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「ふくし」を思う

研究・教育活動、地域連携・社会貢献の取り組みを紹介します。

研究紹介

ソーシャルワーク関係
―Mixed-Methodによる研究―

大谷京子准教授

日本福祉大学
社会福祉学部 社会福祉学科

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※所属や肩書は講演当時のものです。

研究の背景・目的

 私は精神保健福祉ソーシャルワーカー(PSW)として現場で10年働いてきましたが、日本の精神保健福祉は、質・量ともに不十分と言わざるを得ません。

 病院、保健所、作業所にルーツを持つPSWは、患者の尊厳を守るとともに、社会防衛的な機能や、医療と福祉をつなぐというジレンマを伴う役割を担わされ、社会資源の開発や政策提言をしてきました。PSWの実践領域はどんどん広がっているわけですが、実践を可視化する研究はほとんどなく、評価指標も少ないのが現実です。

 それでも現場には誰もが認める良い実践があります。実は暗黙知として良い実践を評価する基準があるのではないか。そう考えた私は、ワーカーとクライエントの関係性に焦点を合わせ、質の高い実践とは何か、それを支える要素は何か、明らかにすることを目標に研究を行いました。

研究の方法

 本研究にはMixed-Methodの探索的順次デザインを用いることとし、理論的枠組みとして、個別と集団と社会の3つのレベルにアプローチすることを強調したエンパワメントと、理念的には否定されながらも実践されているパターナリズムの両方を取り上げました。

 そもそもエンパワメント理論で強調されている自己実現や人間の尊重、人間の変化の可能性、社会性は、ソーシャルワークが100年以上にわたって一貫して追求してきたテーマです。しかし、理念としてはうたわれていても、実践に結び付いていないことが指摘されるようになり、PSWにはクライエントとの関係性、役割、クライエントの捉え方、社会に向けた活動展開の4点について、パラダイムシフトが求められました。

 もう一方のパターナリズムは、「本人自身の保護のために、その自由に干渉する形態」とされています。積極的 / 消極的なパターナリズム、強い / 弱いパターナリズム等、いろいろな分類がなされていますが、いずれにせよ自由への侵害です。従って、なくて済むのであればない方がよく、自由の制限が少ない、消極的な、弱いパターナリズムが優先されるべきだとされています。

 だからといって、パターナリズムは簡単に排除されるものでもありません。例えば、クライエントが、家族に迷惑がかかると考えて退院をあきらめている場合に、まずPSWの価値観で働き掛けるという実践を否定はできません。その一方で、時にはクライエントの自己決定を尊重するからこそパターナリスティックな介入をするという、相矛盾する実践がなされていることが推測できます。

 精神保健福祉領域においては、エンパワメントを志向しつつ、同時にパターナリスティックな介入を行うという矛盾して見える二つのアプローチが存在しているのですが、その全体像は明らかではありません。そこで、まず実践の内実を把握するために、質的調査を実施しました。

質的調査

 質的調査の目的は、日本の精神保健福祉領域における質の高いソーシャルワークの内実を描写することと、その実践を支える中核要素を見いだすことです。そのために、当事者へのフォーカスグループインタビューと、20年目以上のPSWに対するエキスパートインタビューを実施しました。

 フォーカスグループインタビューは、対象者に近い視点での社会的、情緒的、経験的現象の洞察に有用とされています。そのニーズ構造分析をした結果、「よりよい人生を生きる手助けをしてほしい」「よりよい援助をしてほしい」というニーズがあり、そのためには「PSWと当事者との関係」と「PSWの在り方」が重要であることが示唆されました。これを受けて実施したエキスパートインタビューからも、個人と社会に働き掛ける実践を支える要素として当事者との関係性とPSWの在り方が抽出でき、PSWの在り方、当事者とPSWの関係性を基に個人と社会に働き掛ける実践が展開されていることが示されました。

 私は、これはエンパワメント理論でパラダイムシフトが要求された、PSWの役割、関係性、対象者観に相当するものだと考えました。そこで、PSWの役割をどのように自己規定するか、またクライエントをどのように捉えるかは、クライエントとの関係性に影響を与え、実践に貢献する要素となると仮定して、再度レビューしていくことにしました。

 レビューの結果、関係性、自己規定、対象者観にも、パターナリズムとエンパワメントの両方の要素が含まれていることが分かりました。関係性は、クライエントから一方的な信頼を受ける関係から、双方向の信頼関係に変わってきています。エンパワメント理論の基盤とされるパートナーシップについても、目的の共有・協働から共生のレベルまで、幅広い概念であることが理解できました。

 自己規定については、伝統的な治療者としての専門職と、脱専門性を目指す専門職という両方の極があり、そのスペクトラムの上を状況に合わせて移動しているのではないかと考えました。

 対象者観については、何らかの生きづらさを抱える人、ストレングスを持つ責任主体、生活主体者等々、複数の構成要素が出てきました。このような概念整理をした上で、それぞれの要素間の関連を明らかにするため量的調査を行うことにしました。

※この研究紹介は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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