36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2014年度 日本福祉大学
第12回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
優秀賞 その生涯に幕 ありがとう江差線
北海道知内高等学校 三年 安齋 天彩

 「ピーッ!」この汽笛ももう心の中にしか鳴らなくなってしまった。それと同時に日本の原風景がまた一つ消えてしまった。
 北海道南西部の木古内と江差を結ぶJR江差線。今まで多くの人や物を運んできたが去る五月十二日に廃止となった。私もその最後をカメラに収めるべく何度か足を運んだ。そしていよいよ運行最終日、私はカメラ片手にその現場を収めた。
 「普段もこのくらいいれば…」どこに行っても聞かれる言葉である。しばらくしてセレモニーが行われ列車が入線する。私はこの列車に乗車し最後の風景を目に焼き付けた。沿線からは手を振ったり、ホームで旗を振ったりと沿線は最後の賑わいを見せた。山を登り、トンネルを抜け…失われつつあるローカル風情を噛みしめていると終着江差に着いた。駅前はそれぞれの想いを胸にした人でごった返した。「この光景も明日には…」地域住民や何度も乗っている人に比べれば少ないが私も胸に迫るものがあった。
 折り返しの時間が近づいてきたのでホームに戻るとファンや乗客で溢れていた。車内もまた例外でなく立っていられるのがやっと。「ピリリ…」車掌の笛と同時にホームでは「蛍の光」が流れていて、徐々に離れていく列車に「ありがとう!」の声。一筋の涙が私の頬を濡らした。
 汽笛が山にこだました。二度と山に響かない汽笛に耳を澄ませる。その音は最後まで頑張ったよと言っているように聞こえるし、廃止が寂しいと泣いているようにも聞こえる。
 そしていよいよ最終便の時間になった。夜遅くにもかかわらずホームには最後の瞬間を見届けようと数多くのファンが集まった。車掌に花を渡すと同時にシャッター音が響いた。
 そして、発車、お客で満員になった列車は江差へ向けて走り出しその運行に幕を閉じた。
 実に七十八年の人生だった江差線。
 安全を告げる汽笛がいつまでも響いていた。

講評

 合理化を追求して、採算が合わない古い物が消えていく現代の風潮に対して問題を提起するいいエッセイです。しかも、一日の時間の経過がよくわかるように書かれ、大変具体的・写実的に書かれている点もすばらしいと思います。出だしの「ピーッ!」もとても印象的で良く、五感をフルに働かせてこのエッセイを書いていることが読者に伝わってきます。「廃線」という、現代では珍しくはありませんが、非日常的な地元で起きた出来事がドラマチックに描写されています。表現力豊かに、そして熱い思いを込めて書いている点に、心を打たれました。

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