36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。 2013年度 日本福祉大学
第11回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集
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入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
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入賞者発表
第4分野 社会のなかの「どうして?」
審査員特別賞 環境に優しい社会は人に優しい社会
鹿児島市立鹿児島玉龍高等学校 2年 木田 夕菜

 「驚いた。顔が青ざめたよ」
 帰宅して鞄を置くなり、父は話し始めた。職場の近くの信号のない交差点。道路の反対側には白杖のお年寄りが立っていた。近づいてくる自動車に気付いた父は、その場に立ち止まった。しかし、道路の向こうのお年寄りは、そのまま交差点を渡り始めたのだ。甲高く乾いたブレーキ音が響いた。その後、訪れた一瞬の静寂の光景の先には、白杖を落とし、呆然と立ちすくむお年寄りの姿があった。
 何故こんなことが起きたのか。父は近づいてきた車はハイブリッドカーだったと話した。温室効果ガス排出を減らし環境に優しい社会の実現のために、今後の自動車社会を担っていく車だ。しかし、この車は大きなエンジン音がしない。その為、歩行者が車の接近に気が付きにくいのだ。
 父の話を聞き、一抹の不安を感じた私は、本のページをめくり、コンピュータでキーを叩き情報を集めた。すると、国はこの問題について既にガイドラインを設け、発音装置の装備を義務づけていることが分かった。しかし、あの時は確かに車両の接近音は父にも聞こえなかったという。何故なのか。実は接近音の一時停止が認められていることやその音量基準が低いため、まだ十分に安全と言える状況にはなっていないのだ。
 近年、排気ガス、騒音等の問題は改善されてきた。事故回避のシステムも開発され、交通事故死亡者も発生事故件数も減ってきている。ただ、これら多くの人々にとっての安全と便利さの裏側で、新たな危険に怯える人々がいることに目をつぶってはいけない。
 私も通学途中にいつも白杖を突いた男性に出会いあいさつを交わす。あの方の笑顔が、決して不安で曇ることなく、ずっと続いていくことを私は願いたい。
 私は思う。環境に優しい社会とは、そこに暮らす全ての人にとっても、優しい社会でありたいと。

講評

 環境に優しいハイブリッドカーの普及率が今後いっそう高まっていくと予想されている現在、「歩行者にも配慮した車にしなければいけない」という警鐘を鳴らしている切り口を評価しました。この作品を強く推す審査員がいたことが、審査員特別賞に選ばれた理由です。冒頭のお父さんの言葉が活きていて、作者に向かって話している光景がリアルに伝わってきます。また、お年寄りが近づいてきた車に気付かず、呆然と立ちすくむ光景も目の前に浮かぶなど、文章がまとまっている点が評価されました。そして、お父さんから聞いた話だけで結論を出すのではなく、自分で本を読んだり、コンピュータを使って情報を集めたりといった行動を取り、そこから自分の考えをまとめていった点もいいと思います。

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