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#8 地域金融の将来

地域金融機関の変革が
地方創生(※)を後押しする。

経済学部 経済学科

谷地宣亮 教授

谷地宣亮教授の研究分野は、金融論 。とくに「地域金融機関」「地域密着型金融」をキーワードとして、地域金融機関の役割の変化や課題を分析しています。地域経済の活性化のために、地域金融機関は何をすべきか、また、金融機関自身の存続のためにもどんなビジネスモデルを構築すべきか。地域金融機関がこれからめざすべき姿について、話を聞きました。

※地方創生とは、少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことを目指すものです。(財務省 北陸財務局より)

社会課題

「地域金融=資金供給というビジネスモデルの終焉。」

銀行業務の基本は、お客様から預金を預かり、融資をするというビジネスモデルです。しかし、長く続く低金利政策などにより、従来のビジネスモデルでは収益を上げるのが難しくなってきました。なかでも地域金融機関は地域経済の衰退により、経営環境は厳しさを増し、近年、合併や経営統合による組織再編の動きが加速しています。日本全国、どの地域でも少子高齢化が進み、人口が減少して地域にある企業の売り上げは減少。生産年齢人口も減少していることから、企業の生産性向上(業務効率化)が急務になるなど、地域の企業は多くの課題を抱えています。

こうした状況下で、地域の金融機関は役割の変革を強く求められています。顧客企業に資金だけを提供して支援するというビジネスモデルはもはや終わりを迎えたといえるでしょう。地域金融は融資だけでなく、顧客企業の経営目標の実現や経営課題の解決に役立つような知恵やアイデアを出して支援するパートナーへと変革をめざしています。さらに、地域にある企業の経営を改善して事業を再生したり、新しい産業を育てることにより、地域経済の立て直しや地域の持続可能な発展に貢献することが期待されています。

INTERVIEW

都市銀行とは違う、地域金融機関の存在意義。

最初に、地域金融機関はどんな金融機関を指すのか教えてください。また、都市銀行との違いはどこにありますか。

谷地

都市銀行は日本全国に拠点をもち、グローバルに活動している銀行です。それに対し、地域金融機関は地域に根ざして、特定地域を主要な営業基盤とする金融機関になります。たとえば、地方銀行や第二地方銀行は、本店を置く都道府県やその周辺地域を中心に営業しています。さらにローカルに活動しているのが信用金庫や信用組合で、営業地域も限定されており、地域の活性化や相互扶助を目的に営業しています。そのほか、原則として組合員を対象とする農業協同組合、漁業協同組合、労働金庫なども地域金融機関に含まれます。

先生が地域金融を専門に研究を始められたのはどんな経緯からですか。

谷地

もともと私の専門は金融論で、金融的な側面と経済の実体面の相互作用について研究してきました。あるとき、ゼミで地域通貨を取り上げたのがきっかけで地域の金融に興味をもつようになり、掘り下げてみたくなりました。地域金融機関は都市銀行と違って、地域に深く根ざし、地域の経済に大きな影響を与えています。どの地方も経済の活性化が求められ、国としても地方創生に取り組んでいるなかで、地域の金融機関が果たしていくべき役割に深い関心を寄せています。

少子高齢化と地域経済の縮小、コロナ禍の打撃。

地方の経済は今、どのような状況でしょうか。

谷地

少子高齢社会を迎え、多くの地域で人口が減少しています。どの地域でも人手不足の問題に直面していて、地域経済は縮小傾向にあります。後継者不足も深刻化し、事業の継続を断念する中小企業も増えています。さらにここ数年のコロナ禍が大きな打撃となりました。コロナ禍の渦中には、ゼロゼロ融資(※)などで倒産は少なかったのですが、その返済が本格的に始まって、倒産が急増している状況です。

地域経済の縮小は、地域金融機関にとって深刻な課題ですね。

谷地

その通りです。地域の経済がうまく回っていかないと、地域の金融機関自身の存続も難しくなってきます。そもそも金融機関は貸したお金を返してもらわないと利益にならないわけですから、取引先のビジネスがうまく回っていくように支援しないと、自分たちも生き残れなくなってしまう。生き残りをかけて、地域金融機関の合併や経営統合は今後も進んでいくと思います。たとえば、地方銀行、信用金庫、信用組合同士の合併というだけでなく、場合によっては地方銀行、信用金庫、信用組合といった垣根を超える合併も出てくるかもしれません。地域金融はこれから大きく変わっていくだろうと見ています。

※ゼロゼロ融資(無利子・無担保融資)は、コロナ禍で売上が減少した企業を対象に実質無利子・無担保で融資した制度。

地域金融機関に求められる、目利き力(事業性評価力)。

金融機関自身の存続を求めて、地域金融機関はどんな役割を果たそうとしていますか。

谷地

従来、金融機関は顧客企業に対し、お金を貸してサポートすれば良かったんです。でも、先ほども申し上げたように、取引先の業績不振のためにそれではなかなか収益が得られません。では、どうするか。地域金融機関は取引先の売り上げや利益の増加に貢献することで、自らの収益を確保する方向へとビジネスモデルを変えつつあります。その企業が成長するにはどうすれば良いのかというところに知恵を出し、必要な資金やコンサルティングサービスを提供して、経営改善・生産性向上といった取引先の経営課題の解決を支援する。たとえば、販売先を見つけるとか、仕入先をどうするかとか、人材をどう確保するかなど、企業の4大経営資源と言われるヒト、モノ、カネ、情報の全般にわたり、コンサルティング的な支援を強化しようとしています。

金融機関には、取引先の将来性を見る力が問われることになりますね。

谷地

そのために、金融庁も「事業性評価に基づく融資や支援」を促しています。従来は、極端な言い方をすると、金融機関は企業のプロジェクトがうまくいくかどうかを判定し、お金を貸すか貸さないかを決めていました。事業性評価に基づく融資や支援とは、それも含めて、その企業がどのように成長していくかを見極め、融資や支援をするということです。ですから、地域金融機関は、企業の事業性や将来性を判断し企業の信用力を見極める、いわば「目利き力」を鍛えなくてはなりません。

なるほど、従来のように担保や保証に過度に依存しないということですね。

谷地

そうですね。そこで、金融機関も少しずつ変わりつつあります。たとえば、人事の考え方が短期的な評価から長期的な評価になりつつあるんですね。今までは、3カ月で結果を出す人を評価していたのですが、地域の企業をサポートするとなると、そんな短期間で成果が出るはずはありません。事業性評価をして、長期的に企業を支援している担当者の仕事ぶりを適正に評価していこうという動きがあります。

地域金融機関は、持続可能な社会に貢献する総合サービス業へ。

変革に取り組む地域金融機関の中で、何か新しい動きはありますか。

谷地

たとえば「地域商社」という事業の取り組みが始まっています。これは、地域内で良い商品なんだけど、世間的に知られていないようなものを発掘したり、あるいは開発して、それを地域の外に売っていくための販路を開拓し、販売活動を展開していくビジネスモデルです。一つの金融機関が100%出資して地域商社をつくったり、いくつかの金融機関が相乗りしたり、一般企業も参加したりと、事業体にはいろんなパターンがあります。

それは、面白い取り組みですね。

谷地

ええ。信用金庫の100%出資による地域商社というと、全国で最初に立ち上げたのが、北海道の「大地みらい信用金庫」。2022年7月、地元産品の販路開拓などを担う子会社を設立しました。2例目が「京都中央信用金庫」で、地域の伝統産業を支援する子会社を設立。3例目が「豊川信用金庫」で、中部地方の信用金庫で初めて「地域商社みかわ」を設立しました。地域の人が自分たちの地域をなんとかしないといけないとアイデアを出し合い、外の意見も取り入れながら、その地域の良さをきちんと発信していく。なかなか難しいことですが、そんな動きが今後も増えていくと思います。

豊川信用金庫設立「地域商社みかわ」WEBサイト
https://www.cs-mikawa.co.jp/
地域商社のほかにも、新しい動きはありますか。

谷地

地方銀行では、企業のスタートアップ(起業や新規事業の立ち上げ)の支援に力を入れているところもあります。融資ではなく出資をするという流れが少しずつですができつつあるようです。そのほか、人材紹介や不動産紹介を手がける地域金融機関もでてきましたね。金融機関には情報が集まりやすいので、その情報をいかに活用して取引先のために使っていくかを考えることが大切です。

最後に、地域金融のこれからについて、お考えをお聞かせください。

谷地

地域には地域の課題があります。小さな会社でも個人商店でもなんらかの課題があるので、それを丁寧に拾いながら解決していくのが、これからの地域金融機関の姿になっていくのだと思います。反対に、企業からすると、お金を借りるときは少しでも低い金利で借りたいところですが、金利が若干高くても、手厚く支援してくれる金融機関から借りようと考えますよね。そのように顧客企業と共存共栄の関係を築きながら、地域金融機関はいわば、地域の課題を解決する総合サービス業のような存在をめざしていくことになると思います。もとより地域金融機関は地域の企業、さらには地域とも運命共同体でもあります。地域の金融機関が持続可能な地域社会づくりや地方創生に積極的に関わり、貢献することが強く期待されていると思います。

地域商社みかわ(株)のチャレンジ

豊川信用金庫の100%出資子会社として開設された、地域商社みかわ(株)。中部地方初の信用金庫による地域商社として、その事業展開が期待されています。

地域の技術に光をあて、
地域の活性化をめざす。

地域商社みかわ株式会社

愛知県豊川市末広通3丁目34番地1

https://www.cs-mikawa.co.jp/

ECサイト : https://www.cs-mikawa-s.jp/

人口減少が進む奥三河地域の活性化をめざして。

地域商社みかわ(株)は、2022年12月設立。豊川信用金庫本店1階に事務所を構え、同金庫から出向した6人の職員で活動しています。事業エリアは、豊川市と奥三河地域(新城市、設楽町、東映町、豊根村)。この地域は、愛知県で一番人口の少ない豊根村を筆頭に、人口の減少が加速。後継者不在により廃業する事業者も増えています。同社は、そうした事業承継の問題も含めて地域の事業者の経営を支援し、地域経済の活性化をめざして設立されました。「地域の特産品及び技術や伝統にスポットをあて、地域の事業者の支援をする」という目標が、事業活動の根底にあります。

同社の事業内容は大きくわけて二つあります。一つは、地域の自治体や民間企業から依頼を受けて行うコンサルティング業務で、ふるさと納税返礼品の拡充や商品のブラッシュアップを支援しています。一例をあげると、豊川市で評判のラーメン店「焼豚ラーメン弥太郎」の味を再現したカップラーメン「弥太郎ブラック」の開発をサポート。ふるさと納税返礼品に登録することにより、最初に生産した3600個が2カ月で完売するなど、着実な成果をあげています。

カップラーメン「弥太郎ブラック」
最初に相談してもらえる地域商社へ。

もう一つの事業は、地域の特産品の開発と販路開拓も含めた一連のソリューション事業です。たとえば、チョウザメの養殖で知られる豊根村では、キャビアの生産者(株式会社トヨネフィッシュファーマーズ)と愛知県蒲郡市の高級リゾートホテル(ラグーナベイコート倶楽部 ホテル&スパリゾート)のビジネスマッチングを行い、素材の風味を活かしたキャビアを開発。さらに、信金中央金庫の地域ネットワークを活かして、九州のびんメーカーの協力も得て、1瓶12グラムのキャビアの商品化をサポートしました。商品の多くはラグーナベイコート倶楽部に卸され、料理を彩る贅沢な味覚として好評を得ています。また、こうした事業の広がりから、トヨネフィッシュファーマーズでは長年の課題であった次期後継者も決まり、事業承継支援にもつながりました。

豊根フィッシュファーマーズ「ロイヤルキャビア」
写真引用:豊根村観光協会

同社の今後の目標は、「地域との共創」と「地域のファーストコールカンパニー」です。これまで取引のなかった事業者も含めて、地域のすべての事業者と共に歩むこと。そして、地域の事業者が困ったとき、最初に相談してもらえるパートナー企業になり、三河地域の持続可能な発展に貢献していこうとしています。

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