学術フロンティア(私立大学学術研究高度化推進事業) 日本福祉大学プロジェクト
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介護保険制度の政策評価

アウトカム評価を含む多次元的評価

 「アウトカム」とは、政策介入によりもたらされる結果、効果や成果のことです。それは、政策の質を決める3要素の一角を占めます。


[図1 政策の多元的評価の枠組]

 政策の質を決める3要素としては、「投入」、「サービス利用」、「アウトカム」があります。(図1の網掛け部分)
 「投入」とは、行政サービスを生み出すために投入された費用・人的資源・施設などで、これらが大きいほど、一般に政策の質は高くなり、より多くの人に提供されます。しかし、投入される費用に見合う効果が上がらなければ、効率は低下します。
 「サービス利用」とは、投入された資源から生み出されたサービスがどのように利用されているのかの指標です。同じ費用を投入しても、それを予防に使うのか、訪問系・通所系のどこに配分するのかなど、いろいろあります。また、同じ費用をかけたサービスでも、その質に善し悪しがあり、それ単独で行う方法もあれば、他と組み合わせる方法もあります。これらのサービス利用プロセスにおける選択や組み合わせのあり方が、政策の質に影響することになります。
 「アウトカム」とは、投入された費用がサービスに変換され利用されることより、生み出される効果・成果のことです。介護保険で言えば、1年後在宅維持率や要介護度維持率・改善率の向上、介護負担感軽減率などで、評価することができます。また、介護保険政策のアウトカムには、介護サービスが提供される環境要因や対象者の特性に、投入される資源や利用されたサービスがマッチしていたかどうかも影響を与えます。
 従来の政策評価は、投入やプロセスに関するものが中心でした。しかし、いくら多くの資源を投入していても、そして多くのサービスを生み出していても、その成果が上がっていなければ、ほとんど意味がありません。つまり、アウトカム評価は、政策評価をする上で、極めて重要な位置を占めるものです。

多元的評価で用いた7次元

 総合的な政策評価を進めるためには、上述の3要素の評価だけは、不十分です。では、他にどのような側面あるいは次元の評価が必要なのでしょうか。さらに3つの評価基準が必要であることに、ほぼコンセンサスが得られています。
 医療サービス評価研究の分野では、3Eとよばれる3つの評価基準−「効果(effectiveness)」 、「効率(efficiency)」、「公正(equity)」−が使われています(図1の太線の囲み)。それぞれ“科学的合理性”、“経済(あるいは経営)的合理性”、“社会的合理性”に基づく評価基準です。
 “科学的合理性(効果)”とは、介護サービスによる効果など、科学的な基準で見た合理性です。
 “経済(経営)的合理性”とは、収入と支出をバランスさせられるか否かの視点です。保険者で言えば、国民に負担してもらう保険料(収入)と保険給付(支出)とを、釣り合わせる必要があります。国で言えば、使う介護費用は、何らかの形で国民が負担できるものでなければなりません。
 “社会的合理性”とは、(国民や患者など)社会的な基準からみて、受け入れられる合理性を持っているかどうかです。例えば、介護サービス利用時の自己負担額の水準が、どの程度が望ましいかは、科学的研究で決まるものではありません。
 これらの3つの基準・合理性は、同時に満たすことができません。良質で、いつでもどこでも誰でもがかかりやすい介護サービスは、安く提供することはできません。介護費用を安くすれば、介護の質を落とすか、一部の人だけに提供することになります。また、自己負担額を引き上げる場合で言えば、無駄な利用を減らして、介護費用の使い方を効率的にするためと説明されます。しかし、自己負担が増えれば、低所得者ほど介護サービスを利用しにくくなります。その結果、引き上げ幅が大きくなれば、効率のために、介護サービス利用における公正さを犠牲にすることになります。

政策評価の7次元のどこから評価すべきか

 上述した評価基準に、対象者やその環境がもつ特性も加えて、7つの次元を示したのが図1です。日本福祉大学地域ケア研究推進センターでは介護費用適正化事業おいて、この政策評価の枠組みを用いて、介護保険制度の総合的な評価を試みました。
 では、7つの次元のうち、どこから評価を加えていくべきでしょうか。はじめに着目すべきは、アウトカムです。効果が乏しければ、効率や公正について検討しても虚しいからです。その場合には、「環境要因」・「対象者の特性」、「投入」、「サービス利用」の間に、ミスマッチがあると考えられます。どの次元(および次元間)に問題があるのかを分析し、それを改善する必要があります。
 一方、アウトカムが良好な場合、それぞれの次元は、うまくかみ合っていると、とりあえず見なして良いといえます。その場合、良好なアウトカムが、効率的かつ公正に配分されているかどうかを評価し、効率や公正をより向上させる方法を検討することになります。その方法は、投入する資源やサービス利用状況を、環境や対象者の特性によりマッチしたものに変えていくことにより行うことになります。

 


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