JR東総社駅。吉備路を通るローカル線であまり人の乗り降りも多くないこの駅の裏は今、紫、白、黄、桃などさまざまな色の花が咲き、行き交う人の目を楽しませている。 ここは二十五年ほど前は、雑草が生い茂り見通しが悪く、事故が起こっても不思議ではなかったということだ。それを亡き曾祖父母が草を刈り、整備し数本の花の苗を植えたのだそうだ。JRの方や地域の方にも喜ばれ、曾祖父母にとって駅裏の整備は生きがいになっていった。 一昨年、高齢の曾祖父は、体調を崩し、入退院を繰り返すようになり、駅裏に行くことさえ出来なくなった。 「花は枯れとらんか。水は足りとるか。」 と、うわごとのようにいつも言っていた。曾祖父を安心させるため代わりに祖父母が花の世話をするようになった。祖父母は花の苗を植えるだけでなく、桜の苗木を植えたり、紫陽花を挿し木にしたり次々と花を増やしていった。一口に花の世話といっても、草取りや害虫駆除、水やり等仕事はかなりある。水道がないため、川から水を運ばなければいけない。 「やめたいと思ったことはないの?」 と祖父母に尋ねると、二人は口を揃えて 「いつのまにか楽しみになっているよ。それに最近は近所の人も手伝ってくれているし。」 と言った。祖父母の様子を見た方が花を持って来てくれたり、草取りを手伝ってくれているのだ。私も休みの日に手伝ったが、暑さですぐにばててしまいそうだった。 「もう、やめてしまいたい。」 との思いが一瞬頭をよぎったが、誇らしげに咲く花々を見ると、そんな思いはどこかへ飛んで行ってしまった。 ここの花は、寄せ集めで決しておしゃれではないが、素朴な温かさがある。家族や地域の方と協力して、この安らぐ場所を守っていきたい。
第三分野は入賞した四つの作品が、ほぼ横一線でした。その中でこの作品が最優秀賞に選ばれたのは、自分が暮らすまちに対する愛着が伝わってきて、好感を持てるからです。曾祖父母や祖父母が花の世話をしている駅の光景や、それを見ながら子どもたちがすくすくと育っていく様子が目の前に浮かんできます。ただ、最後の段落の表現をもう少し工夫して、タイトルも「寄せ集めの温かさ」のようにひとひねり加えると、もっと良くなったでしょう。