社会福祉学部
2026.06.24
「お金で見た暮らしやすさ」をテーマに、金融ウェルビーイングや生活福祉資金貸付、家計改善支援、ファイナンシャル・ダイアリー調査に取り組んできた角崎先生。お金を、暮らしの安心と自由を支えるものとして捉える視点は、2027年度開設予定の総合政策学部の学びにもつながっています。研究への思いと、新学部で実現したい学びについて伺いました。
原田学長 まず、先生はどのようなことに関心をもって研究されてきたのでしょうか。
角崎先生 ここ10年ほど、「金融ウェルビーイング」という言葉を使いながら研究をしています。金融というと、金融制度や銀行、証券会社、保険などを思い浮かべる方が多いと思います。ただ、私が関心を持っているのは、もう少し生活に近い「お金のやりくり」です。言い換えれば、お金で見たウェルビーイング、お金で見た暮らしやすさ、お金で見た幸せをどう捉えるかということです。
そのために、お金を供給する側からは生活福祉資金貸付などの制度を、お金を利用する人の側からはファイナンシャル・ダイアリー調査を通して、生活困窮者の方々が日々どのようにお金をやりくりしているのかを見ています。
原田学長 経済学とは、また少し違うのでしょうか。
角崎先生 経済学に近いところはあります。ただ、私が考えたいのは、金融やお金の仕組みが、人の暮らしの中にどう位置づいているのかということです。モノやサービスを通じて、みんなが幸せに暮らせる仕組みを考える。それもまた経済学であり、私自身もそう考えています。
原田学長 お金そのものではなく、その先にある暮らしを見ているということですね。
角崎先生 はい。人のニーズをお互いに満たし合うような関係こそが、経済の大切なところだと思っています。金融ウェルビーイングで言えば、明日のお金のやりくりを過度に心配しなくてよいこと。急な出費があっても何とか対応できる余力があること。そして、将来やりたいことがあるときに「お金がないからできない」と思わなくて済むこと。そこにあるのは、やっぱり安心と自由なんだと思います。
原田学長 角崎先生の研究は、生活福祉資金貸付などの制度にもつながっているのですね。
角崎先生 はい。生活福祉資金貸付を知ったのは、大学院に入ってからでした。生活に困っている方への相談の中で、給食費の支払いの遅れや公共料金の滞納などから問題を発見し、そこから支援につなげていく。そうした実践の話を聞いたときに、とても感銘を受けました。
原田学長 お金の遅れを、単なる支払いの問題として見るのではないということですね。
角崎先生 そうです。例えば金融機関であれば、支払いが遅れると「約束を守れていない」という話になりがちです。でも、生活支援の現場では、「支払いが遅れた背景に何があったのか」を見ます。病気や失業、家族の問題、制度につながっていないことなど、いろいろな事情があります。滞納や借金の背景には、収入の不安定さ、格差、孤立、家族関係など、複数の生活課題が重なっていることもあります。
そこを見つめた上で、金融の力を使えるところは使い、そうでないところは福祉制度につなぐ。そうやって生活を改善していくところに、金融の可能性があると感じました。生活福祉資金貸付や家計改善支援の現場では、借金や滞納を単なる「お金の問題」としてではなく、生活を立て直すための入り口として捉える視点が求められると思っています。
原田学長 制度には、何のために行うのかという哲学が必要だということですね。
角崎先生 生活福祉資金貸付は、生活困窮者の生活改善を目的とした制度です。お金が返ってくるかどうかだけではなく、その人の生活が少しでも立て直されていくことが大切です。もし返済が難しい状況になったら、そのときに次の対応を考える。それが本来の姿だと思っています。制度を単なるあらかじめ決められた手続きとしてではなく、生活を支えるためのしくみとして、正義や公平の視点から捉え直したいという思いがあります。
原田学長 そうした研究や考え方は、新しい総合政策学部の学びにもつながっていくのでしょうか。
角崎先生 はい。私が担当する科目に「現代生活論」があります。そこでは、家計の問題を入り口に、消費者問題、借金、カードローン、リボ払い、破産、税金、保険、労働などを扱います。さらに、家庭内のお金のやりくりや、DVにおける経済的暴力のような問題も取り上げたいと思っています。金融、税金、保険といった仕組みから、暮らしを支える制度を総合的に見ていく科目です。
原田学長 学生にとっても、自分事として捉えやすい内容ですね。
角崎先生 そうですね。「卒業してから本当に大事になることを話す授業」にしたいと思っています。例えば、働き始めたあと、住民税の支払いが翌年にやってくることを知らない学生もいます。所得税や住民税の仕組み、NISAのような資産形成の制度、生活保護をはじめとするセーフティーネットなども含めて、自分の暮らしを安定させるために知っておいてほしいことを扱いたいのです。
原田学長 暮らしを入り口に、社会の仕組みを学ぶということですね。
角崎先生 はい。生活の問題は、一つの学問分野だけで語りきれません。金融の仕組みだけを見ても、生活困窮者がどう生活を立て直すかまでは十分に見えないことがあります。福祉制度、地域のつながり、働き方、家族関係なども合わせて考える必要があります。
総合政策学部でいう「政策」は、行政だけが行う仕事ではありません。私たちは、社会課題を解決し、社会価値を創造するためのプロジェクトを政策として捉えています。そのためには、経済学、福祉、心理、経営、地域づくりなど、いろいろな学問の視点を組み合わせることが必要です。
一つの視点だけでは、解決策が狭くなってしまうことがある。だからこそ、自分の中に「課題解決の技のストック」をいくつか持っておくことが大切だと思っています。総合政策学部は、その技を実践的に身につけていく場になると思います。
建設中の新校舎の様子(2026年6月現在)
原田学長 日本福祉大学に総合政策学部ができることの特徴や強みは、どのようなところにあると思われますか。
角崎先生 大きな強みは、知多半島というフィールドに近いことです。高齢化が進んでいる地域もあれば、人口流入が進んでいる地域もある。多様な地域課題を抱える知多半島全体が学びのフィールドになることは、日本福祉大学だからこその強みだと思います。
例えば空き家の問題一つをとっても、相続の問題、地域全体の課題、持ち主の思いなど、いろいろな側面があります。「先祖代々の家だから手放したくない」「仏壇があるから残しておきたい」という思いもある。そうした気持ちを無視して、ただ経済合理的に考えるだけでは、本当の意味での解決にはなりません。
原田学長 その人の思いをくみ取りながら、地域の課題を考える必要があるということですね。
角崎先生 はい。そのためには、地域に出て、人と出会い、話を聞く経験が欠かせません。本を読むだけでは見えてこない姿があります。地域に出ることで、人に対する解像度を高めていく。そして、その解像度の高さと、幅広い課題解決の技を組み合わせていくことが大切です。
日本福祉大学には、貧困、子ども、多文化共生の課題や、外国にルーツがある人、高齢者、少子化など、一人ひとりが抱える課題を疎かにしない研究の蓄積があります。そうした知見を総合しながら、社会課題の解決と社会価値の創造を考えていく。それが、日本福祉大学らしい総合政策学部の姿だと思っています。
原田学長 最後に、これから総合政策学部で学ぶ高校生や若い世代に向けて、メッセージをお願いします。
角崎先生 地域での学びを楽しめる人に来てほしいと思っています。もちろん、社会課題に真剣に向き合うことは大切です。ただ、課題を難しい顔だけで見るのではなく、地域の人と出会い話を聞き、関わることを通して「もっと知りたい」「こういうことを学んだ方がいい」と感じてほしいのです。
楽しもうとする姿勢があると、地域の人との関係も深まりますし、自分に必要な学びも見えてきます。総合政策学部では、そんな実践的な学びを大切にしていきたいと思っています。