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#47 これからの水泳指導

科学的見地に基づく
水泳指導を広めていきたい。

スポーツ科学部 スポーツ科学科

松田 有司 准教授

松田有司准教授の専門は、スポーツバイオメカニクス、パフォーマンス分析 。主に水泳競技をターゲットとして、選手のパフォーマンス分析を行うとともに、どうすれば泳げるようになるのかについて研究しています。松田先生に、水泳指導について話を聞きました。

社会課題

衰退する、小・中学校の水泳授業。

 小・中学校で、プールを廃止するところが増えています。その原因としては、まずプール施設の老朽化が進み、運営管理費が高く、維持していくのが難しくなってきたこと。学校によっては思い切ってプールを廃止し、校外の屋内プールを活用するケースも増えています。また、水泳を専門に指導できる教員の減少も影響を与えています。昔と違って、今は水泳指導にも専門性が問われますが、体育の教員採用試験を受ける際、「水泳」は必修科目でなくなってきました。

 一方で、スイミングクラブが各地でつくられるようになり、水泳指導については学校の授業ではなく、民間のクラブがある一定の役割を果たせるようになっています。こうしたことから、今後も学校の水泳授業は縮小していくのではないかと考えられています。しかし、子どもにとって、泳げるメリットは大きく、水泳指導そのものは何らかの形で継続していくことが望ましいと考えられます。

INTERVIEW

水泳選手のパフォーマンス分析。

最初に、先生が水泳の研究に携わるようになった経緯を教えてください。

松田

 私は本校に赴任する前、国立スポーツ科学センター(※)で水泳の日本代表選手などを対象に、パフォーマンス分析を行っていました。とくに私が専門としていたのは「動作分析」で、レースの水中映像を見て、どういう動作をすればパフォーマンスが向上するのかというところを分析し、選手にフィードバックしていました。選手は試合のときに自分のパフォーマンスをピークへもっていきますので、そのピーク時にどんな課題があるのかを分析していく。また、世界のトップ選手との比較をして、選手が自分の長所や短所を見定めていくためのサポートをしていました。

日本でのスポーツ選手のパフォーマンス分析は、いつ頃から始まったのでしょうか。

松田

 それはもうだいぶ古く、1950年、1960年代だと思います。国策としてスポーツ振興に予算がついて、いくつかの競技のスポーツ選手をサポートしていく取り組みが始まりました。ただし、その活動が盛んになったのは、やはり国立スポーツ科学センターのような施設ができて、選手がそこで科学的なサポートを受けられるようになったというのが、一つの大きな起点になっているのかなと思います。

※国立スポーツ科学センター(JISS)は2001年設立。現在はハイパフォーマンス・ジムや風洞実験棟等のスポーツ医・科学の研究施設、トレーニング施設、競技別専用練習場(競泳、新体操等)及び栄養指導食堂等で構成され、最新器具・機材を活用し、より効果的・効率的にスポーツ医・科学、情報等による研究、支援を行うための施設となっています。(JISSホームページより)

どうすれば泳げるようになるのか。

一流の水泳選手のパフォーマンス分析の経験をベースに、今はどんな研究に取り組んでいらっしゃいますか。

松田

現在は水泳選手というよりも、もう少し対象を一般の人々に広げた研究を進めています。初心者がどうやったら泳げるようになるか、というところに大きな関心を寄せています。水泳は地上と違って特殊な環境のスポーツですから、水の中特有の動きや感覚を身につける必要があります。第一に必要なのは、浮くための動きや感覚です。水の密度は1g/cm3 で、これよりも小さいものは浮いて、重いものは沈みます。人の体は息を全部吐き切ると肺のなかの空気がなくなり、体の密度が水の密度をちょっと超えるので沈みます。反対に、息をしっかり吸うと体の密度は水の密度より少し小さくなり、浮きます。ですから、水中で、息をしっかり溜めた状態で体のバランスを取ると、浮くことができます。また、仰臥位、水平位で進んでいくのも、水泳の特徴の一つです。視線が変わりつつ、水平にバランスを取る感覚を身につける必要があります。

泳げるようになったとして、次に、速く泳ぐにはどういう技術が必要ですか。

松田

速く泳げる人は、きれいなフォームで無駄のない泳ぎをします。水を捉える技術がうまいというか、水の抵抗を少なくするような技術を身につけると速く泳げるようになります。そうした理論的なことを子どもに直接教えても理解が追いつかないと思いますから、まずは指導者が理解し、きれいに速く泳ぐためのプログラムを組み立てていけばいいかなと思います。

水泳の技術は、自分の身を守るために

もともと水泳の指導はどういう目的で始まったのでしょうか。

松田

一つは昔、水難事故がすごく多かったことがあげられます。よく語られるのは、1955年に起きた宇高連絡船紫雲丸事故です。この事故で168人が死亡、122人が負傷しましたが、犠牲者の多くが修学旅行生でした。この事故がきっかけとなり、水泳授業の普及が始まったとされています。すなわち、泳ぐ能力を身につけることは、自分自身の身を守る「ウォーターセーフティ」という目的があります。日本は周囲を海に囲まれ、川も多く、水に接する機会が多いので、今でも夏場になると水難事故が起きています。自分の身を守るために、子どもに対する水泳指導はとても意義があると思います。

でも、最近はプールを廃止する小・中学校も増え、水泳教育は衰退しつつありますね。

松田

そうですね。ただ、社会課題のコラムにも記したように、地域のスイミングクラブがある程度、学校の水泳教育に代わる役割も果たすようになってきました。そうした施設も利用しつつ、どんな形にしても、子どもへの水泳指導は続けていくべきだと思います。

科学的な技術指導で、水泳を楽しむ人を増やしていく。

子どもたちが水泳を好きになるには、どういう指導が必要でしょうか。

松田

そうですね。水泳の動作には未解明な部分がまだまだ多くあります。水の中なので水中カメラを入れて動画を撮るのもなかなか大変です。だからこそ、技術指導に対するエビデンス(科学的根拠)をしっかり整えていく必要があると思います。そして、その科学的知見に基づく技術指導を広げることで、水泳を楽しむ子どもたちを増やしていけたらいいですね。また、泳げるようになるだけが水の楽しみ方ではありません。水のなかでリラックスしたり、友達と遊んだり、水の楽しみ方をしっかり教えていくことも大切です。そうすることで、「水泳を無理やり教えられてつらかった」「苦しい思いをしたから水が嫌いになった」という子どもたちも減っていくのではないでしょうか。

子どもがはじめて水と出会うときの指導法が重要になりそうです。

松田

そう思います。それに関連して、私が今進めている研究に、「従来行われてきた水泳指導にはどんな意味があるのか」を科学的に証明する試みがあります。たとえば、水泳の授業では最初に「腰掛けキック」といって、水に入らずに水面でバタバタしたり、手をついて足だけキックしたりしますよね。あの運動は本当にいい筋肉の動かし方になっているのかどうか。また、ビート板を使う際、顔を上げてキックしますが、実は顔を下げてキックした方がいいのかもしれない。そうした基本的な疑問を明らかにすべく、いろいろな分析を始めているところです。慣例的に行われてきた指導法を見直してみたいと考えています。

ここまで子どもを対象にした水泳指導についてお聞きしてきましたが、大人になって水泳を習う人もけっこういますよね。

松田

ええ。スイミングクラブでは、シニアになって水泳を始めて、すごく泳げるようになる人も多いですよ。先ほど、水泳は自分の身を守るために必要だとお話ししましたが、それと並んで、水泳は生涯スポーツにもふさわしい運動だということもできます。水の中に入ると、普段使っていない筋肉を使うことができますし、副交感神経が上がってリラックス効果を得ることもできます。また、水環境は重力の影響が少ないので、足腰に負担をかけることなく歩くことができます。車椅子の選手が水の中では自由に動くことができるのも、重力の影響から解放されるからですね。このように利点の多い水環境での運動や余暇を、生涯にわたって続ける。水と一緒に生きていく素晴らしさを多くの人に知っていただけたらと思います。

デサントジャパン(株)のチャレンジ

デサントジャパン(株)が手がけるスイムウェア「arena(アリーナ)」ブランドは1973年、フランスで誕生。日本では1977年から同社が展開しており、1990年にはアジア地域での商標権を取得し、中国、韓国、台湾、マレーシアなどアジア各国でも、同社が企画した商品を販売しています。

高品質なスイムウェアづくりを通じて
ウォータースポーツを盛り上げていきたい。

デサントジャパン株式会社

東京オフィス:東京都豊島区目白1-4-8

arena(アリーナ):https://store.descente.co.jp/arena/

インドアスイム全般において、
高品質・高機能なスイムウェアを開発。

 スイムウェアのグローバルブランドとして知られる、arena。アリーナイタリア社では欧米を中心に商品企画を担当し、デサントジャパン㈱では、日本及びアジアの商品企画を担当することで欧米とアジア人の骨格や筋肉量の違いにも配慮した商品企画を行いながら、それぞれの地域に合った商品づくりを行っています。また、オリンピックや世界水泳選手権では、世界共通のデザインコンセプトを打ち出し、arenaブランドの強さを全世界に発信しています。

 日本市場においては、インドアスイムを対象に商品づくりを展開。世界大会で最速を狙うためのトップレーシング用モデルから、耐久性に優れたトレーニング用モデル、着心地やフィット感を重視したフィットネス用水着、スイミング用品まで、幅広いラインナップをそろえています。こうした商品開発の根底に掲げているのは、「水との関わりを通じて、すべての人々の生活の質の向上」をめざすこと。多様な年齢層、多様な目的に合ったスイムウェアを提供し、水と人々が触れ合う機会をサポートしています。

写真引用:https://store.descente.co.jp/arena/
水泳離れを食い止めるために
スポーツメーカーができることを。

 欧米では、人々が水と初めて関わるのは海などのレジャーシーンになるため、ワンピースやビキニが普及しています。一方、日本では、水泳の授業やスイミングクラブから水との関わりが始まることが多く、スイムウェアにも独特の趣向が反映されています。たとえば、セパレート型のフィットネス水着は他国にはあまり展開のないデザインで、脱ぎ着がしやすく、露出の少ないものを、という人々の声に応えたものです。日焼け対策用のラッシュガードも広く着用されるようになりました。

 近年、水泳の授業や部活が減少傾向にあり、水泳離れが進んでいます。こうした流れに歯止めをかけるために、arenaでは、子どもたちが憧れるようなトップスイマーが活躍できるよう競泳用水着の開発に力を注いでいます。オリンピックや世界水泳選手権での活躍は、競技人口を広げるチャンスです。100分の1秒でも速く泳げるように、選手のパフォーマンスを最大限に高める高機能水着を開発しているほか、トップスイマーのトレーニング向け水着やギアにも力を注ぎ、選手の育成を後押ししています。また、一般の人に対しては、健康と環境に配慮したスイムウェアや水陸両用のウェアなど付加価値の高いものづくりを通じて、ウォータースポーツを盛り上げています。

写真引用:https://store.descente.co.jp/arena/
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