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大人の自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群とは? 社会生活や仕事で注意すべきこと 【専門家監修】

2023.12.18

大人の自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群の社会生活上の課題とは?

社会的コミュニケーションの困難さ

知的障害やことばの遅れがないか軽微な場合、小さいころには診断がつかないまま成人期を迎えることになります。記憶力がいい場合には学校での勉強にはあまり困ることなく、中にはかなり高学歴の方もいます。しかし、自閉スペクトラム症やアスペルガー症候群などと診断される人たちには、対人関係や社会的コミュニケーションの困難や特定のものや行動における反復性やこだわりといった特徴があります。大人になった自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群の人たちにとっては社会生活を送る上で、様々なことが問題になってくるでしょう。
文法や語彙の発達には遅れがなくても、表情や視線などことば以外の情報を同時に受け取って総合的に判断するのが苦手なため、「今度飲みに行きましょう」といった社交辞令的あいさつを真に受けてしまうことがあります。「やる気がないなら帰れ」と言われ本当に帰ってしまうなど、ことばの裏にある真意を読み取ることがとても苦手です。

少し失敗するとすべてが嫌になってしまうことも

自分がアウトプットする際にも、同時に気を配るのが苦手です。そのため、目上の人の前で足を組む、頬杖をつく、会話の最中に携帯電話の画面を見るなどの行動をとって相手を不愉快にさせてしまうことがあります。相手の容貌や体型などについてコメントして人を傷つけてしまう、立場もわきまえず思ったことをそのまま口に出してしまい、職場で周囲から孤立してしまうなど対人関係がうまくいかず悩む方も多いようです。本人に悪気はなく、そういった行動が相手を不愉快にしているとは夢にも思っていないため、「なぜか突然怒られた」と認識している場合がほとんどです。
人に対する認知も極端なため、「こういう嫌なところがあるけれど、こういうところは尊敬できる」というような認識にはならず、「とても良い人と、大嫌いな人」のように二分しがちです。少し失敗するとすべてが嫌になってしまうこともあります。

詐欺などお金のトラブルに遭う場合も

そのほか、音は聞こえるけれど理解しにくいなど、聴覚の情報処理に困難があるため、大勢での会議や電話対応が苦手という人がいます。不注意や衝動性が合併すると、部屋の片付けができない、持ち物の管理ができない、時間に間に合わない、お金の使い方、食欲などがうまく抑制できないなどの問題を抱えることがあります。特に特定のものにこだわりが強い場合、睡眠不足になるほど熱中してしまう、コレクションを全部そろえたくなって大きな金額のお金を使ってしまう、他者の言うことを鵜呑みにして詐欺の被害にあうなど大人になるに従いトラブルの規模が大きくなります。

「私って発達障害?」 気付いた時の相談先

就職活動がうまくいかない、仕事上のトラブルが続くなどによって、体調不良、うつ病、不安障害、ひきこもり、アルコール依存症などの二次障害を引き起こし、心療内科などを受診して初めて、自閉スペクトラム症などの診断が付く場合があります。
また、インターネットなどで調べて自分で自閉スペクトラム症の特徴に当てはまると気づく場合、配偶者や家族、友人がそうではないかと気づいて受診を勧めてくれる場合もあります。自閉スペクトラム症当事者との意思疎通がうまくいかない、こだわりなどに振り回されるなど、配偶者や家族、友人が陥る二次障害のことをカサンドラ症候群といいますが、そうなってしまわないためにも、できるだけ早く大人の発達障害に対応してくれる心療内科や精神科などの専門機関を受診することをお勧めします。相談先がうまく見つからない場合には発達障害者支援センターなどに問い合わせるとよいでしょう。
また、診断を受けた上で仕事を探す場合は、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所など、日常生活に関する支援を受ける、向いた職場を探す、職業訓練を受ける、職場への定着を支援するなど、障害がある人の生活や就労に関するさまざまなサポートを受けられる相談先もあります。

向いている仕事、向いていない仕事

細部にこだわり熱中しすぎて仕事が進まない場合も

段取りやスケジュール、やるべき分量が決まっている仕事、こだわりや興味の偏りを生かした専門分野で活躍する技術者や、コツコツ網羅的に調べる研究者などの仕事は、比較的向いている仕事と言えるでしょう。特に不注意傾向が無い場合は、書類の細かな不備等を見つけるのが得意な方もいます。
規則的、計画的に仕事を行うことは比較的得意ですが、急な予定変更やトラブルに柔軟に対応することは難しく、自分で段取りを決めなければならない仕事は苦手です。スケジュール通りにやろうとして時間にこだわる反面、細部にこだわりすぎてそのことに熱中して仕事が進まず納期に間に合わないなど、柔軟性に欠ける特徴が支障になる場合もあります。
明確な指示があれば自分で仕事をこなすことができますが、気を利かせることが求められる、暗黙の了解が求められるような職場は苦手です。他の人が忙しそうにしていても定時で帰る、繁忙期に何日も有給休暇をとるなどの行動をとる際、一声かけるなどの行動がとれずにひんしゅくを買う、指示待ち人間になりがちなど、人間関係でトラブルになることがあります。

同時に複数のことを求められる仕事は苦労が多い場合も

また、自分で段取りを決めなければならない仕事やマルチタスクが求められる仕事は苦労するでしょう。複数のことを一度に指示すると優先順位をつけられない、今やっている仕事の途中で他の仕事を頼まれると混乱してどうしたらよいか分からなくなってしまう、ルールが複雑で時と場合によってルールが変わるような仕事では柔軟に対応することが難しいなどの特徴があります。
コンビニのアルバイトなど一見簡単なようで、同時に複数のことが求められ、作業の途中でも様子を見て他の仕事に入らなければならないような仕事には、かなり難しさを感じてしまう人が多いようです。このような仕事の場合、スケジュールアプリやTo Doリストなどをうまく活用して、苦手を補いながら仕事を達成している人もいます。
相手の心情を推測しなければならない仕事、社交辞令が飛び交う仕事は困難が多く、向いていません。介護や接客など相手が求めるものを読み取って対人的なサービスや援助をする仕事、クレームに対してことばを選んで謝罪や対応をしなければならない仕事、営業など社交辞令や本音と建て前を使い分けなければならない仕事は、自閉スペクトラム症の人たちにとっては、かなり難易度の高い仕事と言えるでしょう。
そのほか、特性によって向かない仕事があります。中には、人の顔を覚えることが苦手な人も多くいます。そうした特徴がある場合、取引先の人やお客様に何回か会っているのに「はじめまして」と挨拶をすると仕事に支障が出るような業種には向いていないと言えます。そのほか音やにおいが気になる感覚過敏が強いと、音やにおいがきつい環境の職場はつらい、発達性協調運動障害を合併していると、例えばソフトクリームを素早く作るアルバイトや、手先の器用さが求められる技巧的な仕事には向かないなど、特性によっては、向き不向きがあります。

得意な領域は多くある!自分の特徴はなにか、振り返ってみよう

自閉スペクトラム症やアスペルガー症候群の方達の中には、大変記憶力が高い、独特の視点や発想力がある、特定の興味ある領域では膨大な知識があるなど、得意な領域をうまく生かして活躍している方も多くいます。これまであげた仕事でも、創意工夫や経験の積み重ねで、うまくやっていらっしゃる方もいます。大切なのは何が苦手で何が得意か、自分の特徴をよく認識して、失敗やストレスの少ない領域を探し、苦手部分はツールなどをうまく活用して補っていくことだと思います。

コラム監修者が講師を担う動画コンテンツ

監修・講座講師

大岡 治恵
日本福祉大学中央福祉専門学校 言語聴覚士科 学科長
日本福祉大学付属クリニックさくら 言語聴覚士
1990年から11年間、新城市民病院、岡崎共立病院等で言語聴覚士として勤務ののち、2001年より名古屋文化学園医療福祉専門学校専任教員、2008年より日本福祉大学中央福祉専門学校言語聴覚士科学科長として言語聴覚士養成に携わる。学生の演習施設、教員の臨床施設として併設施設「ことばと聴こえの支援室さくら」を開設、2020年日本福祉大学付属クリニックさくら開院後は、教員の傍らクリニックの言語聴覚士としても発達障害、構音障害、吃音等の臨床、および臨床研究を行っている。

日本福祉大学中央福祉専門学校 言語聴覚士科
日本福祉大学付属クリニックさくら

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