日本福祉大学

日本福祉大学 学園創立70周年記念サイト

日本福祉大学チャレンジファイル 日本福祉大学チャレンジファイル

#9 青年期の生きづらさ

青年期の必然として
生まれる「生きづらさ」を
乗り越える。

教育・心理学部 心理学科

小平 英志 教授

小平英志教授の研究分野は、教育心理学、人格心理学。パーソナリティ、学習行動、精神的健康、青年期をキーワードに研究を進めています。 小平先生に、「青年期の生きづらさ」について話を聞きました。

社会課題

自己責任社会における「青年期の生きづらさ」。

 青年期は、児童期から成人期にいたる過渡期。身長や体重の増加などの身体的発達や性的発達が著しくみられます。同時に、自己の問い直し、反抗、モラトリアムなどの心理・社会的な現象が現れます。

 この時期に感じる「生きづらさ」は、成長の過程で誰もが経験する感覚であり、成長のために必要な感覚でもあります。教育の現場では、個々が生きづらさを感じることを認めて、それゆえに何か失敗しても、それを許容し、見守ろうとするおおらかな土壌を備えています。しかし、教育の現場から一歩外に出ると、自己責任が問われる厳しい社会が広がっています。インターネットの世界には、何か事件が起きた時、当事者たちは説明責任として、社会全体に対して謝罪しなくてはならない空気があふれています。子どもたちはそういう世界を見て育つので、「世間一般の人たちの目に触れるところで失敗すると叩かれる」という恐怖心を意識して育っていきます。自分の知らない人からも攻められるという厳しい社会の雰囲気が、今日的な「青年期の生きづらさ」の背景にあると考えられます。

INTERVIEW

自分の尖った部分を意識する青年期。

はじめに、青年期とはどんな時期であるか教えていただけますか。

小平

 青年期は、身体の発達が急速に進む時期です。身長は伸びて体型が変化し、女性であれば初潮を迎え、男性は精通を経験します。また、親の言うことをそのまま聞いていれば良かった幼少期とは違い、周囲から求められる役割もどんどん多様化します。そこで、自分で自分に対するイメージが追いつかなくなり、「私って何なの?」というアイデンティティの問いかけが始まります。たとえば、友達からどう見られているのか、私は本当に求められる親友の役割を果たしているのかどうか、私らしいって何なのだろうといった疑問がわいてくる、そんな時期です。

自分の内外でいろいろな変化が起きるわけですね。

小平

 そうです。社会の側が求めるものも変化してくるし、同時に自分の中で起こっている変化も受け止めなくてはならないし、受け止めきれないこともあります。そんな環境の変化に合わせていくと、自分の「尖っている部分」みたいなものが気になるようになってきて、周囲との関係において支障が生まれたりします。自分の尖っている部分とは、個性のようなものですね。それを、社会から求められる役割とどう擦り合わせたらいいのかわからなくなってしまう。また、自分の個性を尖らせ過ぎると周囲と軋轢が生まれることもわかっていて、ちょっとヤスリをかけて丸めようとしたりします。でも、丸めようとすると、自分の本当の気持ちとフィットしない。フィットしていないけれど、まあこのぐらいでいいかと妥協したりする。とても複雑な心理状況に置かれるのだと思います。

生きづらさは、成長に必要なストレス。

フィットしないというのは、どんな感覚でしょうか。

小平

本質的な自分とのずれ、という感じでしょうか。人の性質は、気質として生まれながらにして決まっているコアの部分、その周りに幼少期の経験でつくられる「私」の部分、最後は役割に応じて変えられる柔軟な部分の3層からできているとも考えられています。その最後の部分の調整でやりくりできるといいのですが、そう上手にはいかなくて、やりづらい、うまくいかないと感じることが増え、生きづらさにつながっていくのだと思います。

うまくいかないと感じることは、本人にとって辛いことでもありますね。

小平

確かにそうです。悩みを打ち明けた学生に対して、「それは普通のことだから大丈夫だよ」と伝えたとしても、「そんなこと言われても自分は苦しいんです」ときっと訴えると思います。うまくいかないことは、たとえ多くの人々が経験していたとしても、本人にとって大きなストレスです。ただ、それは必ずしも悪いものではありません。周囲に適応するために、自分の尖った部分を丸めていったり、うまくフィットするように形を変えていく。そうした経験を通じて人は成長していきます。「生きづらい日本」などと言われますが、それとはちょっと違う捉え方で、「青年期の生きづらさ」は私たちが誰でも必ず経験するものだと考えています。生きづらさとは、成長する過程で生じる必然的な体験ですし、周囲との調整や自分自身の成長のきっかけになるものです。いろんな研究をして結論として見えてきたことは、生きづらさはギリギリのところまで必要なストレスだということです。そのギリギリの範囲を超えると不適応な状態、例えば不登校や引きこもりなどにつながったりしますが、本人が対応できる範囲内であれば、周囲の人間が介入してしまうことが逆効果になる場合もあると考えています。

そばにいる人が気づく大切さ。

周囲の大人は、その「ギリギリのところ」を見極めることが大切ですね。

小平

はい。子どもの場合には、本人が自分で対処できる範囲かどうか、親や周囲の大人がしっかり見守ることが非常に大事だと思います。少し前なら、地域の大人や親戚などが声をかけてくれたりしたのですが、現代はそれが望めないこともあり、学校にはスクールカウンセラーをはじめ、いろんな専門家が関わるようになってきました。親だけでなく周囲の人たちが協力して、子どもの変化に気づくことが重要であることは、あらためて認識されてきたと考えています。

子どもの変化に気づいて、支援していく体制が広がってきたわけですね。

小平

そう思います。スクールカウンセラーは、学校でうまく過ごせない、学校に行けない、という人たちの悩みを聞いてサポートする専門家です。ただ、生きづらさを感じている本人がスクールカウンセラーを訪ねて、「もう無理です」と言ってくれればいいんですが、特に青年期の場合は、自分の感情をあえて言語化しない場合も多いんですね。ですから、そばにいる人がちゃんと気づくことがとても大切です。

親子で揉めながら克服していく。

もし、わが子が不登校になったら、どうすればいいでしょうか。

小平

子どもが不登校になったら、親はあきらめて「休んでいいよ」と言うことが大切だと言われています。休むことが許されると、本人が前々からやりたかったこと、例えばゲームなどをイキイキと始めたり、自発的に行う力が徐々に復活していきます。次第に家の外にも関心が出てきたりする。そうなっていけば、ちょっと学校へ行ってみようなかという気持ちが芽生えることもあります。本人は自分で立ち上がる力を持っている、というのがカウンセリングの基本的な考え方ですが、その力を発揮できる環境を整えることが大切になります。

なるほど、まず「休んでいいよ」と声をかけるという。

小平

ただ、最初から「休んでいいよ」というのには、ちょっと抵抗がありますね。親がそういう知識をもって、理屈で関わろうとすると、「本当は学校に行ってほしい」という親の思いは子どもに伝わりません。すると子どもはラッキーだと考え、ただ遊んでいるだけになったりするかもしれません。そうではなくて、まず「学校に行きなさい」「いや、行かない、行けない」と、さんざん言い合って親子で揉めるプロセスがとても大事です。揉めるとそれなりに物事が収束していきます。どうすればいいのか、お互いに考えますし、すぐに打開策がないようなら、しばらく休むことにしようか、という結論にも至ります。その葛藤を経験しながら、お互いにそれでいいんだと思える道を見つけていくことが一番いいと思うんです。お互いの思いから揉めることも、必要な生きづらさのひとつかと。

ものわかりのいい親になる必要はないということですね。

小平

そう思います。やはり子どもにとって最も身近な存在は親ですから、子どもに寄り添って一緒に闘っていかなくてはならないと思います。たとえば、子どもがインターネットのSNSにはまっていたら、「危ないからやめなさい」ではなく、一緒に見て、何がそこで起きているのか一緒に経験する。子どもとよくコミュニケーションをとって、親が把握しにくい子どもの世界を知ることも大切です。実際、そうやって子どもに寄り添う親のもとで生活すると、生きづらさを乗り越えやすくなると思うんです。本人が家庭の中ですごく大切にされていて「あなたは生きていていいんだよ」というメッセージが伝わっていれば、他者から攻撃されて自己評価が下がったり、自分は生きていく価値がないんじゃないかと思っても、乗り越えることができます。学校にも専門家が配置され、教育現場でも支えていく体制がつくられていますが、青年期の生きづらさを乗り越える基本は家庭、親子関係にあるということを忘れてはならないと思います。

中央高等学院 名古屋本校のチャレンジ

中央高等学院は、通信制高校サポート校として45年以上の歴史をもつ学校で、関東、東海地方を中心に7校を展開しています。名古屋本校はアクセスしやすい名古屋駅に位置し、中京地区の高校生を中心に幅広い生徒たちを受け入れています。

生きづらさを抱える生徒たちに
あきらめず粘り強く、寄り添い続ける。

中央高等学院名古屋本校

愛知県名古屋市中村区名駅2丁目45−19

https://chuos.com/school/nagoya/

全日制の高校から転校してきた
生徒たち一人ひとりに寄り添う。

 通信制高校サポート校のシステムは、通信高校である「学校法人中央国際学園中央国際高等学校」に在籍のうえ、提携サポート校である「中央高等学院」に通学。単位修得に必要な課題の管理、学習面・生活面のサポートを受けながら、3年間で卒業をめざすものです。中央高等学院名古屋本校ではこのシステムをベースに、週5日、朝10時から17時まで授業を開講。在籍している高校生の約半数が、学校に通って授業を受けています。同校では通学する生徒に対しては集団生活のなかで指導し、家庭で学習し、高校卒業をめざす生徒に対して個別に連絡をとるなどして、授業時間以外に日常的にサポートしています。

 同校で学ぶ生徒の多くは、「人間関係のトラブルから不登校になった」「学力不振で集団授業になじめなかった」など、さまざまな問題を抱え、転校してきます。真面目で不器用な人も多く、人間関係などでつまずくと自分自身を責めて苦しんだり、SNS時代のスピード感あふれるコミュニケーションについていくことができず孤立していく人もいます。同校では担当の教員が、そうした生徒たちのそれぞれの生きづらさに寄り添い、粘り強くアプローチしています。アプローチの基本は、「生徒の支援は理解に始まり、理解に終わる」という姿勢。本人や保護者にしっかり話を聞きながら、一人ひとりの思いや得意・不得意をよく理解するよう努め、高校生活全般をきめ細かくサポートしています。

あきらめかけた学問探求の道を
回復・促進していく。

 同校に通う生徒の80%以上は、大学や専門学校への進学希望者です。そのため同校では、進学先で学びや人間関係を深めるための訓練校と自らを位置づけ、一人ひとりが学問探究の道を進めるように後押ししています。進路指導では、大学の勉強に興味を持たせることを第一に、現代の社会課題からどんな仕事や人材が求められているかを示し、そのために大学でどんな研究をしていくのかを説明。そこから生徒たちがそれぞれ好きな分野を見つけ、意欲をもって学んでいくように丁寧に導いています。

 そして、進学の先に教員たちが見据えるのは、生徒たち全員が大人になることを楽しみに思える未来です。大人になれば、職業や家族、住む場所も自分で選択できます。「ここにいなきゃいけない」と思うとつらくなりますが、そうではなく、自由で楽しい未来を手に入れることができるように、これからも全力でサポートしていく方針です。
(中央高等学院では、通信制高校サポートコースのほか、大学入試コース、ライフサポートコース、介護福祉就職コース、中学生コース、自宅de高卒コースが開設されています)

  • 教育・心理学部 心理学科
  • 教育
一覧ページへ戻る