社会福祉学部
2025.05.13
日本人の叔父からの影響やボーイスカウトをしていた経験により、スペインから長野の日本語学校に入学したサンチェスさん。長野で出会った本学経済学部卒業生の元島生さんとの交流が転機となり、社会福祉学部に入学しました。関心を持つフェミニズム問題や将来の夢などについて、お話しいただきました。
原田学長 サンチェスさんは、どんなきっかけを通して『ふくし』に興味を持つようになりましたか。
サンチェスさん スペインでは昔から児童虐待問題があり、現代でもその課題が残っています。ボーイスカウトをしていた時に虐待で悩む児童と出会う機会があったのですが、うまく手を差し伸べることができず、自分の無力さを感じました。その経験から、人によって考え方の幅や奥行きが全く異なり、「自分の知識や経験が少なければ、目の前で困っている方の力になることはできない」と考えるようになりました。また、友人やボーイスカウト仲間の中にはフェミニストもいたため、自然と『フェミニズム』に興味を持つようになりました。
親族からの勧めや両親の協力もあり、私自身のルーツでもある日本の社会やふくしはどのような状態にあるのか、自分の目で見てみたいと思い、まずは長野の日本語学校に入学しました。
原田学長 日本にルーツがあったんですね。日本語学校ではどんな出会いや学びがありましたか。
サンチェスさん 長野に来た当初、『犀の角』という複合文化施設にホームステイしていました。この建物内には、NPO法人『場づくりネット』の元島さんが運営する『やどかりハウス』があり、困りごとを抱えた方がよく利用していました。ここで元島さんと出会ったのですが、制度に縛られず「社会の中で困難を抱えている人」を救う人柄や姿勢に惹かれ、彼の学んだ日本福祉大学で学びたいと思うようになりました。
原田学長 卒業生との出会いから、本学への入学を決めたんですね。中でも社会福祉学部を選んだ理由があれば教えてください。
サンチェスさん 当初は子どもの支援に興味があり、教育・心理学部への入学を考えていました。それは、幼少期からのフェミニズム教育に興味があったためです。しかし、国際課の職員さんに相談する中で、「フェミニズム教育に留まらず、ソーシャルワークの知識も身に付け、また保育士資格も取得できる社会福祉学部の方がよいかもしれない」とアドバイスをいただきました。毎日、『ふくし』をさまざまな角度から学ぶことができ、とても充実した日々を送ることができています。
原田学長 フェミニズム教育やソーシャルワークに興味を持って社会福祉学部に入学されたんですね。大学で1年間学ぶ中で、今後の目標や将来なりたい人物像に変化などがあれば教えてください。
サンチェスさん 元島さんのように、枠にとらわれずに支援ができるような人になりたいという想いは変わっていません。ただ、現段階では知識や資格を取得し、卒業後は彼のNPO法人で経験を積んでから自分の法人を立ち上げたいと思っています。
原田学長 在学中にさまざまな場所で人と出会い、経験を重ねてほしいと思います。ところで、サンチェスさんから見て日本の福祉にはどんな問題があると思いますか?
サンチェスさん 日本の福祉にはフェミニズム※の問題があると感じています。男尊女卑という考え方や男性優位の社会構造が根強く残っており、女性も男性も自分ではそのつもりがなくても、幼いころから受けてきた社会からのプレッシャーによって、さまざまな刷り込みが身についてしまっていることがあります。
「ふくし」の考え方を大切にする日本福祉大学は、フェミニズムが欠けていると感じたことはないですが、まずはこの事実を知ることから日本人は始めるべきですし、女性の活躍を推すという観点でも必要だと考えています。社会全体で言えば、2018年の医学部不正入試問題はとても大きな問題だと感じました。幼少期からフェミニズムの考え方を理解できるような教育を徹底することで、中長期的に社会全体の是正ができると考えており、これが保育士をめざそうと思った理由の1つです。
フェミニズムとは?:
性差別をなくし、男女間の平等な権利を追求する思想や運動を意味しています。一般的には、女性の権利向上を目的とする運動として捉えられがちですが、フェミニズムを広く捉えれば、全ての人々が平等に扱われ、社会的な地位や機会を平等にすることをめざしています。
原田学長 サークルや部活には入りましたか。
サンチェスさん 聴覚障害者問題研究会 加絵手(かえで)とライフセービング部に加入し、とても楽しく活動できています。高校卒業後に入学したスペインの大学にはサークル制度はありませんでした。今は将来、保育士の道に進むかソーシャルワーカーをめざすのか、まだ答えは出ていません。しかし、今後聴覚障害を持つ方と関わる機会は少なからずあるので、加絵手では手話を勉強中です。また、新入生歓迎会でライフセービング部の方から「目の前に倒れている人がいたらどうする?」と問われた際、自分のすべき行動がわかりませんでした。どこでこのような状況と巡り合うかわからないので、入ってみました。ここでは、レスキューボードに乗ったり、救命練習をしたり、時には地域の方と関わったりと、とても有意義な時間を過ごすことができています。
原田学長 勉強だけでなく、さまざまなサークルでもよい経験ができているようで良かったです。最後に、本学への入学を検討する留学生の方や高校生、社会人の方にメッセージをいただけますか。
サンチェスさん 私は、日本福祉大学に入学するまで、スペインの大学や日本語学校に通い、時間的に言えば少し回り道をしていたのかもしれません。しかし、この回り道での経験によって、元島さんと出会うことができ、自分の学びたいことや将来の目標を持つことができるようになりました。大学での授業は新たな考え方を知る貴重な機会ですし、社会福祉学部の末盛慶教授の講義では、「日本でもフェミニズムの研究は進んでいるし、自分がめざす考え方と同じだ」と感銘を受けたりもしました。今後も、人との出会いを大切に、学び続けていきたいです。
原田学長 サンチェスさんから見た『日本のフェミニズム問題』に関する感じ方や考え方は、本学が提げる『ふつうのくらしのしあわせ』を支える研究にも繋がると感じました。誰もが幸せに暮らせる社会の実現のため、これからも学びを深めていただきたいと思います。ありがとうございました。