子どもたちと一緒に過ごせる時間は、
人生のほんの数年
だからこそ、一人ひとりと
丁寧に関わりたい

今も色褪せない大学での学び

 思い返すと、大学の授業で一番面白いと感じたのは「発達心理学」。人が成長とともにどんな力を獲得していくかを学ぶもので、今の仕事に活かされています。学生時代は身近に感じなかった「児童の権利」や「労働法」は、児童養護施設の施設長を務める上で、改めて大切だと実感しました。子どもたちの人権を守ること、そして職員が働きやすい職場を作ることは、これまで以上に求められているからです。
 保護者のいない子や、子育てに困難を抱える家庭を社会全体で支えていく「社会的養護」も、最近よく聞かれるようになった言葉のひとつ。私が学生時代に読んだ、日本福祉大学の先生が書かれた本にはすでに掲載されていて驚きました。同時に自分の認識不足に恥ずかしさを覚えました。高度経済成長の時代、貧困の問題が注目されていなかった頃から、大切なことを伝えていただいていたのですね。

生きづらさを抱えた子どもと向き合う

 「たかずやの里」には複雑な理由から家庭での養育が難しい、2歳~成人を迎える前までの子どもたちが暮らしています。できるだけ家族のもとで育つことが望ましいのですが、こうした家庭を支える仕組みはまだ十分ではありません。虐待を受けた子どもの親もまた、虐待された経験を持っていることが少なくありません。社会のルールを教わることなく育ってしまう子や、家族の人間関係の厳しさから心理的に不安定になり、精神科を受診する子どもも増えています。
 虐待などにより、昼夜を問わず緊急受け入れにも対応する児童養護施設は子どもたちを守る最後の砦でもあるのです。

子どもたち一人ひとりを尊重する

 大学のゼミや卒業論文でも児童養護施設についての研究に取り組み、学生時代から何度も愛知県内の施設を訪問しました。難しさはありますが、子どもとの関わりによって成長を感じられたり、幼い子どもの素直な感受性に触れられることは、何にも代えがたい魅力です。
 私が就職した頃のたかずやの里は大舎制といって、40名ほどの子どもが集団生活をする施設でした。3年ほど前、施設そのものを移転新築する機会があり、1グループ8名程度の少人数で暮らせる、家庭に近い環境を整えました。子どもたち一人ひとりのプライベートな空間を確保し、一人ひとりの意志を尊重することを重視しています。職員と一緒に調理をし、温かい料理を口にすることで、嫌いなものが食べられるようになる子もいるんですよ。

子どもを守り育てるプロとして

 自分自身を責めたり、辛いことがあっても我慢しがちな子どもたちにとって、「たかずやの里」は不安な気持ちや「嫌なことは嫌」と自由に表現できる、安全・安心な場でありたいと考えています。
 ちょっとしたことでカッとなってしまう子や、心を開いてくれない子もいます。その裏側には「甘えたい」という気持ちもあるのでしょう。子どもの気持ちは受け入れつつも、べったりと寄りかからせるばかりでもいけません。専門職として適切な距離感を持ちながら、根気よく子どもを見守ることが大切です。
 そんな子たちが大人になり、就職して元気に暮らしていると知ると嬉しいですね。指導上いろいろと苦労した、ある退所児童が社会の厳しさを知って「先生たちの指導は甘い!世の中はもっと厳しいんだ!」なんて言われたこともありました。

多様なコミュニケーションの方法を身につけて

 「子どもに関わる仕事がしたい」と思っても、いざ施設に来ると「上手く子どもと話せなかった」と悩む学生が多いですね。でも、子どもたちも初めて出会う学生にどう接していいのか分からず困っているのです。折り紙を折ってあげたり、サッカーが得意ならリフティングを見せるだけでもいい。子どもが「えっ!?」と興味を持つことから、距離が近づいて会話が生まれます。言葉だけに頼らない色々なコミュニケーションの方法を身につけて欲しいですね。
 私たちが子ども達に関われるのは、彼ら彼女らの人生のほんの数年です。でも、その間に「誰かと気持ちが通じ合えた」と感じる経験があれば、子どもたちにとって大きな力になるはずです。