦手なため、机の周りが散らかってしまう、物をすぐに無くしてしまう、汚してしまうといった困りごとも「不注意」の症状です。
小さいうちは物の管理は親がしますし、あまり長い時間勉強などに集中する必要がないため、困りごとが目立たないのですが、年齢が上がるにつれ物やお金、時間の管理を自分でしなければならない、長時間努力を要する場面が増える、車の運転時の不注意による事故など、困りごとが大きくなっていきます。
「多動性」や「衝動性」によるトラブルとは
外出時に興味を引くものが目に入ると、そこへ突進して行ってしまうため交通事故が心配、ショッピングモールでは次々とお店の中へ入ってしまいすぐに迷子になってしまう、電車やバスの中ではおとなしく座っていることが難しいなど「多動性」による問題はトラブルへと発展しがちです。
また、幼稚園や保育園でも、じっと着席していることが難しく立ち歩きしてしまう、1つの遊びに集中することができず次々とおもちゃを出してしまう、高いところへ登ったり飛び降りたりぶつかったり怪我が絶えないなどの問題が出てきます。
「衝動性」の問題では、順番やルールが守れず感情のコントロールも難しいため、小さいうちは他のお子さんに手が出る、暴言を吐くなど大きなトラブルに発展しがちです。少し大きくなって手が出るなどの問題が少なくなってきても、発話への衝動性から会話開始のタイミングが制御できずマシンガントークになってしまう、「内緒」の約束が守れず友達関係でトラブルになってしまうなど、困りごとの内容が変化してきます。叱られた後の感情の制御ができないため、すぐにケロッとしてニコニコと話しかけ、反省していないように見えるためさらに叱られてしまうことも多々あります。また衝動買いやギャンブル、ゲームへの課金など、お金に関する衝動性の問題も深刻になっていきます。
小さいころから厳しくしつけをすれば、ADHDは治る?
例えば片づけができない、お友達に手が出てしまうなどは親のしつけの問題ととらえられがちです。しかし、親御さんは決して放置しているわけではなく、小さいうちから何度も何度も叱る、たしなめるといったことはやってきている方がほとんどです。
強く叱れば子どもはびっくりしてその場ではやめますが、強く叱る人がそばにいない場合自分でコントロールする力は育ちません。まして叩くなどの体罰では決して解決しないのです。服薬治療で改善する部分もありますが、基本的にADHDは「治る」ものではありません。
ADHDの特性のある子どもとの関わりにおいて大切なこと
ではどうしたらADHDの特性がある子どもたちがトラブルなく暮らせるようになるのでしょうか。「治らない」としたら大切なことは、自分の特性をよく認識することと、そのことで大きなトラブルや困りごとに発展しないように工夫ができるようになることだと思います。トラブルを未然に防ぐことばかりを考えがちですが、小さな失敗やトラブルとその対処の仕方をたくさん経験していくことで、将来的に自分でトラブルになりそうなことを察知して事前に工夫できるようになれば、ずいぶんと暮らしやすくなるはずです。
例えば、いつもお友達と手が当たった、足が当たったなどとけんかになってしまうのであれば、手や足が当たらない距離を取って座るようにする、たくさんのことを一度にやらなければならないと混乱してしまう場合はやるべきことをリストアップして順番を先に決める、などです。
ADHDのお子さんは、友達ともめた、物が壊れた、無くなったなどの場合、真っ先に疑われがちでいつも叱られる側になりがちです。そういったことが続くと、自己肯定感が育たず「どうせ疑われるのだから悪いことをやってもやらなくても一緒。」などと自暴自棄になってしまいます。感情のコントロールがうまくいかないことは、決して親のしつけ不足でも本人の努力不足でもないということを知り、早くから周りの大人がお子さんの特性に合わせてかかわることが大切です。ADHDの人々は他の人が緊張する中で失敗を恐れず大胆に行動できる、好奇心旺盛で新しいことに挑戦できるなど、他の人にはない長所もたくさんあります。そういった強みの部分を生かしていけるよう、寄り添っていくことが大切です。
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監修・講座講師
- 大岡 治恵
- 日本福祉大学中央福祉専門学校 言語聴覚士科 学科長
日本福祉大学付属クリニックさくら 言語聴覚士 - 1990年から11年間、新城市民病院、岡崎共立病院等で言語聴覚士として勤務ののち、2001年より名古屋文化学園医療福祉専門学校専任教員、2008年より日本福祉大学中央福祉専門学校言語聴覚士科学科長として言語聴覚士養成に携わる。学生の演習施設、教員の臨床施設として併設施設「ことばと聴こえの支援室さくら」を開設、2020年日本福祉大学付属クリニックさくら開院後は、教員の傍らクリニックの言語聴覚士としても発達障害、構音障害、吃音等の臨床、および臨床研究を行っている。
日本福祉大学中央福祉専門学校 言語聴覚士科
日本福祉大学付属クリニックさくら
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