はじめに 対象とした活動 学習環境 研究活動の記録状況 活動についての考察 おわりに

ビデオを見る

1.はじめに

大学では、各種の研修、フィールドワークなど、実体験を伴い、学生の主体性の求められる学習活動も多い。こうした、いわば「実践型の学習」では、圧倒的にインパクトのある実体験をより有意義なものとするため、また、実体験の成果を確実に次のステップとするため、学習のプロセスを記録・共有することが、特に効果的であると考えている。活動のプロセスを適宜、文書や映像(静止画・動画)の形で記録・蓄積し、かつ、共有していくことは、次のような点からも、活動の質をより高めることができるのではないかと考えている。

文書に書いたり、活動状況の映像を閲覧したりすることで、自分たちの活動を客観視することができ、活動を望ましい方向へと適宜軌道修正していくことができる。
他の参加者からのコメントにより、自分とは別の考えや視点を得ることができる。
記憶とともに、文書や映像の記録を振り返ることで、より充実したまとめを行うことができる。
今後、同様の活動をする他の学生にとっても重要な情報源となる。

ここでは、本取り組みで掲げているこうした「循環再生産型の学習」を目指し、試行的に実施した2つの取り組みについて紹介する。


ページのトップへ

2.対象とした活動

本取り組みを実施する際には、文書や映像により、現場での状況を記録していくことになる。現場で触れ合う方々へ事前説明を行い、了解を得ておくことは必要不可欠である。特に、今回は、試行的な取り組みということもあり、実践に際しては、相手先の了解が得られやすい活動、また、教員により目が行き届く程度の人数による活動を選定することにした。具体的には、台湾を舞台に行われる国際協働学習プロジェクトであるASEP(Asian Student Exchange Program)への参画を行う「台湾研修」、また、フィリピンにおいて現地大学生との交流や孤児院での活動を行う「フィリピン研修」を対象とした。どちらも自主活動であり、台湾研修には14名の学生が、フィリピン研修には10名の学生が参加した。活動を支援し、引率した教員は、両研修とも2名である。 両研修とも、その内容については概略に触れるのみとし、循環再生産型の学習を目指して取り組んだ内容に焦点をあてて紹介する。


ページのトップへ

3.学習環境

学習の記録は、fuxiに行っていくこととした。インターネットにつながった環境がありさえすれば、どこからでも活用することができる。 また、今回の取り組みでは、デジカメによる映像も記録・共有すべき情報源として位置づけている。fuxiで画像共有を行うこともできるが、ファイル形式やサイズが限られること、また、ファイルを1つ1つ選択してアップロードする必要があり手間もかかる。したがって、デジカメ画像等のデータについても学生が容易に蓄積することができるような環境を整えることとした。具体的には、パソコンによるファイルコピーの要領で学生が蓄積できる領域を確保し、蓄積された情報から自動的にWebアルバムが生成される環境を準備することとした (図1)。



Webページからリンクをたどると認証を経てエクスプローラのフォルダが現れる。学生は、命名規則に従ってフォルダを作成し、データを蓄積していく(図1上)。蓄積したデータをもとに、Webアルバムは自動生成される(図1下)。蓄積時に作成したフォルダの階層構造に従って画面左のメニューが自動生成され、フォルダ内の画像のサムネイルがWebブラウザ上に一覧で表示される。Firewallの関係で、本環境による画像データの蓄積は学内環境のみから可能であるが、蓄積されたデータの閲覧は、認証を経ることでどこからでも行うことができる。 fuxi、および、こうしたデータ共有環境をワンストップで活用することができるよう、本取り組みではポータルサイトを設置した(図2)。なお、ポータルサイト上では、プロジェクトに関連する情報の発信も行っている。


ページのトップへ

4.研究活動の記録状況

4.1 台湾研修
台湾研修の核となるASEPは、異文化理解、英語力・学習意欲の向上等を目的として2000年より毎年開催されており、本学教員が台湾側と協働してプロジェクトの企画・運営を進めている活動である。主な活動内容は、(1) 台湾の学生と協働で行う英語プレゼンテーション、(2) パーティにおける各国からのパフォーマンス、(3) ホームステイ・観光等による異文化交流、である。2006年度は、台湾、日本、韓国、マレーシア、タイ、インドネシアの計6カ国が参加した。2006年11月20日に活動を開始し、現地の滞在は12月24日〜29日である。帰国後レポートを提出する2007年1月31日までが活動期間となっている。 fuxiの活用に際しては、教員は、書くことによる振り返りの意義・重要性を指摘し、ASEPに向けて行ったこと、その際に感じたことの他、生活の状況等についても気軽に投稿するように促した。また、台湾研修のコミュニティを1つ設置して、参加者は全員登録すること、記録係を決め、会議の議事録をコミュニティに投稿して記録として残すこと、を必ず行うように指示した。ただし、日記へ投稿に関しては意義を伝えるにとどめ、基本的には、自主的な活用に任せることとした。活動期間におけるfuxiの活用状況、静止画・動画の登録件数を表1に示す。



4.2 フィリピン研修
フィリピン研修では、現地の大学訪問、孤児院における活動という2つの柱がある。 大学訪問では、現地の大学の紹介、また、現地学生によるキャンパスツアーが行われる。案内される中で英語に触れて、自身の英語力を認識するとともに、同世代の学生が、どのような姿勢で学習に取り組んでいるのか、また、自分たちがイメージしているものとくらべ、フィリピンの大学はどうであるか、を体感する。孤児院における活動では、子どもたちと実際に触れたり、施設の院長はじめ関係者へインタビューを行ったりする。教員による全般的なコーディネート・支援のもと、学生自身が各種の企画立案や調整を行い、試行錯誤を繰り返していく。こうした活動を通じて、その上で、自分たちにできることを考え、今後の自分たちの課題を発見し、学生生活を見直していくことを目的としている。本研修は2007年1月12日に開始され、現地への滞在は2月11日〜22日であり、レポート締切りの3月25日までを活動期間とした。 台湾研修と同様に、フィリピン研修のコミュニティを1つ設置して、参加者は全員登録させるようにした。記録係を決めたこと、日記への投稿を促しはするが義務化はしないなど、台湾研修と同様に対応した。活動期間におけるfuxiの活用状況、静止画・動画の登録件数を表2に示す。


ページのトップへ

5.活動についての考察

5.1 記録・共有の効果について
循環再生産を目指して行った取り組みが、活動に参加した学生にとってどのような効果を及ぼしたであろうか。活動の性質上、定量的な評価は難しく、効果については、目的を達することができたかどうかを、長期的に、あらゆる視点から検討していく必要があるものと考えている。そこで、ここでは、学生のfuxiへの投稿内容、学生に行ったアンケート・インタビューの結果を質的に分析・解釈することで、活動の中でどのようなことが起こっていたのかを考察することにする。 上記のデータを分析していくと、活動の効果として(1) 他者の状況理解、(2) 自分自身の客観視、(3) 指針の獲得という3つの要素があるように思われる。以下、個別の要素ごとに記述する。

(1) 他者の状況理解
アンケートでは、「他の人がどのように思っているのか、感じているのか、本音の部分がわかるのがよかった。」という記述など、お互いの状況を把握できてよかったという回答が多く見られた。具体例として、fuxiにおける書き込みで見てみると、1年生グループのリーダである学生は、プレゼン作成時の葛藤を次のように綴っている。



同日のことを他の学生は次のように綴っている。



これらは、個人ベースで記録するという形態だからこそ、皆の前では発言するほどのことではない、共有のコミュニティに投稿するほどではない、というような、自分の心情にかかわる情報までアウトプットされているものと思われる。こうした記述にお互いコメントしあう様子もみられ、お互いの理解を深めることができたと考えられる。

(2) 自分自身の客観視
文章化することは自分自身の活動を振り返り、客観視することにつながる。アンケートにおいて、「準備段階での活動を振り返って客観的に自分の行動を観察し、良い所・悪い所を発見することが出来き(略)」と回答した学生は、fuxi上に次のような記述を行っている 。



こうした、情報を自ら書き出し、他者からコメントを付けてもらったり、他者の日記も見たりすることで、自分とは違った視点・考え方を知り、より客観化・相対化をしていくことができるものと考えられる。 記録された映像については、報告書作成の際、同僚や後輩たちへの自分たちの体験報告プレゼンテーションを行う際などに、しきりに活用している様子がうかがえた。映像を閲覧していた学生にインタビューしたところ、次のような回答が得られた。



記録された映像を事後に単純に閲覧するというだけでも、学生が自分自身を客観視することにつながりうると言うことができるだろう。

(3) 指針の獲得
 活動時の状況の共有に加えて、レポートを作成する際に「当時の状況を思い出せてよかった」と指摘する者も多い。「振り返りに有効だったため、もっと記録しておけばよかった」と回答する者もいた。また、「(記録している際には)他にやることがあるのではないかという焦りを感じたが、レポートを書く際に有効であった」、「自分の次のステップを確認するために役立った」という回答もあった。 フィリピン研修の事後には、自分たちが見てきたもの、感じたことを他の学生に知ってもらいたいという思いから、学生自身が主体で企画し、展示会も開催された。また、まとめのレポートを見てみると、自分たちの活動と関連付けて、課題を見出している学生も多い。こうした傾向は、活動を着実に内省し、次にやるべきことを発見した、あるいは、発見しようと試行錯誤していると言えるものと考えられる。

5.2 蓄積された情報の活用
循環再生産を目指して行った取り組みにより蓄積されたデータは、次年度以降の学習者にとって、教材となりうるであろうか。蓄積されたデータの内容、また、これまでのデータ再活用事例から考察してみたい。さらに、2007年度の台湾研修参加者に、2006年度の参加者によるfuxiの記録を閲覧してもらった際の学生の反応についても紹介する。 まず、fuxiへの記述への内容について見てみる。台湾研修における柱として掲げている3つの活動、すなわち、(1) 台湾の学生と共同で行う英語プレゼンテーション、(2) パーティにおける各国からのパフォーマンス、(3) ホームステイ・観光等を通じた異文化交流、に関する記述がどの程度見られるか、引率教員が分類した結果を表3に示す。



主な3つの活動は日記の中に一定量記述されており、活動時の状況を具体的に振り返ることができる。また、時系列に並べることで、どの段階で何が行われていたかなどの状況も把握可能である。指導者としても、例えば、プレゼンテーション準備に向けた葛藤状況について、学生の実際の投稿から、よりリアルに次年度参加者に対して伝えていくことができると考えられる。このことを確認するため、縦軸を時間として、列に利用者(2006年度台湾研修参加者)として活動開始から台湾帰国直後までの約1ヵ月半分の日記を配置してもの(図3)を2007年度の台湾研修参加者のうちの4人に、台湾出発前の段階で閲覧してみてもらった 。



20〜30分程度自由に閲覧してもらった後、学生に利用してみた感想を聞いてみた。そのうちのいくつかを紹介する。



fuxiへの記録は、レポート、報告書などとは異なり、より気軽な、ラフな形式での投稿である。投稿の中には、読み手についてはあまり意識せず、個人の記録的なものも見られる。したがって、そのときの活動状況や文脈を共有していない者たち(次年度参加者)にとって、こうした生の情報がそのまま使えるかどうか、という疑問があった。しかし、こうして日記を配置して閲覧すれば、1人の日記だけでは理解しにくい内容・キーワードがあっても、同様の内容を他の学生が記述していることも多く、文脈の理解には支障がないようであった。むしろ、学生自身の言葉で表現された、その時の生の感覚だからこそ、ここで紹介したような感想を持つに至ったとも考えられる。したがって、学生の書き込みを教員らが再編集して指導に反映するという以外にも、生の情報をどのように効果的・効率的に見せていくか、という視点も重要であると言えるだろう。

5.3 課題
 2つの研修を対象に、循環再生産型の学習の試行、特に、その第一歩として、活動のプロセスの記録と共有に着目して実践を行った。どちらの研修でも一定の投稿数は見られたが、フィリピン研修では台湾研修よりも明らかに投稿件数が少ない。実際、フィリピン研修活動期間におけるfuxiへの投稿のすべてに目を通してみても、様々に活動していた様子を十分に読み取ることはできない。また、ここで取り上げていない他の活動において、fuxiの活用を目指しながらも、あまり投稿が行われなかった例もある。この原因としては、「書くということへの負担感」、また、先にも記述したような「活動への過度な没頭」、「何かをやらねばならないという焦燥感」などが挙げられるだろう。今回、日記への投稿を義務化はしなかったが、今後は、戦略的に振り返りの時間も確保していく必要があると思われる。立ち上げ時に配慮すれば、習慣化して自主的に、また、文章自体はさほど吟味せずに投稿しても構わないため、負担感無く継続できるのではないかと考えている。また、記録された情報がどれだけ意味のあるものであるか、本取り組みで蓄積されたデータを紹介して示していくことで、記録することへのインセンティブを与えていきたい。  蓄積された情報を教材として再活用する際については、現状、活動プロセスを把握していた教員が手作業でやらざるを得ない状況である。ようやくいくつかの活動において記録が蓄積される例が見られるようになってきたという段階で、その再活用方法の効率化については、今後、事例とともに考えていく必要がある。高度に知的な作業となるため、完全な自動化は難しいと考えられるため、蓄積された情報をわかりやすく可視化し、データ再活用のための編集作業を支援するような仕組みが有効なのではないかと考えている。図3で示したような方法も、そのための1つであると言えよう。この例では、fuxi上の情報だけであるが、今後は、映像も含む膨大に蓄積された情報の効果的な可視化手法を追求していきたいと考えている。


ページのトップへ

6.おわりに

台湾研修、フィリピン研修という2つの研修において、コンセプトとして検討してきた「循環再生産型の学習」を実践に移すことを試みた(図4)。実体験だけでなく、実体験に臨む事前の準備、実体験後の事後の振り返りが重要であることはよく指摘されるが、そのための具体的な手法の1つを、具体例とともに紹介し、また、蓄積された情報の活用例についても紹介した。現状では、初歩的なレベルではあるが、「循環再生産型の学習」というモデルを、事例とともに提示することができたのではないかと考えている。 今回の取り組みを契機として、ここで紹介したような活動の輪を広げ、また、継続的に積み重ねていくことで、「循環再生産型の学習」を学習のスタイルとして確立させていきたい。


ページのトップへ