2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
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審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
優秀賞 家族と呼ばせて!
愛知県立中村高等学校 3年 半田 朋子

 二〇〇六年冬、我が家に一人の乳児がやってきた。一歳半の小さな男の子だった。きっかけは、我が家に届いた一通の市の広報。「里親ボランティア募集」と書かれたそれは、冬休みの間だけ乳児院の赤ちゃんを預かって欲しいというもので、「子供が好き」という単純な動機だったが、私は両親にその話を持ち掛け、受け入れは決まった。
 初めは見知らぬ私達家族に施設から連れ出され、わんわん泣いていたが、家にあった車の玩具を目の前でブーン、と走らせたらぴたりと泣き止んで、鼻水と涙でぐっしょりと濡れた顔で初めての笑顔を見せてくれた。それが嬉しかった。昔私が使っていた玩具を押入れから次々と引っ張り出してきて、部屋中をまるで玩具箱のようにしてしまった程、たまらなく嬉しかったのだ。
 クリスマスには枕元のプレゼントに驚き、お正月にはびろーんと伸びるお餅にキャッキャと笑っていた。生まれてすぐに施設に入った彼にとって、家庭で過ごす全てが初めてだった。私にとっても沢山の絵本を読んだり、ずっしりと重たくなったオムツを替えたりと初めての経験ばかりで、大変なのに楽しくて、冬休みはあっという間に終わってしまった。
 施設に送り届けて、最後にぎゅうっと抱きしめて「ばいばい」と出入り口のガラス戸を閉めた。乳児は二歳になると児童養護施設へと移る。もう会えなくなるのだ。彼は戸の向こうで泣いてくれていた。彼の視線の先ではプライドが高く、何年も人前で泣いた事の無かった私が、情けない顔で声をあげて泣いていた。その時初めて気付いた。ほんの数週間だったけれど私は彼の姉に、そして親になろうとしていた。家族になろうとしていたのだ。
 今、我が家には小さな少年がいる。そう、あの時の彼だ。実はあの後移り住んだ施設を調べ、其方にお願いして長期休みは我が家で過ごす事になったのだ。血の繋がりは無い。戸籍も違う。でも私は、彼を家族と呼びたい。

講評

 「里親ボランティア制度」を使って、中学生や高校生の時に、こういう経験をすることは貴重だし、素晴らしいことだと思います。新聞やテレビのニュースで家族同士の争いなどが取り上げられることも珍しくない現代だからこそ、血がつながっていなくても温かい家族関係が構築されているこのエッセイを読んで、私たちも温かい気持ちになりました。そして、家に来た時の赤ちゃんの様子や、別れる時の悲しい気持ちがしっかり描かれていて、エッセイとしても良い出来だと思います。今もいい関係が続いていて、「彼を家族と呼びたい」という言葉で締められている点が、読後感をいっそうさわやかにしています。

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