「なんで…」 私はやるせない気持ちになった。それは、最近よくテレビで耳にするようになった「出生前診断」についてのことだ。「出生前診断」とは、妊婦の血液で胎児がダウン症などの染色体異常かどうかが分かる診断のことらしい。十分な知識がないまま人工中絶につながらないようにカウンセリングなどもするようだ。とはいっても、診断した人の選択肢の中に「人工中絶」という文字が組みこまれるようになるのは確かだと思う。 私の弟は、ダウン症だ。一口にダウン症と言ってしまったが、ダウン症にも、いろいろな子がいる。私の弟は、とてもおとなしいが中学三年になった今では少し生意気だ。そんな弟は、特別支援学校に毎日通い、和太鼓やダンス、調理などたくさんの習い事をしながら忙しく、楽しい毎日を送っている。普通の人と何も変わりがないとはお世辞にも言えないが、私は弟に絶大の誇りを持っている。難しいことや大変なこと、手のかかることも沢山あるが、彼が私たち家族の支えであることは確かだ。そして、手がかかるということにおいて、ダウン症も他の人も変わりはないと思う。実際に、家族の中で私自身が一番迷惑をかけてしまっているように。障害があってもなくても、基本的なことは何も変わらないと思ってしまうのは、私にダウン症の弟がいるからなのだろうか。 この「出生前診断」についての問題は、単純に賛否を決められない。診断を受ける人も受けない人もそれぞれ大きな覚悟を持っていることは確かだからだ。また障害を持って産まれてきた子は、たくさんのケアが必要だ。子どもを産んで育てていくこと、それだけでさえも大変なのに、その我が子が障害を持って産まれてくると分かったら…戸惑いや不安で前が見えなくなることもあるだろう。 とても難しいが、どんな子も平等に未来の可能性は無限大であると私は信じたいと思う。
とても大事な問題提起だと思います。医療の進歩が必ずしも幸せをもたらすだけでなく、不幸を引き起こすかもしれないという難しい問題を、作者が真剣に考え、エッセイにまとめている点を評価しました。「イエスか、ノーか」という一つの答えに安易に絞るのではなく、十数年間の自分の人生経験では「単純に賛否を決められない」という視点に立って書いている点がいいと思います。良い道を見つけていきたいという作者の考えに共感しました。