家田知明様
進路研究第2回目は、積水ハウス株式会社医療・介護推進事業部の家田様。一級建築士で社会福祉士でもある家田様はまさにわれわれの目指す人材像だ。
田中
「御社の医療・介護推進事業部の設立当初から現在までのおおまかな流れについて、お教えいただけますか?」
家田
「当社が高齢者・障がい者のための住まいづくりの研究をスタートさせたのは、今から35年も前の1975年です。そして、2006年ごろから、研究ではなく事業化に取り組む動きが起こり、ケアリング推進事業部を発足させました。その後、2009年に名称変更して現在に至ります。医療・介護推進事業部では、主に全国の営業社員に対して医療系の建築や高齢者の賃貸住宅、介護施設の受注支援を行っています。」
田中
「受注支援とはどのようなことをやるのですか?」
家田
「個別案件の支援のほかに、営業社員各人において医療・介護分野の経験と知識にはバラツキがありますので、全国で社員向けの勉強会を行います。最近は現場の営業社員であっても介護保険や福祉の動向を押さえておかないとお客さまの問い合わせに応じきれなくなっています。また、新たな事業を開拓するという趣旨では介護事業者向け、医療関係者向け、事業希望者向けのセミナーも行っています。」
家田様と田中先生は、積水ハウス株式会社の同期入社。
家田様と田中先生は積水ハウス株式会社の同期入社ということもあり、最初から早いテンポで白熱したトークが交わされる。
田中
「家田さんへの問い合わせや仕事の引き合いはどのような状況ですか?」
家田
「ホームページ経由で直接お客さまからいただくものや、支店経由で上がってくるもの、その他、銀行や不動産会社、農協などからも毎日のように問い合わせをいただいております。その中から、事業化の可能性がどのくらいあるのかという視点で分別・整理し、優先的に手を付けて行きます。」
田中
「個別案件にかかわる営業支援の具体的な中身について教えてください。」
家田
「土地を持っている地主様が土地活用したい、というのが典型的な問い合わせの例です。アパート、マンションではなく、何か社会貢献、地域貢献できないかという要望が営業に入るとわれわれの出番です。お客さまと直接お話しさせていただく場合、話をじっくりとお伺いして、まずお客さまが何をなされたいのかを見極めさせていただきます。私は、これまで蓄積してきた経験と、一級建築士、社会福祉士、精神保健福祉士の資格を活かし、福祉や介護の施策がどのように動いているか、近隣の環境を踏まえマーケットがあるかどうか(ビジネスとしても成り立つのか)、事業の枠組みはどうするのかを見極めます。お客さまが地主である場合は、しっかりとした介護事業者を発掘し紹介することもあります。当社ではこの作業をマッチング事業といいますが、土地活用のニーズに対してグループホーム、デイサービスなど、お客さまにこのような事業がありますよ、と様々な福祉ビジネスを解説し、大手介護事業者を紹介します。この方法は明快で受注も多いですね。次は収支が成り立ち、事業として成立するのかどうかの見極めです。そこがクリアされて、初めて図面を引くことになるのです。」
田中
「すごいですね。支援とはいえ、何から何までされていますね。」
家田
「金額に関することは、支店の営業社員がやります(笑)。高齢者・障がい者の福祉ビジネスの領域は、マーケットが拡大しつつありますが、企業のビジネスのスタイルとしてはある程度確立しながらも、形成過程にあると思います。そのような段階での社内取り組みとしては、具体的な事例を示していくようなボトムアップが重要です。例えば、支店の営業社員や設計社員向けに『介護系事業による土地活用』『高齢者住宅設計資料集』を作成配布することで、意識の向上やノウハウの浸透を図っています。いずれは全国の支店に建築と医療・介護の両方の知識を持ったバリアフリーの専門家が配置されていくことになるのではないでしょうか。そういう意味でも日本福祉大学のバリアフリーデザイン専攻に期待しているのです。」
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医療介護事業部の専門家集団が社内に発信するマニュアルや資料集。
家田様をはじめ医療介護事業部の専門家集団が社内に発信するマニュアルや資料集。こうした活動が日々の企業活動のクオリティを支えている。
田中
「御社はまさに業界のトップを走り続けられているわけですが、今後の展開を睨んでどのような手を打たれているのでしょうか。」
家田
「まず、積水ハウスは累積建築戸数200万戸の実績がありますので、その建て替え需要を見込んだストック事業です。また、オーストラリアやロシア、中国といったところが狙い目となる国際事業、街路樹の植生から大規模分譲地全体を開発するまちづくり事業などがありますが、やはり最も大きなインパクトは高齢化です。これは住宅業界や建築業界だけではなく、あらゆる業界におけるインパクトではないでしょうか。もともと中高級の住まいづくりを展開している当社では、シニアのお客さまも多く、バリアフリーやユニバーサルデザインのニーズを肌で感じることが出来ます。また、施設の建築におきましても、病院事業者が介護事業に参入するなど、医療分野から次々に介護分野に進出しています。例えば介護系施設の受注金額や建築件数の伸びは一昨年から昨年にかけて約1.5倍です。医療・介護推進事業部としては、この他に有料老人ホーム、グループホーム、デイサービスセンターの受注支援も行っています。」
田中
「高齢化対応について、建築設計事務所や大手ゼネコンと比べて御社の強みと思われる点はどこにありますか?」
家田
「当社は戸建住宅から出発した住宅メーカーですから、住まいづくりのノウハウ、安全・安心・快適を、生活動線はもちろん家族の居場所といった繊細なところまで落とし込むことが出来ます。これは、グループホームはもちろん、デイサービスセンターの建築においても可能です。当社は1975年から培ってきたユニバーサルデザインのノウハウやこれまでの実績を踏まえた徹底したコスト管理により、バリアフリーの基本プランと経済的な価格設定が可能となるのです。」
田中
「御社は障がい者の住まいについても早くから手を付けられていますね。」
家田
「これについては国の研究機関や大学との共同研究を通じてノウハウを培ってきていますが、障がい者自立支援法に伴って、障がいを持つ方々の住み方が施設から住まいへ、住まいからグループケアへと変わってきています。私が精神保健福祉士を取得したのは、精神障がいを意識した家づくりはどうあるべきか、という問題意識があったからです。介護をする家族のニーズも含めて今後の事業課題としても考えられます。一例ですが、食べるところと寝るところをはっきりと分けるような住まいでは、わかりやすさがテーマとなるでしょう。」
グランドマスト五月山
グランドマスト五月山。とても賃貸とは思えない関西第一号の高齢者専用賃貸住宅だ。積水ハウスの高齢者向け設計ノウハウの集積でもある。内部の各部屋の写真はバリアフリーデザインアルバムにリンクしておく。
田中
「様々な取り組みをお聞かせいただきましたが、家田さんが手掛けている事業の中で一つ代表的な事例をお聞かせいただけますか?」
家田
「最近、特に提案申しあげているのは、高齢者専用の賃貸住宅です。大阪府池田市の『グランドマスト五月山』が関西地区第一号です。早めの住み替えという発想になりますが、高齢者が安全で、安心して、快適に住めるよう共用の食堂とラウンジを持ち、入口、廊下などさまざまな建築部位で高齢者に対応した設計を行っています。また、各住戸内に24時間緊急通報システムを備え、食事サービスも提供しています。さらに、直近に医療施設があって、最寄り駅までの送迎サービスも行っています。居室は43uを基本としながら33から59uまでパターンがあります。運営は(当社のグループ会社の)積和不動産ですから、積水ハウスグループ全体の取り組みとなります。グループの総合力が発揮できることも強みの一つですね。」
田中
「御社ならではの新しいビジネスモデルですね。全国的にどのような展開をされていますか?また事業としての見通しはいかがですか?」
家田
「日本の人口に占める高齢者の割合が増えていく中で、一般のアパートやマンションの高齢者対応ニーズも強くなると考えています。今、賃貸住宅に住んでいる方もいずれは高齢者になるわけですから、家主様としてははじめから高齢者にも対応した賃貸住宅を建てておくという考え方が広まるのではないでしょうか。当社では広島で始まり、松山、東京、大阪と設置されてきました。今後も需要が高い都市圏を中心に展開していきたいと考えています。」
田中
「家田さんと私は実は87年の同期入社。最初は名古屋に配属ではなかったでしょうか。」
家田
「そうです。工学部建築学科を出まして、最初は名古屋特建事業部で大規模施設、病院や高層ビルの建築設計を手がけていました。その頃より福祉政策やコミュニティサービスに興味を覚え、図面を引きながら日本福祉大学中央福祉専門学校に通いました。社会福祉士は二年間の通信教育課程で取得したものです。」
田中
「それはどうもありがとうございます(笑)。」
家田
「私の熱意が伝わったのか、98年から積水ハウス総合住宅研究所に異動となり、手すりの研究などバリアフリーの研究に携わりました。2003年に今の医療・介護推進事業部の前身の部署に配属されました。やりたいことをさせてもらえるのは当社の人材観のよい伝統だと思います。」
田中
「医療・介護推進事業部のやりがいはどこに感じられますか?」
家田
「建物が完成しても終わりではない、という部分です。高齢者専用賃貸住宅については、入居者の募集もしますし、家主様自らが募集をする場合でも募集の支援を行います。この高齢者専用賃貸住宅で日ごろ催されるお茶会などの場では、入居されている皆様の率直な想いや、ご意見を頂いたりすることで次に何が必要なのかが見えてきます。高齢者専用賃貸住宅はまだまだ少ない中で、住宅生産団体連合会での取り組みや国土交通省「高齢者居住安定のためのモデル事業」への取り組みを通じて、先導的なモデルを検討したり、政策やコミュニティサービスは今後どうあるべきで、国や政治をどう動かさなくてはならないかも見えてくるのです。」
家田様と田中先生、積水ハウス本社受付にて記念写真。
インタビュー後、積水ハウス本社受付にて記念写真に収まる家田様と田中先生。家田様、お忙しいところありがとうございました。
田中
「最後に本学バリアフリーデザイン専攻の人材像への期待についてお知らせください。」
家田
「当社だけではなく、どの分野においても求められるものだと思います。高齢者専用賃貸住宅のコンシェルジュの例を取ると、彼女たちはその日に起こったことを細かくノートに書いて次の担当者に申し送りをするわけですが、そういうやり方は福祉や介護の専門職のノウハウです。そうした資格を持つ方々の仕事は非常にきめが細かい。だからこそ応対もしっかりしているわけです。安心と信頼はこういう事業においては非常に重要なポイントとなります。私自身、一級建築士と社会福祉士を持っておりますが、名刺にそういう表示があることが信頼を得る意味でまずは重要です。様々な営業現場において、私が行くことによって信用いただけるのを実感します。福祉分野は、建築設計をする上で非常に重要な分野だと思います。利用者・入居者の安全・安心・快適ばかりか、介護する側の介護のしやすい視点というのも必要となるからです。政策やサービスの動向を見極める際に福祉分野の知識が必要というのは、前にお話ししました。福祉と建築の両方の分野の勉強は学生時代の学習に幅と奥行きをもたらします。両分野を最初から勉強している、というのが最大の強みではないでしょうか。」

田中先生の感想
  • 15000人いる積水ハウスの中でも一級建築士と社会福祉士の二つを合わせ持っている社員はいないので家田さんは非常に貴重な存在である。
    そのため社会福祉士を取得した家田さんを本社の関連部署へ引っ張って行き、医療・介護推進事業部に配属している。
    彼のような2つの専門知識を持つスペシャリストを輩出することを本学は目指している。
  • これからの建築分野は、施主から受注し建築して終わるような単純な案件は減っていくであろう。施主に対し、提案し建築後の運営まで考えたビジネスモデル提案が求められる。
  • デイサービスやグループホームなど既存の福祉行政の枠に納まらない新たな介護ビジネスが成熟した高齢社会には求められる。この介護ビジネスモデルを考えるためには、建築分野の知識だけでは不十分であり、また社会福祉士の知識だけでも不十分であろう。
  • ぜひ皆さんも介護ビジネスを研究し、これからの社会で求められるビジネスを考えて欲しい。
企業プロフィール 積水ハウスロゴマーク
積水ハウス株式会社
〒531-0076 大阪市北区
大淀中一丁目1番88号
梅田スカイビル タワーイースト
http://www.sekisuihouse.co.jp/
昭和35年8月1日創立
代表取締役会長兼CEO 和田 勇
従業員数 15,374名(平成22年4月1日現在)
業務内容
建築工事の請負及び施工
建築物の設計及び工事監理
造園工事及び外構工事の設計、請負、施工及び監理並びに樹木の育成及び売買
土木工事、大工工事、左官工事、とび・土工・コンクリート工事、石工事、屋根工事、電気工事、管工事、タイル・れんが・ブロック工事、鋼構造物工事、鉄筋工事、ほ装工事、板金工事、ガラス工事、塗装工事、防水工事、内装仕上工事、機械器具設置工事、熱絶縁工事、電気通信工事、建具工事、水道施設工事及び消防施設工事の請負及び施工
不動産の売買、交換及び貸借並びにこれらの仲介及び代理
不動産の管理及び鑑定並びに不動産コンサルティング 他