2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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座談会

社会の変化を反映した作品があり、興味を持って読むことができました。

今年は前年より多い、8,148通の作品が集まりました。今年は「家族」をテーマにした第2分野で離婚や里親といった今までとは違った家族関係をベースとした作品も目立ったり、デジタル化を取り上げた作品が第4分野で最優秀賞に選ばれるなど、社会の変化や意識の変化がこのエッセイコンテストにも反映しています。審査会で感じたことを審査員の皆さんに話し合っていただきました。

審査員プロフィール

家族との関係も、地域や社会につながっている。
加藤 第六回・第七回は応募数が前年を下回っていましたが、今回は前年より六五八点増え、前回少なかった第三分野の応募も増えました。そんな中で、第四分野だけが応募数が昨年より減っているのは残念ですね。
川名 今年だけでなく、毎年の傾向ですが、家族をテーマとした第二分野にはいい作品がいくつもありました。その反面、自分の住むまちや社会に目を向ける第三分野や第四分野となると、体験の乏しさが顕著に出ているようです。
板垣 「地域」とか「社会」というと難しいと感じたり、自分とは縁遠い存在だと感じてしまうようです。でも、自分の生活や家族と地域や社会は、本来は別物ではありません。家族で感じていることは、地域や社会にもつながっていくはずです。目の向け方次第で、どのようにも書けますから、意欲的にチャレンジして欲しいと思います。
福地 例えば、携帯電話やツイッター、デジタル化など、高校生にとっても身近なテーマと自分や社会との関わりを取り上げて、第三分野や第四分野に取り組んでほしいですね。
杉山 そのためには、まず問題意識を持つことの大切さからスタートしないといけないと思います。過去があって現在があり、それが未来につながっていくのですから、祖父母や両親の話から過去に注目し、自分が生きている時代を感じるものから現在を見て、家族と地域・社会とのつながりに結びつけていくという手法もいいかもしれません。
角野 すべてが自分の身の回りで完結しているような印象を受けます。第三分野や第四分野では、感情をあらわに出してほしいとは思いませんが、若い人が持つ荒ぶる感情やエネルギーをもっとぶつけてもらいたいですね。例えば、政権交代をはじめとして、これだけ社会で政治について話題になっているのに、政治に触れた作品が皆無に近かったのは残念です。
杉山 エッセイなんですから、上手にまとめるのではなく、荒々しくてもいいから、書く人の思いが伝わってこないと、作品に魅力を感じることができません。
加藤 体験が少ないから、書こうと思っても書けないのかもしれませんね。
複雑な家庭環境を反映した作品も目立った。
板垣 第二分野の「あなたにとって家族とは?」では、時代を反映した複雑な家庭環境や厳しい経験を垣間見ることができる作品がずいぶんありました。難しいテーマを若い感性で受け止めて、等身大の視点で素直に表現した作品は高い評価を付けたくなります。
角野 欧米では血のつながりにあまりこだわらず、離婚や養子・里親はそれほど珍しいことではありませんが、日本では血のつながりをすごく大事にしますよね。そんな親子関係が少しずつ変化しているのかもしれません。
川名 家族関係も社会の変化を映し込んでいますね。今年は十代の未婚の母が書いたと思われる作品があったり、定時制や通信制の高校に通っている子どもを持った高校生からの応募もありました。残念ながら入賞はしませんでしたが、多くの一般的な高校生とは違った視点で作品を書いたら、もっと面白い作品になったのではないかと考えると、ちょっと残念です。そんな方にも、もっと応募してほしいですね。
福地 今年は虐待や自殺といった今まではなかったテーマをストレートに書く作品もありました。その一方で、優しい気持ちで読める作品もあって、読み応えがあったと思います。ただ、海外からの作品が少なくて残念でした。海外に住んでいる人だと、日本にいる人たちとは違った視点で書けたかもしれません。
杉山 話は変わりますが、一時期はパソコンや携帯電話を使って書いた作品がかなりあったのですが、今年は手書きの作品が圧倒的に多かったですね。しかもきれいな字で書かれている作品が多くて、うれしくなりました。
板垣 パソコンで書く場合には、書いてからどんどん修正を加えながら仕上げていきますが、手書きの場合は書く前に考えをまとめないといけません。それが、優れた作品につながっているのかもしれません。
文章は書けば書くほど上手になる。
加藤 第二分野に限った話ではありませんが、自分の視点だけで書くのではなく、相手の視点からも見て、そこから出てくる矛盾を追及していくのも、エッセイの手法の一つです。自分の視点で書くことも重要ですが、そんなアプローチもあっていいのではないでしょうか。
板垣 答えを簡単に出さないでほしいですね。答えが出ても、「これでいいんだろうか?」ともう一度疑ってみることが大切です。日本人はディベートが下手だとよく言われます。自分を反対の立場に置いて、とことん突き詰めてみると、もっと広がりが出てくるんじゃないでしょうか。
福地 何度も推敲することは大変ですが、文章は書けば書くほど上手になるものです。一度ならず、来年も応募してほしいですね。同じテーマでもっと話を深掘りするのもいいでしょうし、同じテーマで違う分野に挑戦するのも面白いと思います。
角野 文章は書いていれば、どんどん上手になっていきますよ。最近の若い人は人と違うことを嫌がって、人と同じことをしていると安心できるようです。でも、エッセイは人と違った視点を大切にしてほしいと思います。
川名 毎年たくさんの作品を応募して、優れた作品も多く出している学校がいくつもありますが、そういう学校は先生が文章の書き方をしっかり指導されているのでしょうね。その時に、文章のうまさだけでなく、いろいろな体験をしたり、自分の考えをしっかり持てるきっかけづくりの指導もしていただけるといいですね。
杉山 文章の書き方で言えば、ここで改行をするといいのに……と思う作品がいくつもありました。そのために、どこに強調したいことが書いてあるのかがわからないこともあります。
加藤 文字数の制限があるために、改行をせず、つなげてしまうのでしょう。もう一度内容を見直して、すっきりさせた方が良くなるのに残念です。
 今日は長時間にわたって審査をしていただき、貴重なご意見もお聞きしました。ありがとうございました。
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