「行きつけの○○」を持っている人は多いのではないだろうか。美容室、ショップ、ラーメン屋…。色々な人が色々な“行きつけ”を持っていると思う。しかし、「行きつけの温泉」がある女子高生は、そうそういないのではないか。 その温泉は、母の実家のすぐ近くにある。私がまだ小さかったころ、祖父母の家に泊まりに行くと、母はきまって私を温泉へ連れていった。小学四年生の時に実家の方へ越してきてからはもっと頻繁になり、多いときは週に五回も温泉へ通った。 「あら、おねえちゃん。今日はいっつもより早いねえ」 南部訛りで話しかけてくるおばちゃんたち。いつも私と同じ時間帯にやってくる、私の“ふろ友”だ。 「今日は部活が早く終わったんですよー」 「んだがぁ。おばちゃんは今日、畑仕事してきたんずよ。肩凝ってまって」 なっはっは、と豪快に笑う。とりとめのない話や世間話、大相撲の話、時には愚痴を言ったり聞いたり、おばちゃんたちと話す時間はとても楽しい。 おばちゃんたちといつものように話しているとき、ぽろっと弱音を吐いてしまったことがあった。周りにうまくなじめない。そんな私の悩みをおばちゃんたちは一言で片付けた。 「そったらもん、生きてればなんとかなる!!」 答えになっているのかなっていないのか分からない言葉に呆気に取られた。しかし豪快な笑いを見ていると、自分の悩みなんてちっぽけなものに思えてつられて笑ってしまった。同時におばちゃんたちのパワーに心がじんわりと温まるのを感じた。 名前も知らないおばちゃんたち。でも、相手のことをよく知らなくても、明るい言葉と笑顔があれば人を勇気づけることができるということを彼女たちは教えてくれた。彼女たちがくれた勇気を次は私が誰かに与えたい。
この作品もタイトルが秀逸です。タイトルを見るだけで、「読んでみよう!」という気持ちにさせる作品です。高校生が「行きつけの温泉」を持っているという内容もユニークで、南部訛りで話しかけてくるおばちゃんとのイキイキした会話がほほえましく書かれている点もいいと思います。読み終えてさわやかな感動を覚えました。作者とおばちゃんたちの温かいふれあいが読者に伝わってきて、エッセイらしい作品だと思います。