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「ふくし」を思う

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講演録

石川県地域同窓会企画 記念講演「子どもの貧困対策として、私たち地域の大人にできること」中村 強士准教授 日本福祉大学社会福祉学部

講演録 「子どもの貧困対策として、私たち地域の大人にできること」

  • 講師:
    中村 強士准教授(日本福祉大学社会福祉学部)
  • 日時:
    2017年07月08日(土)
  • 会場:
    近江町交流会館

※所属や肩書は講演当時のものです。

1.絶対的貧困と相対的貧困

 皆さんは、子どもの貧困といえば、遠く離れた国で食べる物もなく、死んでいくばかりの子どもたちを思い浮かべるかもしれません。それも子どもの貧困には違いないのですが、子どもの貧困は学術的に大きく二つに分けられます。

 途上国で飢餓に苦しむ子やストリートチルドレンにまつわる貧困は、絶対的貧困といいます。生命を維持するために最低限必要な衣食住が満ち足りていない状態です。それに対し、日本が問題にすべきなのは相対的貧困です。その地域や社会で「普通」とされる生活を享受できない状態です。

 所得でいえば、単身世帯で年122万円以下が一つの目安になります(2015年)。経済的理由で高校や大学に進学できない人のために、日本福祉大学もさまざまな奨学金を用意していますが、学費を払えなくて退学・休学する学生が必ずいます。これも相対的貧困の問題です。

 子どもの貧困が公に知られるようになったのは、2008年ごろからです。私がいつも紹介するのは、虫歯があっても治療を受けられずに中学生で総入れ歯になった子どもや、給食がない夏休みは体重が10kgも減る子ども、カッパや傘がないので雨天には無断欠席する子どもの事例です。当たり前のことができず、当たり前のものを持っていないわけです。子どもの貧困の深刻さを伝えるために、このような重い事例を紹介することが多いのですが、それだけでなく、高校・大学に進学できないことさえも、子どもの貧困問題だということを念頭に置いてほしいと思います。

2.保育所へのアンケート結果から

 私は、名古屋市内の全ての公私立保育所の保護者を対象にアンケート調査を実施しました(2012年)。わかったのは、20歳未満の保護者の75%が貧困層であること。それから、子どもの年齢が幼いほど貧困とはいえないということです。全国統計では子どもが幼いほど貧困ですが、名古屋市は当てはまりませんでした。別の見方をすれば、子どもが幼い貧困世帯は、子どもを保育所に預けていない可能性があるとも考えられます。

 貧困層の皆さんは、病気、障害、学習面の遅れに不安を抱えている人が多く、常に貧困の連鎖を不安に感じています。また、所得の高い階層よりも貧困層の方が、子どもの将来を心配していることも実際にわかりました。やりたいことができないことも、貧困層を象徴する問題です。それから、貧困層の約4分の1が社会的に孤立しています。貧困であるがゆえに孤立させてはいけないのに、他の層に比べて割合が高いのです。

 また、貧困層は他の階層に比べて、保育所利用を消極的に捉えています。収入が低い層ほど、「仕方なく保育所に預けている」と答える人が多いのです。また、所得が低くなるほど育児ストレスを抱えやすく、発散するために叩いたり、厳しく叱ったりする人が多い結果となりました。また、200名を超える保育所利用者が「世話に関心がない」と答えています。

3.子どもの貧困の現状

 子どもの貧困を改めて定義すると、「子どもが経済的困難と社会生活に必要なものの欠乏状態におかれ、発達の諸段階におけるさまざまな機会が奪われた結果、人生全体に影響を与えるほどの多くの不利を負ってしまうこと」(小西祐馬氏)といえます。

 子どもの貧困は、経済的困難を中核にしながらも、不十分な衣食住、適切なケアの欠如や虐待・ネグレクト、文化的資源の不足、低学力・低学歴、低い自己評価、不安感・不信感、孤立・排除が複雑に絡み合っていて、大人になっても貧困から脱出できなければそのまま引き継がれます。これを貧困の世代間連鎖、あるいは貧困の世代的再生産といいます。

 日本の子どもの貧困率は、2012年の16.3%から2015年には13.9%に下がりましたが、ひとり親家庭の貧困率が50.8%(2012年54.6%)と依然として高いことが大きな問題です。

日本の年齢階級別貧困率

 1984、1994、2004年の年齢階級別の貧困率を比べると、1984年は高齢者の貧困率が最も高いですが、1994年、2004年になるにつれ、高齢者の貧困率は下がり、子どもの貧困率が上がっています。しかも、5歳未満の子どもが最も高くなります。

 ひとり親世帯の貧困率を国際比較すると、普通は就労世帯の方が非就労世帯よりも貧困率が低くなるはずですが、日本はあまり変わりません(2000年代)。つまり、働いていても貧困から脱出できないのです。

 それから、日本は再分配前よりも再分配後の貧困率の方が高い(2000年代)。他の先進国は、税金や社会保険料が所得に応じて再分配されますが、日本は税金や社会保障制度によって逆に貧困に陥るケースが多いです。社会保障は本来、貧困から脱出するために存在しますが、逆転現象が起きているのです。

※この講演録は、学校法人日本福祉大学学園広報室が講演内容をもとに、要約、加筆・訂正のうえ、掲載しています。 このサイトに掲載のイラスト・写真・文章の無断転載を禁じます。

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