36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2013年度 日本福祉大学
第11回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
 
募集テーマ内容・募集詳細はこちら
応募状況
参加校一覧
HOME
入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
審査員特別賞 働き者の手
愛知県立安城東高等学校 2年 浅井 瑞希

 「お父さん、サラリーマンじゃないんだ」。幼い頃に何度かこんなことを言われた。
 私の父は自営業で水道設備の仕事をしている。いわば力仕事だ。私は友達にこう言われるのが嫌だった。父がサラリーマンでなかったのが嫌なわけではない。いつも砂だらけで疲れて帰ってくる父を恥ずかしいと思っていたからだ。身体だけでなく心も幼かった私は、スーツ姿のかっこいいお父さんというものに憧れを抱いていたのかもしれない。
 中学生になって多少の反抗期はあったと思うが、それでも父と話すことは多かったし、家族で色んな話をするのが楽しかった。しかしそれでもなお、私の目に映る仕事終わりの父は全身砂だらけ。塗料で手は荒れ、いつも汚い手。そんな風にしか見られなかった。
 学校の総合などでよく家族のことについて話し合っていたが、父の職業を言うのが恥ずかしく、隠していた自分がいた。でも本当は父を恥ずかしく思う自分が恥ずかしいことも分かっていた。それでも汚い父の娘として友達から嫌な目で見られることを恐れたのだ。
 しかし東日本大震災によって私の考えは変わった。被災地へ仮設住宅をつくりに行くため、家に父がいない日が何日も続いた。
 久しぶりに帰ってきた父は、私に被災地や被災者のことを話してくれた。私は父が誇らしく見えた。父の話を聞きながら、慣れない環境で仕事をするのはどれだけ大変だったのだろうと考えた。砂だらけである父を恥じる必要はどこにも見当たらず、むしろ自慢できるものであったのだ。
 今、父の職業を恥じていた自分はどこにも見当たらない。堂々と友達に、父はいつも砂だらけで仕事をしていると言える。
 そして父に言うのだ。
 「この手は荒れ放題で真っ黒の手だけど、働き者のきれいな手だね」
と。そして今日もまた、父は砂だらけで帰ってくるのだろう。

講評

 第2分野では、お父さんを取り上げた作品は少なかったのですが、文章の端々に作者とお父さんの親子関係の良さがよく表れていて、この作品が一番良かったと思います。小さい時から「いつも砂だらけで恥ずかしい」と思っていて、授業でも父の職業を隠していたという女の子の素直な気持ちが書かれていて、共感できます。そして、父の東日本大震災の被災地で仮設住宅をつくりに行った時の話を聞き、「むしろ自慢できる」と誇りを感じるようになった作者の気持ちの変化も、しっかり書かれています。お父さんを応援したいという気持ちを込めて、審査員特別賞に選びました。

UP