「行ってくるけんのぉ」 見送る私に軽く手を振り、慣れた足取りで自転車をこぎだした。 私が見送ったのは齢八十二の祖母。向かった先は、祖母の八十七歳になる長姉の家。 そして、八十五歳の次姉も自転車で長姉の家に向かうことになっている。 今日は三姉妹の女子会の日。 大伯母たちと祖母はいたって元気で、日常生活は人の手を借りることなく過ごしている。 よく笑い、よくしゃべり、よく食べる彼女たちは、女学生のようで、現役女子高生の私や従姉妹も顔負けの、トーク炸裂だ。もちろん携帯電話も器用に操る。携帯電話を持ち始めた頃は、用も無いのにしょっちゅう電話をかけてきてイラッとしたこともある。だが、今では三姉妹間でやり取りをしているので、私はお役御免になった。それはそれでちょっと寂しい。 「宝くじが当たったら、将来のために貯金する」とか「歳をとったら人に好かれる年寄りになろうの」とか。自分より若い女優を見て「この人、歳とったのぉ」と、よく言う。自分が歳を重ねたことなど忘れて。 未来のことや自分の夢を語ることは彼女たちの元気の源であり、若さの秘訣だ。 日頃から何かと口うるさい祖母たちに親戚中が閉口することもあるが、元気でいてくれるだけで『家族の宝』だと思っているのは私だけでなく、三姉妹の家族みんな同じ気持ちに違いない。 自転車をこぐ足に力が入り、スピードがアップしたかのようで、いかに楽しみかがうかがいしれる。四十分程かかる大伯母の家に向かって、今日も意気揚々と出かけた。 「九十八歳で天寿をまっとうしたおおきいばあばの歳には、みんなまだまだ時間が有るからね」 初夏の風に背を押され、走る祖母の後ろ姿に、私はそっとつぶやいた。
この作品もタイトルがいいですね。「ばあば」と、若い人たちがよく使う「女子会」を結びつけたことで、おばあちゃんたちがにぎやかに話している光景が目に浮かび、印象に残るタイトルになりました。本文もおもしろく読むことができ、三人のばあばを優しく見つめる作者の気持ちがエッセイにあふれていて、温かい気持ちになりました。こういうクスッと笑える作品も、エッセイとしてとてもいいと思います。