田中
「まず染矢様のプロフィールとお仕事の内容からお伺いできますか?」
染矢
「プロダクトデザイン系の大学を卒業後、1982年に当時の松下電工株式会社に入社し、シェーバー、ドライヤーなどの家電小物からエステ、マッサージチェアなどの健康器具、住宅の洗面、トイレ、建具などのデザインを手がけた後、ユニバーサルデザイン共創開発グループで全社的なユニバーサルデザインの推進を担っています。各事業にはそれぞれデザイン部門がありますが、全社的なユニバーサルデザイン推進の見地から、各商品のユーザビリティ評価を行い、改善に向けたアドバイスを行います。」
田中
「御社の製品は建材、キッチンやトイレなどの水まわり製品、配線やセキュリティといった住宅用情報機器から照明、健康器具、家電製品まで、人々の暮らしや生活全体を包み込むような製品群として本当に多岐にわたっていますね。そのように幅の広い事業領域にあって、御社ならではのユニバーサルデザインの取り組みについて教えてください。」
パナソニック電工株式会社デザイン部の染矢様
パナソニック電工株式会社デザイン部の染矢様。ソフトな口調の中に、商品開発のプロフェッショナルとしての熱い想いをうかがい知ることが出来る。
染矢
「パナソニック電工の事業領域のうち、住宅設備・建材の『住まいのユニバーサルデザイン』だけでなく、屋外照明を中心にした『街のユニバーサルデザイン』にも取り組んでいます。60年程前になりますが、松下幸之助が人にやさしいモノづくりをしなさいといわれたことに範をおいています。したがって全社的にユニバーサルデザインに対する意識は高いと思います。このような言葉が一般的ではなかった90年代初めから、高齢者向け住環境の商品シリーズとして「生き活き商品群」、介護保険の登場にあわせて福祉・介護関連の商品群である「エイジフリー事業」など独自の取り組みを行ってまいりましたが、2000年頃よりユニバーサルデザインの専門部署を置き、本格的に着手しました。こうした具体的な取り組みは介護保険の導入や高齢化の流れもあり、世の中からの要請に応えるものだと考えています。」
田中
「われわれの健康科学部と同じですね。そのような企業環境の中で、どのようにお仕事を進められているのでしょうか? 例えば各商品のユーザビリティ評価について、具体的には?」
染矢
「ユニバーサルデザインとしてのチェックの仕方は、企画の段階からするもの、開発途中で相談に乗るもの、製品化の段階でするものなどいろいろあります。そもそも製品としての安全性や信頼性は基本品質として当然のことなので、われわれが関与するのはそこではなく、操作性を中心にした様々な面、つまり理解しやすい操作なのか、わかりやすい表示と表現なのか、楽な姿勢と動作で使えるのかなどユニバーサルデザインの基本6要素とわれわれが考える視点で評価します。ユニバーサルデザインについても社内に基準があり、基準をクリアしなければ商品化されません。」
田中
「製品のユーザビリティに関するガイドラインですね。詳細なガイドラインで可能な限り数値化されているものと聞いています。」
パナソニック電工株式会社の考えるユニバーサルデザインの6要素。
パナソニック電工株式会社の考えるユニバーサルデザインの6要素。(同社ホームページから)
染矢
「ロン・メイス(Ronald Mace)の七原則をパナソニック電工用に基本六要素として作り直した独自のガイドラインです。六要素にはそれぞれに細目があり、文字の大きさ、コントラストなど、数値化できるものはそうしています。いずれの場合も大体で決めているのではなく、評価・検証を重ねて作っているので、きちんとしたエビデンスがあります。その六要素をベースに商品開発をする、つまりユニバーサルデザイン開発をするわけですが、その中でも業界初とか業界トップレベルというものを、『UD認定商品』としてアピールしています。また、単に「ユニバーサルデザイン」とうたうのではなく、この製品のどのポイントがユニバーサルデザインとして配慮されているのかを明確にするようにしています。」
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パナソニック電工のUD商品「アラウーノ」
電工のUD商品「アラウーノ」。左上のアイコンはUD認定商品のマーク。(同社ホームページから)
田中
「UD認定商品の中で具体例をいくつか紹介していただけますか?」
下畦
「全てのUD認定商品の中でもシンボル的な位置付けなのは、全自動お掃除トイレ『アラウーノ』です。これは1998年の第一号機から発展してきているものです。蓋の開閉から水洗、掃除まで全自動となるのは確かにこの商品の特長ですが、便座の基本性能として座りやすく長時間座っていても疲れないことや、また、アームレストに工夫があって、人間工学的にも立ち座りの際の膝や腰の負担が少ないということも大きな特徴です。このアームレストはおかげさまで世代を超えたさまざまな方から高い評価をいただいています。」
田中
「建材や住居まわりの製品をトータルに出されている御社ならではの製品ですね。発売当初はトイレを従来からの陶製にこだわらず、新素材のプラスチックで作られたことに驚きました。これは発想の転換ですね。」
下畦
「キッチンや洗面、お風呂も素材を替えたり、工夫を入れたことによって、メンテナンス性が飛躍的に高まりました。すぐきれいになるので、『ささっとキレイ』『ささっとカウンター』などと呼んでいます。発想の転換という意味では、IHクッキングヒーターの配置ですが、従来、キッチンのガス器具は3つの火口を三角形の配置としていたものを横に直線的に配置したことによって、調理をする際の動線がスムースになりました。また洗面化粧台の『ミラくるミラー』という三面鏡は、冷蔵庫によくある両側開きの扉を応用したものです。『畳が丘』というのは高齢者や足腰の弱い方を想定して作られた製品ですが、ふだん畳を利用することが困難な車椅子の方からも好評です。こうした工夫はキッチン向けの『座るワゴン』や玄関の『壁つきベンチ』でも展開されています。名前は全てベタですが…」
田中
「わかりやすくて良いのではないでしょうか(笑)。IHクッキングヒーターを3つ直線に配置しただけで使いやすさが大きく変わるというモノ作りですが、普通のキッチンは、キッチンメーカーがキッチン全般を作り、そこに加熱(ヒーター)機器メーカーの作ってくれたヒーターをはめ込んで完成する訳ですが、このように分業した製造方法や発想方法では、いつまでたってもこのキッチンは産まれなかったはずです。生活全般を設計される御社ならではの製品だと思います。それにしても多岐にわたっていますね。こうした商品群はどういうきっかけで産み出されるのでしょうか。」
染矢
「デザインをする上で必要となるのは、こういう基準があるからこうすればこういう商品が出来る、というようなデジタル的な発想や知識ではなく、あくまで新しい知恵で考えていくことが大切です。さきほどユーザビリティの社内基準の話をしましたが、お客さまがどのような場面でどのように使うのか、直接確かめることが実は一番大切なのです。そこで気づかされることが、新しい知恵につながります。」
田中
「学生によくいうのですが、普段からよく使っているものが実は使いにくいのではないか、という『気づきの視点』は重要ですね。不便なものに慣れているということに気づくことも大切ではないでしょうか。」
下畦
「デザイナーに限らず、商品開発に関わるすべての人に大切ですね。」
パナソニック電工の皆様の商品に込められた想いに田中先生も聞き入ってしまう。
パナソニック電工の皆様の商品に込められた想いに田中先生も聞き入ってしまう。詳細については、
http://panasonic-denko.co.jp/corp/ud/index.html
を見てほしい。


記念撮影。(田中先生の向かって右側が染矢様、左側が下畦様)
最後にパナソニック電工本社内の最も重要かつシンボリックな場所にて記念撮影。田中先生の向かって右側が染矢様、左側が下畦様。このような機会を与えていただき、ありがとうございました。
田中
「お話をお聞きして、御社のユニバーサルデザインの考え方は、誰か特定の人向けではなく、万人が同じように使いやすいデザインであるととらえるべきですね。」
染矢
「その通りです。一連の商品体系では、そうした広いユニバーサルデザインの概念で高齢者や障がい者を相当程度含んでしまうことができます。それに含まれない特定なお客さま層を対象としているのが、介護事業で展開する商品群であって、私どもは二段階でお客さまの層を押さえている、ということができます。」
田中
「なるほど。介護事業ではエイジフリーサービスとして実際に介護サービスや施設の運営、介護用品のショップ運営もされているということで、会社としては『気づきの視点』が豊富に得られるわけですね。日本福祉大学ではボランティアサークルが何十もあって、学生は日常的に障がいを持つ学生と接しており、そうした『気づきの視点』が自ずと養成されます。」
染矢
「それが一番大切なことだと思います。人の暮らしを見て、まずい点・不便な点に気づくこと、相手を推し量り、思いやることのできること。これが商品開発の根底にあるべきものです。松下幸之助の『人にやさしいものづくり』というビジョンもそういうことに違いありません。お客さまの要求以上のものを新しい知恵で作り上げ、良い意味で驚きを与える。若いデザイナーによくいうことですが、「デザインはいいけど、使いにくい」というのは間違いです。使いにくいということはデザインが悪いのであって、デザイナーの責任です。『用』と『美』の融合というのがデザインであって、それをさらに多くの人が使えるようにするのが、ユニバーサルデザインだと思います。
建築についてもその根底に思いやることのできる福祉の視点が必要だと思います。わたくしどもの住宅まわりの商品は全国の工務店向けのものが多いのですが、商品紹介にあたって全国でセミナーを実施し、なぜユニバーサルデザインが必要なのかを根底から説きます。高齢者や障害者の人口動向、事故事例、商品ニーズなどもあわせて説明し、ユニバーサルデザインについて幅広くご関心をいただく一助になればと思います。」

田中先生の感想
  • 松下幸之助の「人にやさしいモノづくり」とは、正しくユニバーサルデザインのことである。ユニバーサルデザインという言葉は1980年代にロン・メイス氏(ノースカロライナ州立大学・ユニバーサルデザインセンター)が提唱したものであるが、それより遡ること30年前に同じ意味を松下幸之助は伝えている。
    ぜひ、皆さんもロン・メイス氏の提唱したユニバーサルデザイン7原則について勉強して下さい。
  • パナソニック電工ではユニバーサルデザイン7原則をブレーンストーミングして自社の基本6要素としています。もともと7原則は厳格な基準と言うわけではなく目指すべき考え方を示しているものです。
    パナソニック電工をはじめとして各企業が、日本の文化や生活に馴染む形で‥また自社の製品に馴染む形で‥各社が独自のユニバーサルデザインの原則や考え方を作り上げています。是非、興味を持って様々な企業のホームページにアクセスし各社のユニバーサルデザインの考え方や製品・サービスを眺めてみてください。
  • エビデンス(evidence・証拠)を元に考えるユニバーサルデザインをパナソニック電工は目指している。この姿勢は今後のユニバーサルデザインのモノ作りの潮流となるであろう。『使いやすそう‥』という不確かな・不誠実なユニバーサルデザインは淘汰されエビデンスのあるユニバーサルデザインが求められるであろう。
    大学で地に足をつけてユニバーサルデザインを工学的に論理的に学ぶ意味がここにある。
企業プロフィール パナソニック電工株式会社ロゴマーク
パナソニック電工株式会社
〒571-8686
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TEL(06)6908-1131(代表)
http://panasonic-denko.co.jp/
大正7年3月7日創業
代表取締役社長 長榮 周作
従業員数 連結 56,103名(平成22年3月31日現在)
業務内容
照明、情報機器、電器、住設建材、電子材料、制御機器など幅広い事業分野にわたる製品の製造、販売、施工及び各種のサービス活動