2010年度 日本福祉大学 第8回 高校生福祉文化賞 エッセイコンテスト入賞作品集 36℃の言葉。あなたの体温を伝えてほしい。
学長メッセージ
審査員の評価と感想
入賞者発表
第1分野 人とのふれあい
第2分野 あなたにとって家族とは?
第3分野 わたしが暮らすまち
第4分野 社会のなかの「どうして?」
学校賞
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入賞者発表
第2分野 あなたにとって家族とは?
最優秀賞 光と手
福井県立盲学校高等部 2年 加地 理沙

 遊園地のジェットコースター。家族五人で長い列の後ろに並んだ。途中、暗い建物に入った。不意に足元が見えなくなり、私は立ちすくんでしまった。両親と妹はそのまま行ってしまう。暗闇の中に消えて行く三人の後ろ姿を見て、急に不安になる。視覚に障害がある私は、色の変化や段差、明暗が分かりづらい。「待って・・・。」不安の中から出た声はあまりに小さすぎて、前を歩く三人には届かない。
 その時だ。「こっちだよ。」ふっくらとして温かい柔らかい手が、私の左手をギュッと握った。弟だ。その瞬間、不安が一気に消え去る。「お姉ちゃん、こっちこっち!」暗闇から明るい声が身体に飛び込んで来る。妹だ。弾んでいた心臓が、少し落ち着いてくる。
 私が小一の時に七つ離れた妹が、小三の時に九つ離れた弟が生まれた。「お家のお友だち、早く産んで!」友だちや親戚の兄弟を見るたびに、幼い私は母にせがんだらしい。
 生まれたばかりのふんわりとしていいにおいのする妹を見た時、透き通った瞳で手足をバタつかせる弟を見た時、私は、この子たちを守るカッコイイお姉ちゃんになりたいと思った。
 五年前、目に障害が見つかった。私の様子を訝しんだ両親が、医者に連れて行ったのだ。死ぬわけでもないし、もっと障害の重い人もいると、何となく受け入れた。けれど、妹と弟が当たり前にすることが出来ない。二人の前で、見えない自分を見せるのが惨めだった。
 二人は大きくなり、私の目のことも自然と分かるようになった。「ここに段差あるよ。」「この字小さいけど読める?」何の迷いもなく、私に注意したり、尋ねたりする。見えないこと、出来ないことに囚われる私の心の扉をノックする。小さな二人が、大きなことを教えてくれた。暗闇の中にも光があって、そこへ導いてくれる温かい手もある。
 まだまだ格好良くなれないけれど、お姉ちゃんも心の扉がノックできる人になるよ。ありがとう。大好きだよ、二人とも。

講評

 作者と妹・弟との関係がうまく表現されています。書かれている内容は、飛び抜けてスゴイ経験をしているわけでも、感動的な体験をしているわけでもありません。しかし、「お家のお友だち、早く産んで!」や「私の心の扉をノックする」といった表現を交えた文章がとても上手ですし、余分な説明がそぎ落とされていてテンポよく読めるので、完成度の高いエッセイに仕上がっています。特に、最後の締めくくりがいいですね。「大好き」という言葉は第二分野ではよく使われている言葉ですが、「ありがとう。大好きだよ、二人とも。」の言葉から、作者の温かい気持ちがとてもよく伝わってきます。全審査員が高い評価をした作品です。

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