2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
優秀賞 私の道しるべ
北陸高等学校 3年 近藤 愛

 六十七歳の父がピアノを始めた。正直、お世辞にも上手ではない。四分音符も八分音符も関係なく、自分に都合よく編曲して弾いている。時々、指の順番が分からなくなり「ここはどう弾く?」と勉強中の私に訊きに来る。
 物忘れが多くなった父に、母がピアノを勧めたら、強情な父が、珍しく同意したのだ。「よし、愛が大学を出るまでお父さんも、もう暫く元気で仕事頑張るぞ。」と、父は熱心に鍵盤を叩く。本当ならもう仕事を辞めて念願の山歩きが出来るのに、ごめんね、お父さん。
 父母と私は血の繋がりはない。生まれて間もなく私は両親の子供になり、うんと歳が離れた四人の姉兄達に、大切に可愛がられて大きくなった。自分は血が繋がらないと感じたことはなかった。ある日、偶然その事実を知り、驚きで涙がこぼれる私に、そっと母が言った。「産んでなくても私は愛のお母さん。神様が大切な愛をこの家に下さったんだよ。」その事実が私の心にすとんと落ちて消化されるまで、母は優しくその言葉を繰り返した。
 姉兄達が独立して、今、私は両親と三人暮らしだ。毎年家族でホームレスのおじさん達の為にじゃが芋を作って十年になる。「食物に困っている人がいて、持っている者が半分分けるのは、当たり前だよ。」と母が私に教える。「くず芋は家で食べて、良いのは全部おじさん達に送ろう。」毎年聞く父の言葉だ。半分ではなく全部送るのが我が家の流儀だ。でも、残りのくず芋で作る母のじゃが芋料理は本当においしい。おじさん達を思いながら同じ物を食べている幸福感かもしれない。
 手助けが必要な人にそっと寄りそう、両親の生き方から私は人としての本当の優しさを学んでいる。照れくさくて言葉には出さないけれど、父と母の姿は私の道しるべである。
 いま私は社会福祉士の夢に向かい受験勉強に励んでいる。両親に教えてもらった心を携えて、私も全ての人の幸福を願い、社会に貢献したいと思っている。

講評

 血の繋がりのない親娘が心を通わせながら生活している日常が伝わってきて、印象深い作品です。ホームレスの人たちのために十年にわたってジャガイモを作り、しかも、「くず芋は家で食べて、良いのは全部おじさん達に送ろう」という立派なご家族の姿に感銘をうけます。作者も、そんな両親の姿を見て、道しるべにしているのですね。その気持ちをいつまでも大切にしてください。締めくくりですが、最後の段落をはぶいて、別のエピソードを入れるとさらに良かったと思います。

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