株式会社新環境設計の萩原専務。
業界研究第1回目は、株式会社新環境設計の荻原専務。この日も四国から帰社したばかりで、全国を飛び回る多忙な毎日だ。
田中
まずは御社のプロフィールについて、お教えください。
荻原
株式会社新環境設計は、昭和44年の創業当初から、医療・福祉施設の建築設計に特化した設計事務所です。設立時はまだ福祉という言葉が定着していない時代です。最初は障がい者施設を中心に実績を積んできました。ここ20年くらい高齢化の進展やゴールドプランなどで高齢者向け施設の需要が増えたので、高齢者のための施設の設計が中心になってきています。福祉施設は高齢、知的障がい・身体障がい、母子、保育所と種別が多くありますが、すべての施設の設計を手がけています。得意分野に特化した設計事務所は多いと思いますが、当社のように徹底しているところは、珍しいかもしれません。昨年実績でも1件を除き、すべて医療・福祉施設関係です。
田中
バリアフリーの観点は当然求められるわけですね。
荻原
そうです。幅広い人々が利用する中でバリアフリーにも心配りする、ということではなく、高齢者施設なら利用者は高齢者が中心ですから、そうした方の使い方を前提に設計していくことになります。
田中
施設の設計の際、建築部品はメーカーの汎用品でまかなうことができますか?最近は標準部品も増えてきていますが…
荻原
以前はそのような部品はなかったので、手すり一つから独自に研究し、数多くのディテールを持っていました。最近は各メーカーのもので機能性のよいものが出てきていますし、時には商品開発にあたってノウハウも提供します。
田中
われわれ学生の頃は高齢者向けの手すり一つにしても太さや取り付け強度、手触りなど自分たちで一から考えねばならず、大変でしたね。ところで最近の医療・福祉の建築需要はどうですか?御社のようなノウハウの評価が受注に結び付きますか?
荻原
バブル時代が終焉する頃までは、医療・福祉施設の設計を積極的にやろうという人はあまりいませんでしたが、2000年を過ぎると多くの設計者が福祉分野に集まってきています。今は必ずしも専門ということでなくても多くの人がバリアフリーを手掛けていますよ。
田中
それは一面、怖いことですね。
荻原
われわれは20年前に作ったものの結果を知っていますからね。建築は経験の学問といわれています。実績やノウハウが評価される業界です。
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萩原専務と田中先生は大学時代のゼミの同窓生。
荻原専務と田中先生は実は大学時代のゼミの同窓生。終始和気あいあいとした雰囲気でお話をうかがうことができた。
田中
高齢人口の増加で今後も受注増の見通しですか?
荻原
そうですね。高齢者人口のピークが2025年に来るといわれていますが、特に都市部での施設不足は明らかです。その意味では需要の増大傾向は継続すると思います。また地方では、既設施設の改修や増築、建て替え需要などが進むことになると思います。
田中
小学校を改装してデイサービス施設に変えるという話を最近よく聞きます。
荻原
廃校になった小学校跡地を利用し、施設を作るというパターンが増えています。近年、公有地を利用した施設計画は、行政が運営法人を公募し、事業計画書の提出を求め、審査会で運営法人を決定する方式が増えました。そうした場面で、当社が応募の法人の計画書づくりに協力・支援し、施設建設を進めるという事業に力を入れています。土地のない都市部にバランス良く施設を配置することにもなり、行政の福祉計画とも一致します。
田中
そもそもの話ですが、ある法人が施設を建築する場合、御社のような設計事務所に発注するのか、建設会社に発注するのかどちらでしょうか?
荻原
パートナーとして、設計事務所に協力を求め、発注するのが普通です。法人のどなたかが、建設会社の関係者と親しくされていて相談されることはあるかと思いますが、社会福祉法人の行う事業の資金の多くが、公的な補助金や借入金に依存していますから、工事の設計・施工分離の原則もあり、企画・設計を施工会社には発注できません。
田中
社会福祉法人は具体的にどのように設計事務所をパートナーとして選ぶのでしょうか。
荻原
社会福祉法人は最初に何軒かの設計事務所に声をかけるようです。当社に声がかかれば、実績である既設の施設を見て頂きます。必ずしもコンペで決めるということではありません。社会福祉法人間では横のつながり、人のつながりもあって、過去の評価や評判で指名されるというのが多いですね。当社は社会福祉事業の立ち上げ方を熟知しています。初めて社会福祉事業をやろう、という人がどこから何をどのように進めれば事業が成立するのか、アドバイスを行いながら企画を進めることが出来るのです。
田中
設計の実績やノウハウが正当に評価されるということですね。以前、この事務所で話を伺った際、どの機械をどこに設置すれば、診療点数がどのようになるのか、というクリニックの話を聞いたことがあります。これは勤務医が開業医として独立する場合のノウハウですよね。社会福祉施設についてもコンサルティングを行っていますね。
荻原
当社のもう一つの強みです。開設から5年間位の介護報酬の収支試算プログラムを持っていまして、開設時にいくらまで借り入れが可能かとか、運転資金はいくら必要かとか、社会福祉事業そのもののコンサルティングもしています。
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数百床クラスの特養の図面。
数百床クラスの特養の図面。こうした設計図は永年保管される。
田中
医療・福祉に特化した設計事務所で競合他社というのはありますか?
荻原
医療に強いか福祉に強いか、コンサルティングが強い弱いといった特徴はそれぞれありますが、全国的に見て数社はあります。
田中
コンサルティングは具体的にどのように進めますか?
荻原
設計は基本設計→実施設計→工事監理の流れで進めますが、基本設計前の基本計画の段階、法人の事業内容を定める段階でコンサルティングをします。福祉施設の例であれば、何床にするべきだとか、デイサービスや診療所を併設すべきかなど事業そのものの企画を協議するのです。土地があるので何とかならないかという段階から話を進めることもあります。法人の希望や地域のニーズを勘案し、建築的に可能な形を作り上げていきます。
田中
無駄な施設が出来なくてすみますね。本学は福祉人材の輩出に特化した大学で、施設も社協も本学卒業生という時代もありましたが、役所の窓口の方とも知り合いになるわけですね。
荻原
人を知っているというよりも、やり方を知っているという方が正解かもしれません。実際のところ、政治力はゼロです。(笑)
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インタビューする田中先生。
時おり設計の専門的な話を挟みながら、インタビューする田中先生。とても楽しそうだ。
田中
こういう福祉の強みのある設計事務所の採用方針はどういったものでしょうか?応募者のどこに着目していますか?
荻原
採用は工学部建築学科が中心です。最初からこういう人でないとだめだという枠は設けていませんが、福祉に興味のある人材は必要ですね。コンサルティングには福祉制度に明るい人が関わっていますが、この方は工学部出身ではなく、社会福祉学部出身です。
田中
社員の方を福祉行政にかかわる手続きに習熟させるのは、どのような社内教育をされるわけですか?工学部の出身者は必ずしも人とのやり取りが好きというわけではないでしょうが…
荻原
図面を描くために設計事務所を選んだわけですから、それはその通りです。一時期は設計を行う者がコンサルティングまで行っていましたが、今はコンサルティングと基本設計、つまり計画部門と設計部門を分けています。部門間の入れ替えもしますが、適性の問題はありますね。コンサルティングは営業窓口でもありますから…
田中
一級建築士資格試験の受験要件として実務経験が2年必要なので、資格を取ろうとする卒業生はまず設計会社に就職します。ただ本学で社会福祉士を取る学生は福祉施設で実習をし、学内外でボランティア活動を通して高齢者や障がい者と触れ合う機会も多くあるので、運営者・利用者双方の気持ちやニーズも把握できると思います。
田中
日本福祉大学健康科学部のバリアフリーデザイン専攻は、社会福祉士と一級建築士の受験資格が同時に取得可能な日本で唯一の教育課程です。この養成人材についてどのように評価されますか?
荻原
設計の仕事も使う人が何を考え、どう感じるかを把握しないといけないので、そういう人材は設計者としてもよい人材だと思います。病院も福祉施設も生活施設なので、入所者の生活のパターンを知っていないと設計はできません。例えば百床の特養がどのような生活単位、介護単位、管理単位で運営されているかという具体的なイメージが描けないと設計はできないのです。もちろん実際の施設などで経験しているというのが一番いいと思います。設計に携わった人間が一度退職し、介護施設に就職して、また戻ってきたという人もいますが、そういう人の視点は全然違いますね。
田中
その他にバリアフリーデザイン専攻の今後活躍が見込める領域についても、お知らせください。
荻原
全国規模で展開している有料老人ホームの事業者は、次から次へと施設を作っていくような企画部隊を持っているわけですが、そうした企画にはソフト面とハード面双方を理解している人が必要です。
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株式会社新環境設計の設計フロア。
株式会社新環境設計の設計フロア。日本の医療・福祉施設が毎日ここから産み出される。まさにバリアフリーの最先端現場だ。
田中
最後になりましたが、荻原さんのプロフィールと仕事内容について教えてください。
荻原
工学部建築学科出身ですから、就職して最初の10年はまさに夢中で設計をしていました。比較的早い時期に開発とか企画部門にたずさわることになりました。そこでは基本計画とコンサルティングが主要な職務で、事業を立ち上げ、仕事を受注する役割になります。
田中
建築の知識はあったとしても、福祉事業のノウハウを得るのは大変だったでしょうね。
荻原
最初は何も知らないところから始めましたから。介護報酬の収支シミュレーションブログラムも実際に施設運営をされている法人からノウハウをもらい、手を加え、自分たちで作ってきました。社内に企画チームをつくり、都道府県の福祉行政窓口との交渉、補助金の申請、公的な借入機関との手続きや協議をやっていましたが、そのチームは工学部出身者だけではありません。私も工学部としては変わり種かもしれませんが…(笑)
田中
施主様の評価はどういったものがありますか?
荻原
当社がお手伝いして立ち上げた事業でダメになったというのはおかげさまで一つもありませんし、皆様やってよかったと言ってくれますね。専門性の高い分野でソフトとハード両面で法人をサポートできるところが、評価されていると思います。
田中
まさに荻原さんにとって、やりがいの部分ですね。
荻原
私はデザインも大好きですが、医療・福祉施設の設計はデザインよりも、生活者の視点に立った機能性に重点が置かれます。これこそ本来の設計のあり方ではないか、と思います。

田中先生の感想
  • 荻原氏からは自分の建築作品への愛着と、施主とそこに住む高齢者の方々の幸せを創った自信と誇りが感じられた。
  • 建築に携わる者は施主と数十年にわたる付き合いで住環境を考えて行く真摯な姿勢が求められるが、今回の荻原氏は正しく設計者として理想的な姿で仕事に取り組んでいる。
  • バリアフリー業界でプロの仕事をすれば、仕事は後からついてくる。この不況下でも同事務所の右肩上がりの業績がこれを示している。
  • 医療・福祉施設ではハード(建築)だけでなくソフト(運営)面でのサポートが重要である。これができる設計事務所が評価され、伸びて行く。
  • 医療・福祉施設設計では、福祉の知識や経験があることで、施主の気持ちを汲むことができ、より質の高いソフトの企画提案とハード設計が可能となることが分かった。
本学バリアフリーデザイン専攻では、ソフトは学内のボランティア活動や社会福祉士の勉強で、ハードは建築系科目で修得が可能となる。
企業プロフィール 株式会社 新環境設計 
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一級建築士事務所 東京都知事登録第9490号
1969年2月1日創業
代表取締役 平松良洋
業務内容
建築、設備工事の設計監理業務
福祉施設・医療施設の企画立案、建築計画、採算計画
建築物および建築設備の定期検査報告
官公庁補助金申請業務
社会福祉医療事業団借り入れ申請業務