36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2013年度 日本福祉大学
第11回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
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入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
最優秀賞 まちのぬくもり
立教女学院高等学校 2年 入澤 里桜

 私の住む町は、春になると満開の桜で、町が、ピンク色に染まる。今年の春、母が祖母を連れて帰って来た。去年の冬に祖母は倒れ、身体に麻痺が残っている。おかしなことも言うけれど、一時帰宅が出来るまでになった。
 祖母が帰って来ると、近所の人が近寄って来て、「よかった、よかった」と祖母の無事を一緒になって喜んでくれた。瀧さんも、駆け付けてくれた。祖母と一緒に小さなビルの清掃をしていた人だ。祖母は、瀧さんの姿を見ると、「会いたかった。会いたかった」と言って、涙を流して喜んだ。瀧さんも、「よかった。心配したよ」と言って、祖母の手を握ったまま、いつまでも離さなかった。
 私が、車イスを押すと、近所のいろいろな人から声がかかった。「あら、おばあちゃん、元気になったの」「心配したのよ」「また、おいしいお漬物を食べさせてね」。私の知らない多くの人が、祖母のことを知っている。驚いたのは、私にも声がかかったことだ。「あら、りおちゃん、元気」「背も伸びて、すっかりお姉さんになっちゃって」。どうして、私のことを知っているのだろう、と不思議に思っていると、瀧さんが教えてくれた。「あなたが小さい頃にね、おばあちゃんはいつもあなたを連れて歩いていたの。だから、皆あなたのことをよく知っているのよ」。
 祖母が帰るとき、バス停まで皆が見送りに来てくれた。バスはなかなか来なかったけれど、祖母は、皆に囲まれ、楽しそうに話をしていた。「だから、違うのよ。白いヘビが大勢で追いかけてくるのよ。服も着ないで、大慌てで逃げたのよ」。満開の桜の下で皆の笑顔が弾けている。バスはいつまでも来なかった。「いいわ、押して帰るわ」。母は、病院までの一時間近い道を押して帰ると言った。桜並木のなかに消えて行くふたりを見ながら、瀧さんが言った。「いいお花見になったわね」。
 祖母を見守り、私を育ててくれたこの町と、この町の人々に感謝の気持ちでいっぱいになった。

講評

 「まち」は無機質な存在ではなく、「人と人とのつながりである」ということを読者に伝えてくれるたいへん良くまとまったエッセイだと思います。日本人が大好きな「桜」を取り上げた作品は多いのですが、一般的な話になりがちです。ところが、この作品は「満開の桜」「桜並木」という言葉が効果的に使われていて、桜の美しい姿と、桜の下で笑顔が弾けている人たちの姿が描かれ、印象深い作品に仕上がっています。満開の桜の下に集まって、みんなが笑顔で一日を過ごした様子が想像でき、このまちにどんな人が暮らし、どんな人間関係ができているのかが文章から伝わってくるいい作品です。

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