2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第3分野 わたしが暮らすまち
優秀賞 つながる、今
青雲高等学校 3年 村ア 薫

 「だるいな」正直な感想だった。三年前、中学三年生であった私は、委員会活動の一環として平和記念式典に出席することになった。あのうだるような暑さの中ただじっと座っているなんて耐えられない。そんなふうに考えていた。
 バスに乗り、この地に生まれた私にとっては見慣れている平和公園へ降り立つ。平和祈念像の右腕はまっすぐに天を指さしている。蝉しぐれが一斉に降り注ぎ、くらくらするほどの真夏の日差しが容赦なく私の肌を焼いた。
 私たちは大きなテントの下で式典に参加する。テントの中の椅子に座ると、大学生くらいの女の人が冷たいお茶を運んできてくれた。ふと気がついた。その女の人は汗で髪が額に張り付いていたのだ。いくらテントの中とはいえ、動き回っているのだから考えてみれば当たり前なのだが、私はといえばそんなことにも気付けないほど、文字どおり「出席している」という体面を取り繕っているだけの浅はかな学生であったのだ。暑さのせいでなく顔が火照った。私はそのお茶のパックを右手に持ったままはじめて辺りを見回してみた。
 私たちの右側には喪服に身を包み、涙を拭うたくさんの人がいた。ただ遥か半世紀以上も昔の、歴史上の事実としか捉えていなかった、今日、この日、八月九日という日が急に目の前に体温のある現実として現れた瞬間だった。
 六十五年前、今日と同じように暑かったであろう日に私の生まれたこの街は炎に包まれたのだ。確かにそこにあった多くのものが失われた。今、私の横で涙を拭っているたくさんの人達にとって、それは決して「過去」にはなりえない。心の奥に鈍い痛みとなってあり続ける。そう実感することができた。この地に生まれた私にはそれを他の誰かに伝えることが権利であり義務であるように思われた。
 平和の鐘が私たちの上に鳴り響く。「だるいな」と思った私はもう居ない。「あの日」から続く青空に白い鳩が一斉に飛び立った。

講評

 文章が上手で、正統派の作品です。長崎や広島に生まれたからといって、誰もが生まれた時から平和について考えていたわけではないでしょう。乗り気ではなかった平和記念式典に参加したことがきっかけとなって、視野が広がった経験を素直に表現している点を評価しました。「その女の人は汗で髪が額に張り付いていたのだ」「暑さのせいでなく顔が火照った」といった表現も秀逸で、エッセイとしての完成度が高いと思います。タイトルもピリッとしていて、良いですね。

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