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介護施設における効果的な介護予防の進め方

2025.11.27

はじめに:介護予防の重要性と背景

 厚生労働省は、介護予防とは「要介護状態の発生をできる限り防ぐ(遅らせる)こと、そして要介護状態にあってもその悪化をできる限り防ぐこと、さらには軽減を目指すこと」と定義しています。特に介護施設では、利用者が可能な限り自立した生活を送るための支援が求められます。介護予防の効果は、利用者本人の生活の質(QOL)の向上だけでなく、施設全体の業務効率化や介護負担の軽減にも直結します。
 厚生労働省の指針や「介護予防マニュアル」が整備され、どのような取り組みが効果的であるのかが見えてきた昨今においては、エビデンスに基づくプログラム(エビデンス・ベースド・ケア)を現場で実施することは重要であるといえます。

エビデンスに基づいたプログラムを実施する

 たとえば、国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」は、運動と認知課題を組み合わせることで、転倒予防と同時に認知機能の維持・改善にも効果があるとされています。高齢者の要介護の主な原因が「認知症」であり、要支援の主な原因は「関節疾患」や「転倒・骨折」です。その背景には筋力の低下や関節の拘縮、歩行能力の低下といった運動器の機能低下があります。また、認知機能の低下は注意力や空間を把握する力の低下も引き起こし、ますます転倒のリスクが高まります。
 介護施設では日常生活の中に運動習慣を取り入れることで、こうしたリスクの軽減が図れます。継続した運動習慣のためには効果を実感できることとあわせて、“楽しい”ということも重要になります。楽しいから続けたいと思ってもらえるように歌に合わせて実施したり、目的を持って実施し、それが達成できたと感じてもらえるように支援することが求められます。

認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」:https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/kenshu/27-4.html

運動器の機能向上と転倒予防の実践

 運動器とは、人が身体を動かすために働いている組織で、筋肉、関節、骨などを指します。運動器の各組織は連動した動きによって働いており、どれかひとつの組織が欠けても、身体は上手く動くことができなくなり、歩行や日常生活活動に支障をきたすようになります。加齢にともなう下肢や体幹の筋力低下や膝や腰の痛みなどによって身体活動が減少すると、バランス機能や歩行能力が低下することは、転倒・骨折のリスクになります。
 運動器の機能向上のためには、「ロコモティブシンドローム(通称:ロコモ)」に効果があるといわれるプログラムを実施するのも1つの方法です。机や椅子で身体を支えながら片足立ちを行ったり、机で身体を支えながら椅子から立ったり座ったりする(スクワット)などの筋力トレーニングで、バランス能力の向上に必要な運動を実施するとよいでしょう。

ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト:https://locomo-joa.jp/

口腔機能向上:オーラルフレイル対策と日常ケア

 オーラルフレイルとは、歯の本数の減少、噛む力や舌の機能の低下、嚥下機能の衰えなど、口腔に関するさまざまな機能低下の総称です。これが進行すると、食事がしにくくなり栄養摂取が不十分になるだけでなく、会話の減少や社会的孤立を招き、フレイルや要介護状態へと進展するリスクがあります。施設での取り組みとしては、朝食前や夕食後の口腔体操の導入が効果的です。また、咀嚼力の測定や、口腔内の乾燥状態のチェックなど、定期的な口腔評価も重要です。加えて、歯科衛生士との連携による定期的な口腔ケア指導や、利用者一人ひとりの状況に応じたケアプランの作成も推進されています。日常の食事や会話の場面においても、職員が利用者の口腔状態に気づく「観察力」を高めることが、予防の第一歩となります。

オーラルフレイル(日本歯科医師会):https://www.jda.or.jp/oral_frail/

栄養改善:フレイル予防と低栄養への対応

 高齢者のフレイル予防において、栄養状態の維持・改善は極めて重要なポイントです。栄養不足や偏食により、筋肉量が減少し、転倒や寝たきりにつながる恐れがあります。施設では、管理栄養士や看護師、介護職が連携し、食事の摂取状況のモニタリング、体重の変化、BMIや血清アルブミン値などを定期的にチェックする体制を構築することが求められます。また、食欲のない利用者に対しては、見た目や香りに配慮した食事の工夫や、間食を取り入れた柔軟な食支援も効果的です。さらに、栄養補助食品や高カロリーゼリーなどの活用、咀嚼や嚥下機能に応じた食形態の調整も、個別対応の一環として活用されます。食事は単なる栄養摂取の場ではなく、他者との交流の時間でもあります。その視点を持つことで、食支援は心理的・社会的な健康の維持にも寄与するのです。

厚生労働省(健康日本21アクション支援システム):https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-02-014

認知機能の低下予防:生活の中でできる認知刺激

 認知機能の低下を防ぐためには、身体的な活動とともに「認知的な刺激」が欠かせません。介護施設では、日々の生活の中に認知課題を自然に取り入れることが有効です。代表的な方法の1つとして「回想法」があります。これは、過去の思い出や経験を語ることで脳を活性化させ、社会的交流も促進する心理療法の一種です。また、新聞の音読、カレンダーを使った日付確認、買い物ごっこや料理の手順を一緒に考えるなど、身近な活動が刺激になります。近年では、タブレットやロボットを用いた脳トレアプリも普及し、ICTを活用した認知症予防プログラムが注目されています。職員は、単に活動を提供するだけでなく、「なぜこの活動が認知機能に良いのか」を理解し、利用者に合った刺激の与え方を工夫することが求められます。

ICT・IoT活用による介護予防の推進

 介護予防におけるICT・IoTの活用は、効率化だけでなく、利用者の自立支援や生活の質向上にも寄与します。例えば、ウェアラブル端末による歩数や心拍数の管理、睡眠モニターによる生活リズムの把握、トイレやベッドの離床センサーなどが実用化されています。これらの機器から得られるデータをもとに、個別の運動プログラムや生活支援計画の見直しを行うことが可能になります。また、テレビ電話やチャット機能を活用した家族との交流、バーチャル旅行や音楽療法といった新しいレクリエーションの形も生まれています。ICTは「人に代わるもの」ではなく、「人を補完するもの」として捉え、職員が活用方法を学び、適切に運用することが鍵となります。

現場での実践と定着化に向けて:成功事例と職員育成

 効果的な介護予防の取り組みを現場に定着させるためには、職員の理解と協力が不可欠です。成功している施設の多くは、まず小さな成功体験を共有しながら、徐々に職員全体に取り組みを広げています。たとえば「朝の体操に5人参加した」「〇〇さんの食事量が増えた」など、具体的な変化を見える化することで、職員のモチベーションが高まります。また、定期的な研修会や事例共有の場を設けることで、介護予防に関する知識と技術の向上が図られます。多職種が連携し、それぞれの専門性を活かしながら、「利用者の生活をよくする」という共通の目的意識を持つことが、定着の鍵です。

おわりに:介護施設全体で取り組む介護予防の未来

 介護予防は、単に身体機能を維持することにとどまらず、高齢者が自分らしい生活を継続できるよう支援する包括的な取り組みです。そのためには、施設全体で予防の視点を持ち、職員一人ひとりが「支援者」としての役割を自覚することが重要です。今後は、地域との連携や外部専門職との協働、ICTの活用など、多様なアプローチを取り入れながら、より持続可能な介護予防体制を構築していく必要があります。介護施設が介護予防の拠点としての役割を果たすことで、地域全体の健康寿命延伸にも寄与していくことが期待されます。

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