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成年後見制度における意思決定支援の本質と実践 ~誰もが「自分らしく生きる」ための支援とは~
2026.06.18
高齢化の進展や障害福祉の充実に伴い、成年後見制度は判断能力が十分ではない人々の権利を守る重要な仕組みとして活用されてきた。しかし近年、この制度のあり方は大きな転換期を迎えている。従来は本人の財産を守ることに重点が置かれ、支援者や後見人が本人に代わって判断する場面が少なくなかった。しかし現在では、本人の意思や希望を尊重し、その人らしい生活を実現することを重視する「意思決定支援」が制度運用の中心的な考え方となっている。
この変化の背景には、「本人中心主義」という理念がある。認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力に制約があったとしても、その人が人生の主体であることに変わりはない。誰もが自分の人生について考え、選択し、決定する権利を持っている。意思決定支援は、その権利を保障するための取り組みであり、「私の人生の主人公は私である」という考え方を実践するものである。国連障害者権利条約においても、本人抜きに本人のことを決めてはならないという理念が示されており、本人の参加と意思の尊重が国際的にも重視されている。
- もくじ
意思決定支援について
意思決定支援とは、単に本人の意見を聞くことではない。本人が自らの意思に基づいて選択できるよう支援し、その意思を実現できるようにする一連の取り組みである。ここで重要なのは、意思決定能力を固定的な能力として捉えないことである。判断能力は体調や環境、人間関係、情報提供の方法などによって大きく変化する。つまり、「決められない人」がいるのではなく、「決めやすい環境が整っていない」場合も少なくない。そのため支援者には、本人が力を発揮できる環境を整え、理解しやすい形で情報を提供し、意思形成を支える役割が求められる。
意思決定支援の4つの基本原則
意思決定支援を実践するにあたっては、以下の4つの原則を念頭に置かなければならない。
すべての個人に意思があるという前提
意思が「確認できない」ことと「意思がない」ことは同義ではありません。いかに重度の障害があっても、本人には何らかの選好や感情が存在するという前提から出発します。
本人視点の徹底
支援者側の価値観や「これが本人にとって正しい、安全だ」という一般論を押し付けず、本人のこれまでの生き方や信条に即した「本人視点」に立って検討します。
実質的参加の保障
契約締結や重要な会議などにおいて、本人を単に同席させるだけでなく、本人のペースに合わせた進行を行い、実質的に選択に関与できるよう配慮します。
尊厳の確保と社会的権利の保障
本人の意思が尊重されることで、その人が地域社会の一員として尊厳を持って笑顔で暮らせる社会の実現を目指します。
意思決定支援の具体的な4つのプロセスと実践ポイント
実践においては、「環境整備」「意思形成」「意思表明」「意思実現」という4つのプロセスが重要とされている。まず環境整備では、本人が安心して話せる信頼関係を築くことが出発点となる。本人がリラックスできる場所や時間を選び、否定せずに話を聴く姿勢を持つことで、本人は自分の思いを表現しやすくなる。支援者の態度や言葉遣い、表情なども大きな影響を与えるため、丁寧な関わりが求められる。
次に意思形成支援では、本人が選択できるよう十分な情報や選択肢を提供することが重要である。人は知らないものを選ぶことはできない。そのため、難しい説明だけではなく、写真や絵、実物などを用いて分かりやすく伝える工夫が必要である。また、漠然と尋ねるのではなく、本人が選びやすい形で選択肢を提示することも有効である。意思形成支援とは、本人に代わって決めることではなく、本人が自ら選べる状態をつくることにある。
さらに意思表明支援では、本人の言葉をそのまま受け取るだけではなく、その背景にある思いや感情を理解しようとする姿勢が求められる。人は周囲への遠慮や不安から、本心とは異なる発言をすることもある。また、沈黙そのものが重要なメッセージである場合もある。支援者は表面的な言葉だけにとらわれず、本人が本当に望んでいることは何かを丁寧に探る必要がある。本人の意思は状況によって変化することもあるため、一度確認したら終わりではなく、継続的に確認し続けることが大切である。
意思実現支援では、本人が選択した内容を実際の生活の中で実現できるよう支援する。支援者は安全確保を重視するあまり、本人の挑戦や希望を制限してしまうことがある。しかし、失敗の可能性があるからといって最初から選択肢を奪うことは、本人の成長や生きがいを損なうことにつながる。重要なのはリスクをゼロにすることではなく、適切に管理しながら本人の挑戦を支えることである。本人が自ら選び、その結果を経験すること自体が人生の大切な学びとなる。
組織的・多職種連携による支援チームの編成と記録の重要性
意思決定支援は一人の支援者だけで行うものではない。後見人、家族、介護・福祉職、医療関係者、行政機関などが連携し、多角的な視点から支援することが重要である。一人の価値観だけで判断すると、無意識のうちに本人の意思を誘導してしまう危険がある。そのため、支援チームを形成し、それぞれの立場から情報を共有しながら検討を重ねることが望ましい。チームで話し合う過程そのものが、より本人らしい意思決定につながるのである。
また、意思決定支援では記録の蓄積も欠かせない。本人の表情や行動、発言などの事実と、それに対する支援者の解釈や評価を区別して記録することで、本人の価値観や選好を理解する手がかりとなる。こうした記録は、将来的に本人の意思確認が難しくなった場合にも重要な資料となり、本人らしい選択を支える根拠となる。
意思推定と代行決定のあり方
それでも本人の意思を直接確認することが難しい場合には、「意思推定」が行われる。これは本人の生活歴や価値観、人間関係、過去の選択などを総合的に考慮し、その人ならどのような選択をするかを推し量る方法である。そして、意思推定も困難であり、なおかつ生命や身体に重大な危険が及ぶ場合に限り、最後の手段として代行決定が検討される。ただし、その際も支援者自身の価値観ではなく、本人の価値観を最大限尊重することが求められる。代行決定はあくまで例外的な対応であり、本人の自己決定権を奪うものではない。次の場面では再び本人の意思決定を支援するという姿勢が必要である。
正解のない問いに向き合い続ける姿勢
意思決定支援には万能のマニュアルや唯一の正解は存在しない。一人ひとりの人生や価値観、置かれている状況が異なるため、その人にとって最適な支援もまた異なる。だからこそ支援者には、正解のない問いに向き合い続ける姿勢が求められる。本人の言葉や行動の背景にある思いを理解しようと努め、何度でも対話を重ねながら支援を続けることが重要である。
成年後見制度における意思決定支援の本質は、本人の能力の不足を補うことではなく、その人が人生の主人公として生き続けられるよう支えることにある。地域社会の中で多様な人々が連携し、一人ひとりの意思と尊厳を尊重することで、誰もが自分らしく暮らし続けられる社会の実現につながるのである。
※7月に以下のケアブリッジに「成年後見制度の理解」について、本学の綿祐二教授による動画を公開予定です。
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