学術フロンティア(私立大学学術研究高度化推進事業) 日本福祉大学プロジェクト
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介護保険制度の政策評価

介護保険政策評価への主な所見

 介護保険政策のアウトカム評価により得られた主な知見を紹介します。ただし、政策には、多く要因が絡み合っているため、現在も交絡因子の影響を考慮した分析を進めており、介護費用適正化事業における政策評価の中間報告にあたるものです。

● 要介護度維持改善率・在宅維持率には、20〜30%ポイントの保険者間格差が見られる


 「要介護認定データ」と「給付実績(レセプト)データ」から作成した2つのアウトカム指標(「要介護度維持改善率」と「在宅維持率」)を保険者間で比較したところ20〜30%ポイントもの格差があることが判明しました(図)。
 横軸は,「一年間の要介護度維持改善率」で、在宅要介護者のうち要介護度を維持改善していた者の割合を示しています。対象者は、一年の間に要介護度が悪化、維持、改善した者の3群に分けられます。このうち維持群と改善群を足し合わせ両者が対象者全体の中で占める割合を保険者毎に算出したものです。もっとも維持改善率が高かった保険者で85%、最も低かった保険者で65%であり、両者の間には20%ポイントもの格差が見られました.
 縦軸は、「在宅維持率」です。在宅介護サービスを使っていた者のうち1年後も在宅介護サービスを利用していた者の割合で、もっとも在宅維持率が高かった保険者で90%、最も低かった保険者で60%であり、両者間の格差は30%ポイントにも及びます。
 現在想定している要因は大きく4つあります。年齢・要介護度など「対象者の要因」、「ケアプラン要因」、「ケアの質の要因」、「その他の要因」です。
 第一の「対象者の要因」とは、要介護者の年齢構成や要介護度構成の保険者間格差で説明可能な部分です。年齢が高いほど、要介護度が悪化する率が高いことがすでに判明しています。そのため、年齢構成・要介護度で調整する必要がありますが、この調整を試みたところ、保険者間格差は消失せず、むしろ拡大し、要介護度維持改善率と在宅維持率の間の関連が浮かび上がってきました。要介護度維持改善率が10%上がると在宅維持率も10%上昇する相関関係です。
 第二の「ケアプラン要因」とは、保険者間で給付されている介護サービスのケアプランに格差があり、それがアウトカム格差をもたらしている可能性です。これが格差要因の多くを占めている場合には、アウトカムの良好な保険者で多く見られるケアプランがbest practice(望ましい実践)となります。これを他の保険者にも普及できれば、アウトカムの改善が期待できます。給付上限額比率など量的な側面、ケアプランの組み合わせパターン、障害像に対応したケアプランなど、多様な要素が考えられます。
 第三の要因は、提供されている「ケアの質の要因」です。同じケアプランでもアウトカムに差が見られるとすれば、各事業所で提供されるプログラムレベルにおける質の差が、アウトカムに差をもたらしている可能性はかなりあると思われます。
 以上の要因以外にも、同居家族の要因や閉じこもり状態をもたらしやすい人的・物質的環境要因、天候や医療サービスなど地域間格差の要因は多数あると考えられます。

● 要介護高齢者における「不適切な介護」(虐待・介護放棄)の割合は5%、否定できないを含めると2割


 在宅の要介護者を対象に行った介護状況調査において、担当ケアマネジャーが「不適切な介護」を評価しました。「不適切な介護」とは、広義の虐待をとらえようとしたもので、狭義の身体的・精神的・経済的虐待と介護放棄からなります。介護放棄とは、おむつが濡れているのに交換しないことなどである。これら介護の質を3段階−「問題なし」「否定できない」「問題あり」−で評価を依頼しました。
 6736人分の集計結果を図に示します。いずれか一つでも「問題あり」とされた「不適切な介護」が見られた者は5.1%、「否定できない」13.8%を合わせると、ハイリスク者は18.9%にも上っていました。内訳では、狭義の虐待よりも、介護放棄の方が多くみつかりました。また、「不適切な介護」をしている介護者とそうでない介護者の背景を比べると、前者において学歴と所得が低く、うつ状態、介護負担感が高い者が多く見られた。「不適切な介護」をしている介護者には、支援を必要としている者が多いことが示唆されました。

● 介護者の心理的負担は消失していない


 介護保険の導入で「介護の社会化」が進んだ結果、介護負担感は消失あるいは軽減したのでしょうか。そのことを検証するため主観的なアウトカム指標として、介護者の主観的幸福感、うつ、介護負担感を評価しました。
 介護者に主観的幸福感やうつ状態、介護負担感などを尋ねる介護者調査と一般高齢者調査(要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者が対象)を実施し、主観的幸福感はPGCモラルスケールで、うつはGDSうつ尺度を用いて評価しました。
 PGCとうつ(GDS)について、男女別に、一般高齢者と介護者とを比較したところ、男女とも、PGCでもGDSでも、介護者において一般高齢者よりも悪い状態であることが示されました。例えば、7保険者のデータを用いた中間集計の男性では、一般高齢者のうつ状態に相当するGDS得点10点以上の者は7.1%であるのに対し,介護者では17.2%と2倍以上見られました。
 介護保険導入後でも、家族介護者のうつ状態や低い主観的幸福感などに示される精神的負担は、一般高齢者に比べ高い水準にとどまっていました。今回と同じ主観的尺度を用いて、介護保険導入前後で比べたわれわれの調査でも、介護サービス利用による軽減効果は確認できていない結果でした。

 


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